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ぼくの秘密の家庭教師⑨

ぼくはおやつを食べながら、今日の学校でのことをみんなに話して聞かせた。今日のおやつはバナナだったからみんなにも分けながら一緒に食べたんだよ。今までのバナナより数段美味しく感じた。
「ゴロク、昨日おとんやおかんが言っていたようにこれからが大切だ。何でも続けることが難しんだ。弱音を吐くんじゃないぞ。おれたちのゴロクはできるぞ。ところで、バナナはもう終わり?」
「クイミ、ごめんね。お母さんに言われているんだ。おやつをあげたらだめよって。みんな太っちゃったら大変よってさ。」
「ぼく、バナナあまり好きじゃないから平気だよ。」
残念そうにドッグベッドに行くクイミをよそに、ウニヨンは全般的にフルーツは嫌いみたいで喜々と言った。
「さっ、おやつを食べたら勉強始めるよ。」
いつも穏やかにジュナが言うと、ジッチが、
「勉強終わったら起こしてくれな。ちょっと仮眠してるよ。」
 今日の宿題も家庭学習も、昨日のようにジュナとウニヨンと楽しくできた。こんなに楽しく勉強ってできるんだなぁ。それにしてもクイミとジッチは寝坊助だな。本当によく寝るよな。
 金曜日は五校時だったから帰りも早かったこともあって、みんなとの散歩マラソンも早めにスタートした。呼吸を整えて走ることを考えて。まだまだ苦しくてついていくのがやっとだけど、みんなのアスファルトにあたる爪の音と息遣いを聞いていると、ペースが安定すような気がするし、みんなのピンと立ってピコピコ動く尻尾を見ていると苦しさを忘れることができた。ピコピコかわいいんだもの。特にジッチの尻尾は休まずメトロノームのようにぼくにペースを教えてくれているんだ。
 火曜日がやってきた。隼人くんと初めての散歩マラソンの日だ。
いつもより早めに勉強を切り上げて、ぼくらは楠公園へ向かった。
隼人くんはベンチに座って待っていて、ぼくらを見つけると飛び跳ねながら出迎えてくれた。
「かっわいいなあ~。よ~しよし、よ~しよし。」
みんなを平等に撫でてくれる隼人くんを、みんなは一気に気に入ったようだ。尻尾を見ればわかる。
「のびえもん、名前教えてよ。めっちゃ可愛いなあ。」
一通り紹介が終わると、ジッチが「ワンッ」と合図した。するとぼくよりも先に隼人くんが、
「よしよし、そうだね。始めなきゃね。のびえもん、おれは誰を連れて走ればいい?」
「そうだなぁ・・・」
すると、ジュナとウニヨンが隼人くんの脚にすりすりした。そっか若い二人が隼人くんと走ってくれるんだ。それがいい!
「隼人くんはジュナとウニヨンと走ってくれる?隼人くんは走るのが速いから若い二人がいいと思う。」
「おっかしいなあ。二人なんて言い方、人間みたいじゃないか。犬は二頭っていうんだぜ。ははははは・・・。それに、くんはいいよ。隼人って呼べよ。さっスタートだー。」
ちょっとくすぐったくて、そして嬉しかった。
 さすがにサッカー部のエースだ。全然ぼくはついていけない。すっごいなあ隼人くんは。いや隼人は。あっという間に四周走り終わってジュナとウニヨンと遊んでいる。いつか、ぼくも隼人のように走りたいな。
「おれたちは、ゴロクのペースが最高にいいぞ。気持ちよく走れるからな。」
とジッチが言うと、今度はクイミが、
「今までの積み重ねが隼人くんとは違うんだぞ。焦ることはないし、人と比べるんじゃない。比べていいのは昨日の自分だよ。」
『昨日の自分かぁ』うん!ありがとう!クイミにジッチ。ぼくはこれからもがんばれる気がするよ。いいや、ぼくは続けるんだ。お父さんやお母さんとの宣言を、そしてクイミたちとの約束を絶対守り通すんだ。
 やっと走り終わったぼくのところに、ジュナとウニヨンを連れて隼人が走ってきた。隼人のほっぺがポッカポカに赤くなっている。きっと、マラソンしただけではなさそうだ。ジュナとウニヨンともハアハアと満面の笑顔だ。
「のびえもん、こいつらかわいいなあ。すっごく楽しかったよ。今日はありがとう。」
「ぼくの方こそ。隼人と一緒に散歩マラソンができて嬉しいよ。きっとこの子たちも楽しくて嬉しいって言ってるよ。」
「面白いなぁ。のびえもんは。また、犬なのに“この子たち”って人間みたいに言うんだな。でも、変な感じしなくなってきた。おれもこの子たちのことが好きになったよ。また、木曜日も一緒いいか?」
「ワンワンワワーン!」
「もちろんだよ。ぼくよりも先に返事しているよ。ハハハハ・・」
「ほんとだ、人間の言葉をわかっているみたいだなぁ~。」
わかっているだけじゃないんだよ。み~んなしゃべることができるんだから。
 

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