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All about quiet funk (#12)

僕とスロー&ステディー

Slow and steady … 直訳するとゆっくりと、とどまってという意味になる。僕のバス釣りのベースは、この言葉に集約されているといっていいと思う。その考え方は、もちろん僕の考え出したものではなく、バス釣りを始めた当時のトップウォーターに関する本から仕入れたものである。

ニジマスやナマズのルアーフィッシングの延長線で始めたバス釣りが、大きく転換したのはトップウォータープラグで仕留めた初めての40cmオーバーだった。その日を境に、トップウォーターにまつわる雑誌や書籍を読み漁った。

スロー&ステディーを、意識して実践してみた。道具にこだわり、ゲーム内容をより特化して楽しむというスタイルが自分に合っていたのだと思う。季節や場所によって、クイックでスピーディーな釣りをすることもあるが、基本はいまも変わらない。

スローかつステディーであることの意味とはなにか?と問われると様々な思いが交錯するが、ひとことで言うならば、ゲーム内容の凝縮。

いつまでも心に刻むことのできる特別なバスとの出会い。その一部始終を脳裏に深く焼き付けるためのプロローグとして、スロー&ステディーアクションは最適である。

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実釣面においてはどうか?
季節を、春・夏・秋と分けて考えてみると…。

春。

大型のバスが比較的イージーに釣れる季節ではあるが、同じ時期でも平地と高所、朝と夕方では気温の違いは歴然である。シャローでの釣りがメインとなる時期だけに太陽光と気温差は水温の違いとなり、少しタイミングがずれるだけでトップに反応するバスは、驚くほど動きが鈍くなる。

この傾向は早春だけでなく、晩春にもある。スポーニングに関係しているのだと思うが、釣りをする前に判断するのは難しい。僕はストライクが皆目ないときや、出てものらない時はワンテンポ遅くするように心がけている。

夏。

梅雨が終わり、最高気温が30℃を越えるようになると、日中の木陰が面白い。限られた僅かな水域での釣りになるため、移動距離の少ないプラグが必要になる。昆虫を模したプラグがより気分を盛り上げてくれる。

セミが鳴きしきるもと、デカダンスのステディーアクションだけで20発以上出たことがあった。元々はこのようなシチュエーションを想定して作り上げたプラグである。

晩秋の水面でのバス釣りは、早春と同じく天候に大きく左右される。春の項目と重複することが多いので、朝夕の冷え込みが厳しくなる前の晩夏から初秋について記したいと思う。

大きな流入河川のある湖では真夏以上にインレットがグッドコンディションのバスをストックする。フィッシュイーターと化した彼らを相手にするには、ある程度スピーディーな釣りが要求される。

個体数の多さもあってスレにくいが、先行者がいると話は変わってくる。そんな時の逃げ場として、僕がよく選ぶのはアウトレット、リザーバーでいうとダムサイトのオイルフェンスやブイまわり。

この季節、立木の絡んだ岬まわりも確かによいが、人目につきすぎるのが難点。キーポイントは、水の流れのある場所である。アウトレット付近のブイや流木の下は意外と水はけがよく、大きなバスがサスペンドしていることが多い。

狙い場所を吟味して、アクションに強弱をつけ、ポーズを長くとり、スローにスローに詰めてゆく。息の詰まる釣りになるが、突然のドラマのお膳立てとしては悪くない。

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ここで、アクションを止めることの意義についても考えてみたい。バスにストライクさせるきっかけを与えるためとか、深い場所や離れたところから寄ってくるために必要な時間を作る…等々。想像すると限りがないが、相手が生き物だけに正解はない。

ひとつだけ自信を持っていえることは、見慣れない動きにバスは弱いということである。自分なりの間の取り方や、微細な動きに意識を注ぎ込むことによって釣れる魚は変わるように思う。

僕が最も心躍るのはバスが水を割って出る瞬間である。この釣りの一番面白い部分は誘いをかけるアクションにあると信じている。

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20年ほど前の夏の夕方…あたたかい雨が降っていた。

ロッド一本を握りしめ、リザーバーの奥深くのワンドを目指して30分近く歩いただろうか。ワンドは木々に囲まれているせいもあって、辺りは薄暗く感じられた。

神経を集中し、息を整えて、樹木の下にフラホッパーを放り込む。いつのまにか雨は止み、鏡のような水面にプラグの波紋だけが広がる。

波紋が消えたあと、ラインスラックを巻きとり、ほんの少しロッドを煽る。コポッと小さな音が響く。岩の陰からバスが近寄ってくる気配がした。

周りの音は消え、僕はゆっくりと数を数える。

1、2、3・・・10まで数えて、もう一度ロッドを煽る。コポッ・・・

 “ガボッ” 突然、水柱が上がり、ロッドが引き込まれる。頭の中が真っ白になる。後のことはよく覚えていない。

スロー&ステディーという言葉を耳にするたび、この時の情景が、なぜか蘇ってくる。


(別冊つり人Vol.172『トップウォーターの戦略』2003年 寄稿分より・一部加筆訂正)

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