「Days_mobius」第2話

砂漠の砂が部屋に吹き込み、床には白い砂が撒かれている
部屋には二人の男がいて一人は
焦げ茶色の長いソファーに片足を載せながら
タバコを吹かしている
頬から下は黒い髭で覆われ肌は日に焼けて黒黒としていた
「連絡は?」と聞く髭の男は
日が照りつける砂漠を見ながら
頬にある傷口をゆっくりとなぞっている

長髪を後ろで結い、清潔感のあるもう一人の男は
日の当たらぬ部屋の隅で静かに立っている
顔にはまだ幼さが残っているが凛とした姿には近寄り難い雰囲気があった
彼は目を閉じたまま静かに首を振った

髭の男はもじゃもじゃの髪の毛を何度か手ぐしでとかし
引っかかるたびにブチブチと絡んだ髪の毛を力任せに抜いていた
手を払い、抜けた髪の毛を床に落として大きな欠伸をしながらソファーの上で伸びをした
長髪の男からは筋肉が引き締まり徐々に硬直してゆき突然堕落する腕と脚がソファーからはみ出て見えた
髭の男は顎の髭を何度かさすり
「じゃ行くか」と言う

砂漠の上で小屋が盛り上がり大きな車両に変形する
巨大な車輪を回転させ砂を撒き散らしながら
髭の男と長髪の青年を乗せた車が砂漠を走る

走行中、砂漠の一点を髭の男が見つめる
猛獣が獲物の気配を察知したように強く集中している
長髪の青年は誘われるように同じ方向を観察したが
砂だらけの砂漠が広がるだけだった
車は通り過ぎ髭の男は何も言わずソファーに横になる
長髪の青年は部屋の隅で静かに目を閉じている
その姿は何も起こらないことを願っているようにも見える

***

夜の街は霧雨の音がしている
照明は消され人の気配がなかった

No.4に管理された人々は眠らされ朝を待つ
黒く濡れた道路には髭の男と長髪の青年しかいなかった
道路脇のベンチに座り煙草を加える
雨から守る左手の中で火を灯し
ゆらゆらと煙が上がった
白い煙草にはぽつぽつと灰色の染みが出来て
茶色の輪郭を残し消えていった
長髪の青年はベンチの後ろで夜の雨を眺めている

コツコツと闇の中から音がする
音のするほうへ二人の目が動くと
足音の主が二人の前に現れた
全身をプロテクターで覆い、足の両脇に銃が装備され背中には二本の剣が担がれている。腹の下にはいくつかのアイテムがセットされていた
いつでも人を殺せる用意があることが見て取れた
立ち姿から女性だと分かる
「相変わらず無防備だな」と髭の男が嫌味を言う
「アレは?」と相手にしないプロテクターの女
長髪の青年が闇に向けて指を差す
遠くに巨大な車の影がある
プロテクターの女が指示を出すと複数の人が車に向かう気配を感じた
プロテクターの女はそこにとどまり二人を見ている
雨がプロテクターの上を滑るように流れている
髭の男が加えていた煙草を道端に飛ばすと、じゅうと煙草の火が濡れた
掃除ロボットがすかさず回収していく
霧雨に全身を濡らして文句も言わず仕事をしている

「ある人間を探している。成人のチキュウ人だ」プロテクターからは表情が見えない
「成人?おえらいさん達の趣味が変わったのか?」
たっぷりの髭に水滴がキラキラと付いている
「そのチキュウ人の男は何らかの原因で管理できなくなっている」
「そりゃ大変だな。一大事だ。早急に手を打たなきゃならないだろうな。だが、俺たちは人探しを趣味としていない」髭の男はあからさまに嫌がった。この手の話は面倒なことが経験上知っていた
「上からの命令なのだ」
「お前の上なだけで、俺たちは関係ない。だいたいそいつは、もうロボットに殺されてるだろうよ」軽い口調とは裏腹に髭の男は腕を組み断固として対抗する姿勢だ
「だったらお前らなど頼っていない。この10日間見つかっていない。ロボットが見つけていれば記録が残る」殺したという記録が。
髭の男は暫く髭をかいていたがたっぷりとため息を吐くと
「見つけてこいと?」と重く唸るように聞く
「船を一隻用意するらしい」
「は!?船を!?それは自由になれるってことだよな!?」大人が大声ではしゃぐ声が夜中に響き渡る
「お前だけだ。ビーフ。そいつに後を継いでもらう」とプロテクターの女が長髪の青年を顎で指す
「ハッハッハ!残念だったな」とビーフは笑顔で言う。満面の笑顔だ。
長髪の青年はじっとプロテクターの女を見つめる
「だけどよ、そいつはいったいナニモンの何だよ?もう死んでるかもしれないぜ」
「生きていても死体でも構わない。とにかく捕まえて来るんだ」
そう言うとプロテクターの女はビーフがこの件を請負うと確信し通信を始めた
長髪の青年はその姿を凝視する
脳で話しているため会話は分からないが管理局の上層部に情報開示請求をしているのだろうと思った
いつの間にかプロテクターの女の手には一枚の写真があった
「デイズという男だ」
ビーフは写真を受け取り青年に見せる
「知っているか?メビウス」
メビウスはさぁと短く首を振った

***

ブロロロロロロ
デイズとコバルトはバイクに乗り夜の砂漠を走っていた
「デイズ、”これ”は本当にロボットに見つからないんだろうな?」後ろに乗っているコバルトがデイズに話しかける
コバルトは両羽を頭の後ろにして足を組んでいた
「分からないけど、やるしかないよ」デイズはバイクを操縦しながら前を向いたまま答える
ケプラー星人がくれたバイクは運転席と後部座席が離れ、全体を透明な硝子のような物で覆われている
風の音はうるさくないし砂も顔を打ち付けることはない。車輪だけが外に出ていてめいっぱい砂をかいている
デイズ達はケプラー星人別れる際にNo.4のロボットから身を隠せるバイクを譲り受けた
デイズとコバルトが礼を言うと
彼等は、「いくらでも作れるから問題ない」という事だ
ただ、「もし業者に合うことが出来たら連絡が欲しい」とも言われた
彼らにとっては情報収集が出来るかもしれないというメリットもあったのだろう

「デイズ止めてくれ」とコバルトが言う
デイズは急いでブレーキを踏み停車する
辺りをきょろきょろと見渡し警戒する
「ロボットか!?」デイズは自然と声を落としている
コバルトは外に降りてゆき「ションベンだ」と用をたしている

デイズは安心したのか「俺も」と言って用をたした
幾千の星の下、立ったまま用をたしていると
広大な宇宙空間へ放出され誰も届かない所へ、何億光年もかけて浮遊しいるような気がしてくる。

砂漠に染み込んだ尿はろ過され地下水となり
川になり海へとたどり着き蒸気して空気に乗り
宇宙空間へ放出され誰も届かない所へ何億光年もかけて浮遊しやがて同じ記憶の原子同士がぶつかり重力が生まれ側にあるガスや塵を巻込み恒星となっていく。そんな様を思い浮かべ自由に空想が出来る喜びを知った

全て出し終えた頃、前方に砂埃がモクモクと立ち上がってきている
「デイズ!」
コバルトに呼ばれ、体が反射的にバイクへと動いた
2人は急いで乗り込むとケプラー星人から教えてもらった通りに操作しバイクごと地中へと潜った
暗闇の中天井のスクリーンには巨大車輪を回転させた車が乱暴な音を立てて通り過ぎる
夜中に起きていると言うだけで後を追う価値があるとデイズは考えていた
コバルトがデイズの肩をたたき
「今の奴等、セドナ星人に会いに行くらしいぞ」とクチバシをニヤリとさせている
「例の業者かな?」とデイズが言うと
「だろうな」とコバルトが両翼を組む
デイズは順調な運びにご満悦なコバルトを見ながら
今俺達は自分がした用の中に潜っているのかと、どうでもいいことを考えていた
そんな中、爆撃が襲来した
ドゥオオオオオオオオオン!!!



























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