「Days_mobius」第1話

昔むかし、ある所にチキュウと言う惑星がありました
ある時このチキュウに生命体が誕生し
単細胞生物から始まった生命は様々な生態を形成し進化を繰り返してゆくのでした

人間が誕生し生態系の王者となった後は
白い紙に黒いインクが染みていくように瞬く間に増殖し
増えすぎた人間は巨大な船に乗り無限の宇宙へと飛び立つことになります
優れた様々な人工知能を搭載した宇宙船はエネルギーをはじめ、衣食住を快適に過ごせるよう全て自動化しております

この宇宙船の名はNo.4と申しまして
なぜNo.4かというと宇宙船に大きくそう書いてあるからです
No.4はチキュウの生命体を乗せて宇宙を漂い
環境の良い惑星を見つけては停泊し残念な結果と共にまた旅立ち、また停泊し旅立つ

その憂鬱な繰り返しの中でNo.4の中は訳ありな異星人達も潜り込み、今は宇宙をクルージングする無料豪華客船の様になっていました
今回、このお話の主人公であるデイズはこのNo.4の乗客でありチキュウ人の生き残りであります
では、デイズがどんな人生を歩むか少し見ていきましょう…

***
でかい真っ白なオオカミが俺に目掛けて走ってくる横になっていた俺は急いで立ち上がろうとするが体が全く動かない
気づくと、岩のような人間が俺の体を押さえつけている
またどこかの星から亡命さながら乗り込んできた異星人だろうか
この船はチキュウ人の物だ、厚かましい奴め、とっとと降りやがれ
怒鳴ってやりたいが声が出てこない

オオカミは俺の顔の真横で飛び跳ね走り去っていく
飛び跳ねた時オオカミのお腹の毛が顔を撫でた
洗濯機に入れ忘れた靴下みたいな匂いがする
立ち去ったオオカミは向きを変えまた全速力で駆け寄ってくる、また顔の真横で飛び跳ね走り去っていくお腹の毛が顔を撫でるオオカミは何度も繰り返し岩人間は俺から降りない

何なんだよ…

目を覚ますと酷い頭痛に顔を歪める
「痛…」
酒臭い匂いが自分の息だと分かりげんなりする。顔を箒が撫でる
驚いて跳ね起きると道を掃除するロボットが俺をはいていたらしい。道を開けるとロボットは道の端を掃除ながら通り過ぎていった「ったく」すぐ近くにベンチがあったので座りタバコに火をつけ二日酔いの頭で昨日のことを思い出す

昨日は仕事で小説本を見付けたのでbar ageteに行ってプルートでも飲みながら本を読もうとしていた

仕事が終わり、その足でbar ageteへ入りカウンターの空いている席へ座った
店内は決まって汚れていて、正確には汚れた塗装をしていて赤い絨毯が敷き詰めてある
この赤い絨毯を踏む感覚が既に酔いを誘っているようで好きだ
照明は暗くしてあり女と男がささやきあっているような曲が流れている

プルートをすすると喉を熱くしながらアルコールが通り過ぎて今日の疲れが溜息に乗って出てきた
「ねぇ」とオーロラのような女に声を掛けられた「隣に座っても良いかしら?」とか言ってたから「どうぞ」とゲップを抑えながら答えた
テーブルに置いておいた小説を読み始めると彼女は興味深そうに本についてやたらと質問して来た気がする「RAINBOW MAN」とタイトルだけ教えて後は本に集中した。彼女との会話を楽しんでも良かったが、その日も酷く疲れ、気を使える体力は残ってなかった。ただ酒に飲まれていたかった。オーロラ女は、いつの間にかいなくなっていた。隅の方へ目をやると岩のようなヤツと仲良く飲んでいたからそのあとは気兼ねなく本を読めた

確か…二杯目のプルートを飲み終えた時、酒を差し出されたんだ、あの岩人間に。くれるというからその酒を素直に飲んでしまった
普段なら知らない奴から進められた物など飲まないが本に夢中になっていて周りのことがどうでも良かった
案の定ひどく酔いが回りその辺りから記憶が曖昧だ既に本が無いので盗まれたことは分かっている
「くそ…読み途中だったのに」紙の本など滅多に見つかるものではない、小説など噂では聞いたことがあるが本物は初めて見た、物語を作る人間が昔はいたのだと改めて実感した

この船で生まれた人間には生まれてすぐマイクロPCを脳に注入する。必要な知識が必要な時は脳の発振器からNo.4のAIへ送り直ぐに最適なデータが脳に送られる、初めての作業でもすんなりと完成出来る。全知全能のAIのお陰で困ることなど無いのだと誰もが思っていた

デイズはシャワーを浴びに自分の部屋に戻ることにした。立ち並ぶマンションに隠れるよに背の低い団地が並んでいる、その一室が彼の住む部屋である
玄関を開けると居眠りしていたことを隠すかのように家電達が一斉に動き出した
デイズは服を脱ぎシャワー室に入ると程よい暖かさのお湯が出てシャワーが終わると好みの硬さのタオルが出てくる
ベットに腰掛けると丁度良い濃さのコーヒーが丁度良い温かさで置いてある

コーヒーを手に取りぼんやりしていると窓の外で爆発音がした。室内が揺れ体に衝撃波を感じる。思わずベッドから落ちそうになりコーヒーが床に溢れたすぐさま掃除ロボットが動き出す
外は噴煙が大きく立上がり人々の悲鳴がする
デイズが窓の外を除くと巨大な恐竜の様な生き物がいる
黒い皮膚に真っ赤な模様がまだらに付いている
その向かいには銀色の人型をした生き物が
銃のようなものを持っている、青色の閃光が銃と恐竜を繋ぐ
すぐさま爆発音がして恐竜から噴煙が上がる
焦げ臭い匂いが周囲に広がる
怒り声を上げる恐竜を置いて銀色の生き物は短い電車の様な乗り物に乗り、土埃を上げ地底へと潜っていた
恐竜が穴に駆け寄ると何処からともなく巨大ロボットが現れた恐竜とロボットは体格差で言えば互角だ恐竜はロボットを見た途端走り出した
ロボットから逃げるように走り出し
見る見る小さくなっていって人間サイズになって逃げる恐竜を見下ろすロボットは目が赤くなり一瞬だけ光った

次の瞬間には恐竜は消えて黒くなった燃えカスが残っているだけだった
直ぐにデイズの脳にアナウンスが流れる
「市民の皆さん、お騒がせいたしました、ただいま未登録のエイリアンを駆除いたしました。今後も市民の安全を私達がお守りいたします」ロボットは雄大に浮かび上がり何処かへ消えていった
ロボットの肩にはNo.4と書かれていた

団地からワラワラと人が出てきて事件現場を見ながら「あーでもないこーでもない」とはなし声が聞こえてくる。デイズも見に行こうと雑に靴を履き玄関を開けると人が立っていたので思わず「あっ!」と声が出てしまった
もう少しで頭から突っ込むところだった。びっくりして仰け反り顔を見るとオーロラの女が立っていた「あんた…」
「落とし物を届けに来ました」と手には本が握られていた
デイズは混乱した頭中で色々な疑問が湧き出るが入口で詰まっている為言葉が出ないでいた
口を半開きにして見ていると
「デイズさん、あなたの息子さんが何処にいるか分かりました」とオーロラ女が言う

「息子…」

「はい、メビウスくんの居場所が分かったのです」自分に息子がいたのか?
いや、いた気がする
頭の中に濃い靄がかかっている場所があり、今、メビウスと聞いて少し靄が晴れた
膝の上に座り楽しそうに笑っている小さな男の子がぼんやりと見えた気がした
一方で、目の前のオーロラ女を見ながら感情が見えそうで見えない彼女はロボットなのではないかと考えていた
全身が虹色で常に揺らめいていて大きく見開いた目に吸い込まれそうになる、グラグラと脳が揺れているようで魂が抜けそうになる、まぶたが重くなり頭を振る、膝を付き薄れる意識の中で
「息子さんがどこにいるか、先程のケプラー星人が知っています…」とだけ聞こえた

…酷く頭が痛い

体の方も全身が砂になったかのように重く疲れがこぼれ落ちそうだ
ゆっくり目を開けると天井が見え自分がベッドにいることが分かった
グラスに入れた氷が少しずつ溶けていくように意識が静かに戻って来る
ただ何かがおかしいと気づく。ベッドに横になったまま漠然とした不安が大きくなっていく
なんだ、何かがいつもと違う
そして、あれ?と気がつく

時間が分からなくなっている

今何時なのかが分からないのだ、いつものように時間を気にした直後に何時何分と頭のマイクロPCが教えてくれるが、応答がない
マイクロPCが動かないなど聞いたことがない。ふと、先程の巨大なロボットを思い出す
「未登録のエイリアンを駆除いたしました」
まずいとどうすればいいかが入り混じって落ち着いて考えられない
オーロラ女の笑顔が脳裏に浮かぶ、その後に膝の上の息子が笑う
メビウス…心のなかで呟く
今まで何で忘れていたのか。いや、忘れていたわけではない、思い出そうとする度大切な記憶が遠く空の向こうに消え巨大な雨雲が立ち込めた
巨大なロボットが空の向こうから来るかもしれない駆除されてたまるものか
俺は息子に会わなくてはならない
デイズはリュックに荷造りをし急いで外に出た
宛は一つだけあった
ケプラー星人の軍隊は砂漠にいると聞いたことがある。bar ageteに来る酔っぱらい客は酒のつまみに自分以外の異星人に対して嫌な噂をするのが好きだ、そこでケプラー星人対セドナ星人の話はよくされていた

噂によると惑星を侵略しながら増殖し続けるセドナ星人にケプラー星も侵略されケプラー星人は全滅の危機にあったという。数少ないケプラー人が星を捨て宇宙の何処かで生き延びているという事だ。
そしてこの舟の中に逃げてきたケプラー星人達の前に、これまたこの舟の中に乗込んだセドナ星人の残党と出会ってしまい抗争が再開したと聞いている
セドナ星人がこの舟を乗っ取るとも聞いているが定かではない
まさか本当に抗争をしていたとは思わなかったが間近で見て真実味も強くなった

デイズは町外れまでいくことにした。家を出てすぐタバコを忘れたことに気がつく。周りを警戒しながら、路地裏にあるタバコの自動供給機のボタンを押すが反応がない。もう一度押そうとして手を止めた

マイクロPCが動いていないから反応しないんだとようやく気づく。デイズは足早にその場を立ち去った人目を避け下を向いて歩いていると
「キミ、」と声を掛けられた
ビクンと体が緊張するのが分かる。恐る恐る振り向くと青色の鳥がはぁはぁと息を切らしている
「はい…?」返事をすると
片手、(片羽根というべきかを)上げてちょっと待ってと息を整えている
青色の鳥は大げさに深呼吸をしてから「やっと追いついたよ、これ、落としたよ」と本を差し出してくれた
いつの間に落としたのか、急いでいて気が付かなかった
「あ、どうもありがとう」
「どういたしまして。これから砂漠に行くのか?デイズ」とニヤリとして聞く
「どうして…」ともごもごしていると
「俺の星では言葉がなくても思っていることがわかるんだ」と大きなくちばしをパクパクしながら得意げに話す
「おまけにマイクロPCがイカれてんな。これじゃ、ほとんど使いもんにならないね」と羽でデイズのおでこをトントンと小突く

デイズは驚きながらも、この怪しい鳥から早く逃げようと、もう一度ありがとうと言って歩き出すと「砂漠まで乗せていくよ」と青色の鳥が言う「え?」とほとんど素振りのように振り向いてしまう
「コバルトだ。よろしく」と孔雀の様に羽を大きく広げ挨拶をしてきた

***

「うあぁぁぁぁぁぁ!」
「ハハハ、気持ちいいだろ!」
青色の鳥のコバルトは風に乗り前方を見つめているコバルトの両足は大きなハンガーのような椅子を掴んで大空高く飛行している
風が体を後ろへと引っ張り口や髪の毛の中に砂がたくさん入ってくる
デイズは椅子にしがみつき叫んでいた

彼らが飛行している砂漠は都市がすっぽり入る大きさで見渡す限り砂だった
目立った建物や山などはないがコバルトはどこにケプラー星人があるのか分かっているのか迷いなく飛んでいた

夕日が雲を紫色に染め気付けばあちらこちらに星が光っている
ここが宇宙船なのだというのを忘れてしまいそうになる
冷たい夜風で息が白くなり始めた頃コバルトは下降を始めた。砂漠とわかっていても暗闇の中に下降するのは底なしの穴に飲み込まれるようでデイズはひぃと悲鳴を上げた
コバルトが椅子を折りたたみリュックにしまっていると地震がおきた。立っていられないほどの揺れで尻餅をつく
すぐ近くで砂が地面に吸い込まれているのを見て巨大な地底怪物が大きな口を開け出てくるのでは無いかと必死に逃げると突然ライトで照らされ「動くな!」と声が飛んだ。ダルマさんが転んだよろしく走る格好で止まった
「デイズ大丈夫だ」とコバルトが駆け寄り
光の方を見ると小さな電車のような乗り物があり、そこから銀色の人間が出てきた。ケプラー星人だ「どうやってここまで来た?」とケプラー星人が言う
コバルトは落ち着いていて陽気に話している
「どうやってってこの俺の羽を使って飛行してきたわけだが、問題あるのか?」
ケプラー星人の表情が逆光のせいか分からない「No.4に住居登録していないのか?」とケプラー星人が言う
「ここにいるデイズは生まれも育ちもこの船なんだが、どうした訳かマイクロPCが壊れているらしい」とコバルト
ケプラー星人はデイズを見たが何も言わなかった
デイズは駆除されやしないかとビクビクしながらコバルトとケプラー星人を交互に見る。デイズに構わずコバルトは続ける
「俺は最近乗込んだ乗船パスは何処かで落としちまったらしい」とポケットの中が空という仕草をした「二人とも未登録者だと言うわけか」ケプラー星人「ちょっと前まで登録者だ」とコバルトが突っかかる。ケプラー星人はしばし沈黙し、空を見た後、電車の中に招いた。コバルトに背中を押されてケプラー星人の乗り物に入った、直後ドアが閉まり真っ暗になった。途端に地震が起こりデイズはとっさに近くにあったパイプに捕まる
コバルトも何処かにつかまっている
ケプラー星人が「今潜っている」と暗闇から声がする
「潜って何処に行くんだ?」とコバルトが聞くと「声を出すな」とケプラー星人が言う
声に緊張感があった
天井が明るくなり地上の映像が映し出されている。夜の闇から巨大ロボットが2体上空を飛行してデイズたちの上を通り過ぎた
「未登録の音声データを調べている」と暗闇から銀色に光るケプラー星人の目がデイズ達を見ながら言う
「この時間に起きている者はNo.4の管理下にいないものだけだ」と言いながら明かりを付けてくれた
車内は外で見ているより意外と広く感じた壁に無数のパイプが縦横無尽に走っているがパネルやボタン等の操縦に使いそうなものはなく、どうやって動いているのか分からなかった
「とにかく、私達の基地へ来てもらおう」そう言うとデイズ達を載せた乗り物は振動し地中深く移動していくのが分かった

「このまま潜っていったらこの船の心臓部へ行けるんじゃないのか?」と誰に言うでもなくコバルトが言った
ケプラー星人は黙って立っている
デイズもNo.4の全体像を把握していないが大きな舟の形ではないかと思っている
子供の頃は友達と宇宙の形やNo.4の形などの想像をして話していたが、いつからか興味を失った
満ち足りた生活の中で色々な事に興味を失い、生きる意味も無くしていた。友達の顔も思い浮かべることも出来ない

ガタン!と大きく揺れケプラー星人の乗り物は止まった。壁が開き目の前が明るくなる
中は広い空間がありデイズが住んでいる団地の敷地がすっぽり入る大きさだ
何にもない広い空間をぼんやり見つめて
「ここは何なんですか?」とデイズが聞くと
「答える必要はない」とケプラー星人が銀色の瞳で見てきた

コバルトは何も言わずじっとしていたが、それも飽きたのか
「なぁ、メビウスと言う子供を探しているんだが知らないか?デイズの息子なんだ」とコバルトがデイズの肩に羽根を置いて訪ねる
ケプラー星人は暫く黙っていたが、急に膨らんだと思うと二人に分裂した
一人のケプラー星人が
「まぁこちらに来て座りませんか?」と言う
物腰の柔らかいケプラー星人は先程のもう一人のケプラー星人と違って緊張感がなく話しやすそうだ

彼に誘われ二人はいつの間に出てきたソファーに座る
もう一人のケプラー星人は分裂を続けながら歩き今は5人になっている
彼らが向かう先に巨大な機械がいつの間にかあって分裂したケプラー星人が次々と機械の中に入っていく
デイズの視線に気づいた物腰の柔らかいケプラー星人は向かいのソファーに座りながら
「まぁ、充電みたいなもんですね」と答えてくれた「えっと、子供をお探しなんですね?」とコバルトとデイズを交互に見て言う
「僕の息子なんだ。メビウスと言う名前なんだけど」歳を伝えようとして分からない自分に閉口した「そうですか、それはそれは大変ですね、それでおたくは?」と聞くケプラー星人はなんか怪しいなお前らという心の声が聞こえてくるようだった
コバルトには実際に相手の心が聞こえているのではないか?と彼を見ると、ケプラー星人を見ながら
「デイズ、俺が考えていることが分かることは黙っておいてくれ」と頭に聞こえてきた。デイズは黙って頷く
「実は俺の息子を探している。この間舟に乗り込んで、その日の夜にベッドからいなくなっていた。息子も息子の乗船パスもだ。管理局に問い合わせしたが、異常記録はないと言われた。そもそも息子の登録記録が無いと言ったんだ!」
ケプラー星人は暫く黙って止まっている
デイズはこの一時停止のような行動はケプラー星人が考える時のクセなのかもしれないと思った
「…奴等かな」と呟くのでデイズとコバルトは思わず耳を傾けた
ケプラー星人は失礼と言ったあと
「これは憎きセドナ星人への情報を調べている中で分かったことですが、どうやらセドナ星人はこの舟の子供達をさらって兵隊に育成していると言う情報があります」
「育成…」デイズどコバルトは同時に声が漏れる

奥では機械の前でもう一人のケプラー星人が分裂を続けている
デイズはあの機械に入った後はどうなるのかと気になるが今は考えないことにした
物腰の柔らかいケプラー星人はまぁ待てと言わんばかりに手を上げ二人を制止した
「ただ、子供をさらうのは奴らではなく専門の業者がいるらしいのです。」
「何処に?」反射的にコバルトが聞く
ケプラー星人は銀色の指を下に向け「この砂漠に」と答えた。

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