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村田佳生リコーダーコンサートシリーズ8

2020年1月17日、関西在住のリコーダー奏者である村田佳生さんがリサイタルを開いた。演奏会フリークでない私がその情報を入手したのはほんの一週間前だったが、運よくチケットを入手することが出来た。

村田さんは関西ではリコーダーの王子と呼ばれているのだそうだ。今は少し落ち着いているが昔はがっつり金髪に染めていたらしい(写真は演奏会チラシより拝借)。実物はこの写真よりもさらに男前で、ソフトな物腰はまさに王子さま。当日の会場、舞台右手3分の1に妙齢(かなり年上)の女性ファンが陣取る人気ぶりだったが、グッズの販売とか親衛隊とかといった物々しさはなかった。

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この日演奏されたレイエ・ドゥ・ガン(Loeillet du Gent)のリコーダーと通奏低音のためのソナタは、レイエが12曲ずつ4つの曲集として出版したもののうちからの抜粋。村田さんは2014年の録音を2018年夏にCDで発売しており、当日はその中から数曲が演奏された。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07GBZZYR7/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_7gmjEbHWQGJSK

舞台トークの中で、今回のレイエの演奏曲はCDからの抜粋であるものの、別のプロの方々とのアンサンブルであり、あれはあれ、これはこれとして、CDの演奏と違うものとして聴いてほしいとのコメントがあった。自分はそれほど聴き込んでいなかったけれども、ガンバの頼田さん、チェンバロの三橋さんの通奏低音は素晴らしいもので、王子の演奏を力強くサポートしておられた。

また村田さんはレイエの曲について、リコーダーを演奏する方々にとっては入門曲的に取り扱われることも多いが、吹いてみると旋律のとらえ方、通奏低音の配置などよく考えられて作られていることが分かる、とも語った。それを聞いて全く唐突に、利休道歌の「稽古とは 一より習い十を知り 十よりかへる もとのその一」を思い出した。利休の時代を生きた豊臣秀吉は、天正使節団が演奏した当時のヨーロッパの音楽を気に入り、繰り返し演奏するよう所望したと伝えられているが、その100年後の時代を生きたレイエが利休道歌を学んだとの記録はあるのだろうか…(注)

閑話休題。当日の演奏はロッテンブルグとブレッサンのコピー(斎藤氏制作、a=407Hz)を使用されたが、CD録音はチェンバロの都合でa=395Hzでの演奏とならざるを得なかったことについても言及があった。リコーダーのオリジナルに近いピッチでの演奏なのでいい音で吹けたらいいなぁ、と仰っていたが、アンコールで年末に亡くなられたロベール・コーネン氏(CDのチェンバロ奏者)に捧げられた作品4の4の第一楽章の最終音は、今でも耳に残っている。奇しくも阪神大震災から25年目の1月17日の夜、激震地のひとつであった甲東園でこのような音楽が聴けて良かった。


(注)利休道歌の成立時期については諸説あり、筑波大学・石塚修教授の論文(リンク先『利休教歌の系統と展開 - 百首歌を中心に -』 )を参照されたし。 
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=9498&item_no=1&attribute_id=17&file_no=1&page_id=13&block_id=83


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