バトラー
林真理子先生の「私はスカーレット」を読み私はレットに立場でかきたくなった。非常コミカルなに文章で頭に残ります。コピーしないように気を付けていますが、その時はお手柔らかにお願いします。
レットは玄関に立ち尽くす女の叫び声も、もうどうでもよかった。取り敢えずその場を一刻でも早く立ち去る事だけを考えていた。
私はベル・ワトリング。自分の事を、決していい女だとは思ってはいない。だって、この南部の女性たちからは汚らわしい職業の女としか思われていないのだもの。街を歩いていて、アトランタの町の夫人たちとすれ違おうものなら、彼女たちは建物の方へ向き直り、私に視線を送ることさえしない。それほど私はこの町の嫌われ者なのだ。でも自信を持って言えること、スカーレットよりも純粋な心を持っている。なぜって、レットと出会って以来、ずっと彼のことを愛し続けている。でも、レットにとって私は、ただの商売女。気の向いたときにやって来て、一緒に酒を飲み、たわいない話をして、気が向いた時にだけ、私を抱くのだ。そして、たんまりと店にお金を落としてくれる。まっ、上客というわけ。実際は、私にもよくわからないのだけれど、本当は「ベルの店」は、レットがオーナーだという話も聞いている。そんなことはどうでもいいことで、わたしは「ベルの店の」女主人として世間では知られているのだ。
レットが、初めてスカーレットのことを私に話をした日、焼きもちを焼いたわけではないけれど、レットが幸せになるとは思えなかった。とても可愛い、顔かたちをしているらしいが、決して心根の良い娘だとは思えなかった。それでもレットは、少年のように興奮して私にスカーレットのことを話した。
「随分ご執心のようだね。でも、あんたには似合いの女だとは思えないよ。」
「焼いているのか。ベルと同じ世界の子ではないから、君には彼女の魅力なんて分かるはずはない。年が親子ほど違うのだから、恋愛の対象に等ならないよ。お前のように、私を商売相手などと思ってなんぞいないさ。」
「まぁね、私はこの道ウン十年、ウン十年のベテランだからね、男と女のことは感がいいんだ。直観ってやつ。それと近頃、客たちの運勢も見たりしているからね。」
「運勢占いもするのか。手広いじゃないか。」
「だから、分かるんだよ。決してその子と居て、レットに幸せな未来なんてないよ。」
「私は、彼女に恋愛感情何て持つわけないし、持たないさ。」
「若い女だろう?まして生きのいいじゃじゃ馬っていうなら、レットが放っておくはずないさ。誰よりも私がいちばん知っている。」
「中々、信用があるのだね。じゃじゃ馬はベルだけで充分さ。心配するな。」
いつものように、抱き寄せて軽く頬をつねるのだった。
いつだったか忘れるくらい前に、昔の忘れられない女性の消息を知ったレットは、興奮気味にわたしに話をした。
「テキサスの砂漠のような所にエレンが居るらしいんだ。酒場で「砂漠の花」だと、飲んだくれ男たちが話していたのを聞いた。
私はエレンが、どんな女か理解できていなかった。今迄に話に聞いた事も無い女性の名前だった。今は大きな農園の主婦なのだそうだが、そんな主婦にどんなかわりがあるのだろうか?それからというもの、レットは大きな綿畑を持つ農場を探し廻っていたのだ。私には世の中が、どんな風に動いて行くかなんてちっとも分らない。もしかしたら、特別大儲けできる話かもしれないとワクワクした。だって、大儲けするたびに、大きな宝石だったりドレスなど、私にだけでなく店の女の子たちにもプレゼントしてくれるものだら、いつもレットが大儲けすることを願っている。でも、誰にもレットの相手はさせないよ。だってレットは私だけのもの。
最近は北部の人間がアトランタに増えてきた。北部の人間は移民としてアメリカに来たばっかりだったり、2世3世になっても、一家が成功しないで、社会の底辺でうごめいている輩が多いのだ。レット自身、ニューヨークから流れてきたとレットは言うが、なかなかの生まれ育ちの良さを持っている。しかし、上流社会の事なかれ主義の紳士淑女と言われる人たちとは一線を隔していた。レットと上流社会の人々と何が違うかというと、レットは物事に偏見がなく、こだわりもない。自由な発想で、ヨーロッパと大きな貿易をしているらしい。らしい、というのは、私は知らないと言っていることなのだ。知っていても何の得にもならないし、面倒くさくて知りたくもないのが本音だ。レットが、大きな仕事をして、儲けて、「ベルの店」で散財してくれれば、それでいい。レットのことを心配していると言いつつ、やっぱり金づるなのだ。
でもね、レットほどのいい男はなかなか居ないよ。男前だし、気前はいいし、商売女の私たちでさえ、「ドッキ」とするほどのセクシーさも持ち合わせている。私がこんなに首ったけのレットが疲れ切った様子で、店にやって来た。
「レット、ゆっくりしていけるのかい?」
結婚してからというもの、店には顔を出す程度で、長時間居ることはほとんどなかった。そのレットが、疲れ切った様子でソファーに腰掛けている。
私は黙ってレットの横に座り、ただ手の甲を撫でている。重い空気が立ち込め、レットの顔は黒い紗がかかったかのように薄黒く鈍い光を放っている。
「ああ、随分と年を取ったのね。お互い様だけれど。やっぱりあの女はレットにはあわなかったんだね。」
私は声に出して言わないけれど、レットの不幸は手に取るように伝わっている。
「レット、お部屋に行こうか?」
レットは黙って立ち上がり、いつもの部屋に二人で向かった。娼婦館ではあるが、影のオーナーと言われているレットには、昔からレット専用に部屋がある。そして、レットの生活用品の一通り揃っている。まあ、レットの実家ともいうべき部屋である。レットはベッドに横になり、無言でベルを横に寝かせた。もういつからか、ベルを抱く事も無くなっていて、親子の添い寝不状態であった。疲れ切っていたらしく、すぐに眠りについた。ベルは添い寝しながら、レットの疲れ切った表情と、最近とみに目立ってきた深く刻まれた皴の一本一本に苦悩の後を読み取った。どうしたら、以前のレットに帰るのだろうか?元気を取り戻せるのだろうか?
スカーレットはどうなのだろうか。レットと同じように悲しみを感じているのだろうか?ベルには、「あの女」としか思えないのだけれど、これだけレットが傷ついているのだから、スカーレットも同じように傷ついているはずと思って居たい。思わずにはいられない。
この日は日の落ちる前から、店を閉めようと思った。
「さあ、皆、今日は早じまいにするよ。今日の稼ぎは私のおごりだよ。さあ、みんな楽しく遊びに繰り出すといいよ。」
ベルは女の子たちに一日分の稼ぎを持たせ、店から送り出して、明かりを消し、戸締りをした。時々うなされるレットの横で一夜を過ごした。
「もう、あの女の所には、二度と返さないわ。レットが帰ると言っても、決して返したりしないわ。」
いつも、あれだけ自信満々で、世の中に怖いものなしと、堂々としていたレットの面影は今はない。
「これから、私がレットを養おうかな?レットはなんというかしら?」
「私が、レットを愛人にするのもありかしら?そんなには弱ってないかも。そうあってほしいわ。」
ベルはレットの昔の仕草をまねて、そっと額にキスをしてベッドを離れた。
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