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初診 / 精神科医おぢとの対話

9月17日、僕は初めての精神科病院に行きました。
精神科といっても、内科、外科、皮膚科みたいにただの病院なんですけどね。なのにどうして精神科っていうとこんなにドキドキしてしまうんでしょう。何もやましい事などしていないのに、僕は家族に内緒で家を出ました。

その日は朝9時からの診察で、8時半にはもう病院についてないといけないので、僕は朝からチャリをぶっ飛ばして汗をかきかき病院に向かいました。クリニックは最寄駅から2駅先にあるので、中々遠いです。自転車で40分くらいかな。まったく、こんなに暑い中朝からチャリ飛ばす元気のあるやつが病院なんて行く必要あるのかい、なんてことを思いましたが、僕はこれからしばらく旅に出かける予定だったので、遠出前の健康診断としてかかることにしました。周りにいる何人かの人に、受診を勧められたのもありますが…。

汗だくの状態でクリニックに到着すると、もうすでに中には待っている患者さんがたくさん居ました。地域のせいなのか、お年寄りが多い印象を受けました。僕は受付をして、初診ということで症状を記入する紙みたいなものを渡されて、それを書きながら汗が止むのを待ちました。
紙には生年月日と身長体重、家族構成を書く欄や、幾つかの質問項目がありました。
どんな症状が気になって相談に来ましたか?不安になることはありますか?夜は眠れていますか?死にたくなることはありますか?
…っとまあざっくりそんな感じの質問が書かれていました。
僕は自分のことについて答えるのは大好物なので、さっさと書き終えて紙を受付の方に渡し、クリニックの中を観察していました。
クリニックの中は静かで、オルゴール調のジブリの音楽が流れていました。
診察室が2部屋あって、その間に処置室という部屋があり、奥にはデイケアルームと書かれた部屋がありました。患者さんは皆静かにスマホをいじったり、目を瞑ったりして待ち時間を過ごしていました。
「えー?なんかみんなテンション低くない?」とか思いましたが、まあ病院なので当たり前ですね。笑。
僕は退屈すぎて院内に流れるジブリの音楽に、はじめはノリノリで身体を揺らしていたのですが、途中で飽きてしまって、貧乏ゆすりをしてみたり、用もないのにウォーターサーバーのあるところまで歩いて行って水を飲んだりしていました。本当は隣に座っている人に話しかけに行って声を出してノリノリで歌でも歌いたかったのですが、流石に病院なのでやめておきました。
僕の理性が僕を止めてくれてよかったです。

しばらくして看護師さんに別室に呼ばれて、幾つか質問をされました。
家族に精神科にかかっている方はいるのか、声が聞こえたりすることはあるのか、調子が悪い時はどんな状態になり、それはどのくらい続くのか、逆に元気すぎたりすることはないか。など、幾つか診断の材料になりそうな質問に答えていきました。
看護師さんはそんなに多くの時間ではなかったけれど、とても丁寧に話を聞いてくれました。

その後しばらくまた待ってから、診察室に呼ばれました。
診察室にはおじさんとおじいちゃんの中間くらいの、優しそうな雰囲気の男性医師(以下、おぢと呼ぶことにする)が座っていました。僕は人と話したくってたまらなかったので、
「ちわっす!」
と元気に挨拶して椅子に腰掛けました。
おぢはニコニコしていました。
おぢは僕が事前に症状を書いた紙や看護師さんからのヒヤリングで、ある程度診断に目星をつけていたのか、少し僕と話をして、
「季節性の感情障害だね。」
と僕に伝えました。
僕は診断がついてスッキリしたのと同時に、季節性の感情障害ってなんだよ、なんか曖昧だなぁと思いました。
大学のカウンセラーさんや学校にくる精神科の先生には躁鬱とか双極性障害(どちらも同じ病気。現在は双極症と呼ぶ。)なんじゃないかとか言われていたので、じゃあ僕の経験したあの無気力で憂鬱な数ヶ月はうつではなくて、そこから切り替わったように世界がキラキラして見えて万能感に満ち溢れて、ろく寝ずに浪費を重ねた日々は躁ではないのなら何だったのだろうと思いました。
でもとりあえず、おぢがニコニコと話を聞いてくれたので、まあ自分は大丈夫なのだろうと思うことにしました。

おぢは僕に、

「死にたくなることがあるんだねぇ。それはいつもなの?」

と聞きました。
僕は、

「6歳の頃くらいからです。ふとした瞬間に思います。いいことがあった時でも、あ、なんかもうこれで終わりでいいやって思うんです。」

と答えました。

おぢは、人生が刹那的な感じになっちゃうんだねぇ、と呟いてこう言いました。

「人間はね、疲れると死にたくなるんだよぉ。緊張しても、いいことがあっても、神経が興奮ちゃうでしょう?そうすると炎症を起こしてしまって、死にたくなるんだよ。」

えーーーーっ!?死にたくなる時は脳内で炎症を起こしている時なの!?炎症って老化とか認知症の原因になるやつじゃないの?じゃあ老けちゃうじゃんやだーっ!そういえば病んでる期間が長いと顔もお肌も全身が老けていくような気がする!と僕はショックを受けました。(一応言っておくと、僕の性別は女です。)

おぢは僕に薬はどうするか聞いて、今は元気だけど遠出をしてしばらく通院できないかもしれないので、心配だから薬が欲しいと伝えると、

「じゃあ漢方を出しておくね。ヨクカンサンカチンピハンゲ。」

と何やら呪文のような言葉を発しました。

「ヨクカンサン…、ヨク…、ヨク…、何ですかそれ?」

「抑肝散加陳皮半夏。興奮した神経を抑えてくれる働きのある漢方薬だよ。これを朝食前に飲むと、死にたい気持ちや手首を切りたいような衝動も、少しはおさまるだろうからねぇ。」

と言いました。

僕は全く辛くなんかないけれども、一度カミソリで前腕を傷つけてから癖になってやめられなくなってしまったことも明かしたので、そのような処方になったのかもしれません。
おぢは最初は、

「うんうん、辛いことがあったんだねぇ。」

と聞いていましたが、僕が、

「いや辛いことは全くないんですけど、眠れない日にやたらとイライラしたことがあって、その時に腕をスパッと切って、血を出したらスッキリしてからクセになってしまたんです。あれ、中毒性ありますよねぇ、ほんと…笑」

と言ったら少し驚いたようでした。

「そうかい、辛くはないんだねぇ。動物もね、ストレスが溜まると前足を噛むんだよ。人間はほら、前足ないから手首ね。こうやってさぁ…。」

と言って、おぢは、ガジガジと言いながら自分の前足、いや前腕を噛む真似をしました。僕は、おぢは癒やし系キャラだなぁと思いながら、おぢが前足を噛む仕草を微笑んで見ていました。
最後に、おぢは僕に、頑張りすぎないでねと言いました。

「緊張するのが一番良くないね。緊張がふっと緩んだ時、人間は死にたくなっちゃうからねぇ。だからあんまり頑張りすぎないで。じゃあ旅行、行ってらしゃい。落ち着いたらまた顔を見せにきてくださいな。」

と、おぢは診察室に入った時と同じような、ほんわかする笑顔を浮かべて僕にそう言いました。
僕は大学では成績ビリの劣等生で、周囲からの評価が、「ちゃらんぽらんで情緒不安定なやつ」だったので、誰かに頑張りすぎないでなんて言われてちょっとジーンときちゃいました。

精神科なんて5分診療で、精神科医は薬を出して終わりの冷たい奴だなんて情報をネット上でウヨウヨ見ていたので、ちゃんと覚悟してから行ったのですが、少なくとも僕のかかったクリニックでは、親戚の優しいおじいちゃんみたいな、何だかポカポカするところでした。もちろん初診なので再診の方はまた違った印象をになるのかもしれませんが、困った時に頼れる場所を作っておくという点で、一つの安心材料になりました。

というわけで僕は薬局にヨクカンサンカチンピハンゲを貰いに行って、暑い中キコキコとチャリを漕いで汗だくで帰っていったのでした。
おしまい、また明日! 
チャンチャン♪(BGM)








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