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大誤算!! 大学デビュー~タントラマンへの道(第81話)

--浪人時代は高校時代よりも暗黒度合いが増したとのことでしたが、浪人は一年で済んだんですよね?

TM:はい。浪人中に志望を国立理系から真逆の私立文系に変更する等、僕にはよくあるあるの迷走っぷりを存分に発揮した挙句、なんとか私立文系の大学に合格することが出来ました。
で、その大学は東京にあったので、大阪の実家を離れて東京で独り暮らしをすることになったんです。

--じゃあ、今度こそ、暗黒時代から抜け出せたんですか?

TM:いやぁ、それがねぇ! さらなる暗黒、ブラックホールに吸い込まれてしまったんですよ。

--どういうこと?

TM:入った大学は、全国でも指折りの華やかなイメージがあるミッション系の大学でした。キャンパスもお洒落な服に身を包んだ女子大生であふれてましたし、男子学生もチャラい感じの人が多かったですね。
もちろん、田舎から出てきたばかりのもっさりした人もそれなりにいましたけどね。
なので、僕はこの時点で、誰一人として知っている人がいない場所で生まれ変わることも出来たハズなんです。いわゆる大学デビューってやつですね。

ところが、僕は、大学デビューという言葉から想像されるものとは、180度違う形での大学デビューを果たしてしまったんですよ。
しかも、華やかなキャンパスで学生生活を満喫するための第一歩すら踏み出さない時点でね。
つまり、入学式が終わって会場から出た瞬間に、とある部活団体から勧誘されてしまったんです。

で、「話を聞くくらいなら、まぁ良いか」と甘く考えてしまったのが運の尽きでした。
説明会場所となっていた喫茶店に入ると、隣のテーブルでは綺麗なお姉さんや女の子たちが楽しそうにしていました。
そして、着席してしばらく経った頃、僕たちを勧誘した上級生が、隣の座席の女子たちを紹介してくれたのです。
なんと、その女子たちは同じ団体に所属する方々だったのでした。
そして、新入生と思われる、なかなかの美人でスタイルも良い子が、
「一緒に頑張りましょうね♪」なんてにこやかな微笑とともに声をかけてくれたではありませんか!

初対面の女の子、それも都会的な明るいイメージの可愛い美女から声をかけられるなどといったことは人生で初めてだったので、僕はそれまでお断りしようと考えていた気持ちが、入部へと急速に傾いてしまったんです。
まさに地獄への扉が開いた瞬間でした。

僕は、てっきり、その子たちと一緒に楽しく部活動が出来ると勝手に思い込んでしまったんですよ。

--そうではなかったということですね?

TM:はい。美女の微笑にまんまと引っかかりました。とは言え、彼女には僕を騙してやろうなどという魂胆は全く無く、純粋な気持ちから誘ってくれたことには間違いなさそうでした。実際、彼女たちは普段の練習の時から楽しくやっていたみたいでしたし、後の僕のように辞めたくて辞めたくて仕方が無くなるようなこととは無縁でしたから。

で、僕は、その喫茶店を後にすると、散髪屋さんに直行させられました。
そして、先輩が見守る中、生まれて初めて頭を坊主にさせられたのです。厳密には坊主ではなく、角刈りってやつです。
中学も高校も坊主頭は強制では無かったので、正真正銘の坊主初体験でした。
次は服装ですが、先輩のお下がりの学ランに着替えさせられました。
かなり使い込まれていてボロかったです。
靴も黒の革靴、これもお古でしたが履かされました。これはすぐ自分に合ったものを買いに行かされました。

このようにして、僕の大学デビューは当初は全く予想出来なかった形で実現してしまったわけです。

--それって、もしかして、応援団っていうところですか?(笑)

TM:そうなんですよ。僕が勧誘されたのはリーダー部っていうところでして、まぁ、一般的に「応援団」と言う言葉からは最もイメージされる部ですね。
例の彼女たちは、チアリーダー部だったわけですが、普段、一緒に練習することなどは皆無でした。
応援団には、他にも「吹奏楽部」がありましたが、三部合同で活動するのは
応援本番時に限られていました。

--うわぁ、それじゃあ、かわいこちゃんたちと一緒に練習できるっていう思い込みが間違いだったとわかってしまったわけですね!

TM:そう。リーダー部以外の部は、上下関係もそこまで厳しくないみたいで、和気あいあいとやっていました。でも、リーダー部はあり得ないくらい異常に上下関係が厳しくて、初日で辞めたくなりました。
翌日から早速、応援団生活が始まったのですが、まず、ほぼ一日中、なんだかんだで拘束されるので、講義に出ることが出来ません。
必須科目だけは時々出席することが出来たのですが、在籍中はほとんど講義に出ることはできませんでした。

練習内容も、ほとんど意味のないしごきに明け暮れていて、合理的に身体や身体能力を鍛えるなど科学的なものとは無縁でした。
同期の仲間は高校時代に陸上の長距離選手だったり、野球部だったりしたので練習にはなんとかついていけているようでした。
でも、僕は中学も高校も帰宅部だったので、厳しい練習には到底ついていけませんでしたし、ついていけるようになりたいとも思いませんでした。
とにかく早く抜け出したい! 毎日そのように思っていました。

下級生が直接話かけることが許されるのは一つ上の学年の先輩だけでしたので、僕は、先輩の中では一番優しそうな人に「辞めたい」と伝えました。
でも、全く取り合ってもらえません。
伝えられた先輩も、そのまま上級生に伝えると連帯責任のような形でめちゃくちゃしごかれて体罰も受けてしまうからでしょう。

練習を休むには必ず「医師の診断書」が必要でした。
僕は、膝がちょっと痛かったので、これを口実にして休もうと思い、病院に行って診断書を書いてもらいました。
ほとんどこじ付けのような聞いたことも無い病名でしたが、これで何日間かは休めるわけです。
でも、それは一回しか通用しませんでした。そもそも診断書を書いてもらうのにもお金がかかりますからね。

で、次に試みたのが、「無断欠席」です。
一週間くらい、自分の部屋に閉じこもっていたと思います。
住所も電話番号も伝えていなかったので、時間が経てば諦めてくれるだろうと思っていたのですが甘かったです。
食糧が尽きたので、駅前に買い出しに行ったのですが、なんと、そこには先輩が張り込んでいて捕まってしまったんです。
入部してからどこかの段階で、最寄り駅(大学の最寄り駅から急行で30分くらいかかる距離)だけは伝えていたのが敗因でしょう。

捕まった際に聞かされた話ですが、過去に、夏休みに九州の実家に帰ったきり、夏合宿に参加するのが嫌で合宿に姿を現さなかった人がいたそうなのですが、その時には上級生がわざわざ九州まで出向いて連れ戻したそうです。
そんな話を聞かされて、僕はほとんど絶望してしまいました。

(つづく)





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