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ジェンダー・フルイディティ・レポート 番外編(マッチングアプリ)

ジェンダーに本質的な流動性があり、その状態を左右するのが外的な環境要因だけであるならば、意図的に環境を変えることによって望ましいジェンダー・ロールを全うすることができるようになる可能性がある。このような可能性を探るべく、私はマッチングアプリというものに登録してみることにした。

あなたの性別は、男性ですか?女性ですか?

これだけジェンダーの多様性というものが取り沙汰されながらも、私が利用した最大手のマッチングアプリでは(そしてそれ以外のほとんどのマッチングアプリでも)、連絡先の認証を行ったあと最初に答えなければならない質問はいまだにこの忌々しい二者択一である。この時点で私はもう挫けそうになったけれど、今回は諦めて男性を選択した。この時点で、もはやジェンダーの流動性という概念はマッチングアプリの社会では存在しないことになり、私のジェンダー・ステートは強制的にM側にさせられる。

利用者男女比7:3、男性のみ有料という圧倒的性差

マッチングアプリは、主に経済的な理由によって性差別が黙認されている社会である。人口比においてはそれほど極端な違いがないはずの男女に、マッチングアプリの利用者数の比率において大差が現れる原因については諸説あるが、いずれにしても、この少ない女性利用者をいかに集めるかを突き詰めた結果、女性は無料で利用ができ、男性がその運営費を全て賄うという構造が成立している。この極端な「男余り」の中で、男性利用者は他の男性利用者との競争に晒されてゆく。これはポジティブに捉えれば男性性の自己研鑽であり、上手くゆくならばその当事者のジェンダー・ステートを安定してM側に固定させる要因になるだろうが、年齢(若さ)・身長(肉体的な逞しさ)・そして年収といういわゆる「スペック」を十分に持たない男性に訪れるのは、あらゆる女性からの否定に次ぐ否定である。これは、ジェンダー・ステートをF側にシフトさせるような男性性の否定というよりは、心的外傷にさえなるような人格そのものの否定と感じられる当事者も少なくないと思う。ルックスと性格のどちらを重要視するか、というような牧歌的な空気はここには漂っていない。数値で表現しうる「条件」が女性の許容範囲に収まるかどうか、というごく機械的な判断しか、このアプリではそもそもできないのである。

淡い期待と、その裏切られの繰り返し

それでも、女性利用者のプロフィールを丁寧に見ていけば、寛容な性格を持っていそうな雰囲気を漂わせている人は少なからずいる。先述のように極端な男性過多の状況であるがゆえに、アプローチも基本的には男性から女性へ行うのが暗黙のマナーのようになっており、自分から何もしなければプロフィールが閲覧される(足あとがつく)ことさえ本当にない。好ましいと思った女性から足あとがついた時には一時的に期待感が湧き、「もしこの女性とパートナーになれたら」という想像力が膨らんで、ジェンダー・ステートはポジティブな形でM側へとシフトするが、その後特に何の応答も得られずに、F側へと戻ってきてしまう。私の場合はそのような繰り返しが、登録してから日々続いている。何となしに気になって良い報せがないかとアプリを開いてしまう、そんな依存症的な状況に危機感を覚えた私は、アプリの利用時間をOS側から制限することにした。

不審なユーザーの多さ

万全のセキュリティを謳い文句にする大手のマッチングアプリでさえも、プロフィールも見ずに急にアプローチをかけてきて、受け入れると唐突にLINEアカウントを聞いてくる日本語の不自由な、プロフィール画像が異様に美人な女性利用者と遭遇することが頻繁にある。このような徒労に苛まれることも、私の男性性の否定に思えてきて、ジェンダー・ステートは今かなりF側に揺れてきている。



もしも、支払っている利用料金で利用可能な時期を終えた段階で、あらゆる女性から男性性を否定されたとしたら、それはそれで意味のあることなのかもしれない、とも今は思う。ジェンダー・フルイドから、MtFのトランスジェンダーへと、自分が変わる可能性について、真面目に考え始めるようになった。

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