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「他人の目を気にさせない」マネジメント技法

人間は相対的な生き物なので、隣の芝は常に青く、人と比較することで自分を客観的な視点で理解することができます。バッタやカマキリと私を比較しても、対して自己理解は進まないと思います。

しかし、他人の評価、他人との比較にとらわれすぎると、幸せからは遠のきます。過度な他者比較をすることで「今ここにある幸せ」を享受できなくなります。
スポーツにおいても、ビジネスにおいても、常にトップパフォーマーでいることは、誰にとっても挑戦的で、難しいものです。「結果が全て」の視点では、自分の価値も有限に感じられます。
そして、トップパフォーマーであればあるほど、他者からの結果評価を得続けるプレッシャーが大きくなり、精神的なストレスが大きくなります。

この課題に対処するため、ハーバード・ビジネス・レビューの4月号では、『他者からどう見られるかという不安がパフォーマンスを低下させる』と題する記事が掲載されました。パフォーマンス心理学者マイケル・ジャーヴェイスによるこの記事では、他者による評価のプレッシャーを克服するマネジメント戦略について論じられています。ただのマネジメント技法の紹介に留まらず、継続的に成功を収める組織の構築と、部下や社員、そして自分自身を真の意味で幸せに導く方法についての深い洞察を提供する内容となっており、ここで紹介します!

パフォーマンスへの不安

企業の世界では、個人もチームもパフォーマンスを指標に基づいて評価される。外的報酬や評価基準、他者による検証に依存しすぎると、「他者にどう思われるか」という不安が生じ、パフォーマンスが低下することがある。この状態は、心理学者マイケルジャーヴェイスが「他者にどう思われるかという恐れ(FOPO: fear of people's opinions)」と呼んでいる。この問題を解決するためには、パフォーマンスからパーパスへとアイデンティティー基盤をシフトする必要がある。

FOPOの影響

FOPOは組織内で蔓延し、個人や集団の潜在能力を阻害する主要な要因である。他者の考えを過度に気にすることは不利かつ非生産的な妄想である。世界最高クラスのパフォーマーであっても、キャリアを重ねるほどに他者の詮索や世評の影響を受けやすくなる。従って、FOPOは高パフォーマンスを求める人生において避けられない。リーダーは、従業員が自信を持って発言し行動できる環境を構築することが責務であるが、これは短期的パフォーマンスを重視する企業の世界では容易ではない。

パーパスへのシフトの必要性

人間は自分がどう思われるかを恐れがちであり、この恐れはFOPOにつながる。FOPOは拒絶を回避しようとする予期メカニズムであり、過剰な不安を引き起こす。他者にどう思われるかの恐れは、私たちの行動や意見表明に大きな影響を及ぼし、承認を求めるあまりに自己の意見を放棄することさえある。パフォーマンスに基づくアイデンティティは、不確かな自己価値、失敗への恐れ、完璧主義を引き起こし、ウェルビーイングや人間関係、潜在能力に悪影響を与える。これに対して、パーパスに基づくアイデンティティは、内側から生まれる総合的な意思に基づき、未来志向であることが健全な選択である。

パーパスに基づくチームの育成

パーパスに基づくチームを育成することは、個人としても組織としても大きな成果をもたらす。研究(※1)によれば、パーパスを明確に伝える企業は、オペレーションと財務のパフォーマンスにポジティブな影響を受ける。目的意識を持つ従業員は、生産性が高く、昇給や昇進の可能性も高いことが示されている(※2)。しかし、多くのマネージャーは短期目標達成に重点を置いており、パーパスに基づくチームを構築する時間はほとんどない。短期目標に焦点を当てることは、従業員の不安や燃え尽き症候群を引き起こし、仕事の成果を低下させる可能性がある。マネージャーは、パフォーマンスに基づくアイデンティティが従業員に与えるプレッシャーとそのネガティブな影響を認識し、対策を講じる必要がある。パーパスに基づくアイデンティティは、チームメンバーのストレスや不安を軽減し、短期的および長期的な目標達成にポジティブな影響を与える。

※1.ペンシルバニア大学ウォートンスクール助教授のクローリンガーデンバーグ、およびコロンビア大学とハーバードビジネススクールの研究者による5年間にわたる研究。従業員に自社のパーパスを明確に伝えている企業では、オペレーションと財務のパフォーマンス、そして将来的な成功の指標に基づくポジティブな影響が見られた。
※2.ビジネススクールやコンサルティングファーム産業界の研究者で構成されるコンサルタンシー、ベターアップラボによる研究。26業種に渡る2000人以上のプロフェッショナルを対象に調査を行ったところ、仕事に目的意識を持っている回答者は、自分の仕事に何の意義も見出せない回答者よりも生産性が高いことが明らかになった。また調査前の6カ月間に昇給や昇進をしている可能性が高かった。さらにこの研究では、回答者を平均し、生涯収入の23%、つまり引退するまでに毎年約21,100ドルを犠牲にしてでも、目的意義を持てる仕事につきたいと考えていることが示された。

パーパスの育成プロセス

パーパスに基づくチームアイデンティティを育むためには、まず従業員との率直な対話が重要である。従業員がどのような人間であり、その行動が企業文化にどのような影響を与えるかを明確にする。チームのパーパスを定義する際には、チームメンバー全員に影響を与える未来志向のものである必要があり、これは現代のリーダーシップにとって重要である。アクティブリスニングのスキルを活用し、多様な意見を引き出すことが必要である。

アクティブリスニングで意見を引き出す質問

  • この仕事をするモチベーションはなんですか?

  • 最大限の力を尽くそうという気持ちにさせるものはなんですか?

  • 将来についてどのようなビジョンを持っていますか?

個々のパーパスの重要性

チームのパーパスが重要である一方で、個々のチームメンバーがパフォーマンスによって自分を定義し続ける場合、そのアイデンティティは脆弱になる。パフォーマンスに基づく自己意識を形成することは、ストレスや不安、落ち込みの原因となる。FOPOに対する最大の防波堤は、明確な自己意識と強固なパーパスを持つことである。パーパスに基づくアイデンティティを持つ者にとっての動力は、他者からの賞賛ではなく、自分の行動の意味とそのインパクトである。マネージャーは、従業員との1対1の面談を通じて、各個人のパーパスを明確にし、それを支援する必要がある。

継続的な対話とパーパスの統合

パーパスに基づくアプローチは、一度のミーティングで完結するものではなく、継続的な対話を通じて従業員と共に成長し、統合していくプロセスである。これにより、個人やチームは常にパーパスを意識し、それに基づいて行動を取ることができるようになる。パーパスが強固な基盤となることで、個人も組織も長期にわたって成功を収めることができるようになる。

まとめ

他者からどう見られるかという人間の呪縛から解放するのはパーパスです。
ビジネスシーンでも、個人や組織にとっての真の駆動力は、表彰台や株式価値の向上ではなくパーパスにあるのです。
マネージャーはチームのパーパスを常に語り、それを実践することで、従業員にその重要性を示す責任があります。他者からの評価を原動力とせず、自分の行動の意味と、自分が達成できるインパクトに焦点を当てることが重要です。これにより、従業員は自己意識を強化し、不安やFOPOに打ち勝つための強固なパーパスを持つことができます。

そして、パーパスに基づくアイデンティティは、個人がその瞬間のパフォーマンスに縛られることなく、より大きな目的に向かって行動することを可能にします。これは、短期的な成功にのみ焦点を当てた場合には得られない、持続可能な成長と充実感をもたらすのです。

従業員が個人としてもチームとしても、自分たちのパーパスに忠実であるかどうかを常に問い続けることで、組織全体としてもより強固なアイデンティティを築くことができるのです。

総じて、パーパスに基づくアイデンティティの育成は、個人のウェルビーイング、チームの協力、そして組織の成功に不可欠です。

リーダーはこのプロセスをサポートし、促進することで、従業員が自己の能力を最大限に発揮し、組織がその潜在能力を引き出すための環境を提供する必要があります。

パーパスが明確であればあるほど、従業員はより満足し、生産的に働きます。
結果的に、組織はより成功することができるということです。

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