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音がよみがえる

長い間、しずんでいた音が、浮上してきた。

15年前、ふとしたきっかけでフランスの歌を歌い始めた。どうせなら学生時代にかじったフランス語で歌ってみようと思い、その後はフランス語原語で歌うアミカル・ド・シャンソンの会にせっせと通って、
生活の通底音に、いつも何か歌が流れていた。

わたしはもともと日本語の歌が好きだった。
あるとき、うつくしい日本語が聞こえなくなった。
日本語の音が満量に達したみたいに、日本語がわずらわしくなった。
日本語は母語だから、つねに意味がともなう。
日本語を聴く限り、そこに意味を汲み取ってしまう。
酸いも甘いもかみ分けた分別あるオトナになってしまったわたしは、
意味から音へ、還りたくなった。

フランス語はよくわからないから、音としてとらえる
そこでふしぎなことが、起きた
たとえ意味が分からなくても、
その音を口にしたいか、その音をメロディにのせたいか、その音をみんなと共有したいかは、わかるのである。

そして意味を紐解くと、そこにわたしの探していた言葉をみつけることができた。フランス語を通して、自分の中にある、感情、パッションを外へあらわす、そういう、ひとつの道が見えた。

十年ほどたつうちに、フランス語圏から少し離れ、音はポルトガル語の方へ向いていった。
ポルトガルはフランス語以上にわからない
でも胸にダイレクトに響いてくる、この振動。

けっきょくは、どの原語であれ、振動なのだ
だから表現は、ダンス、ハグ、笑顔、なんでもよい、それが祈りなのだ
本当に長い時間かかってしまったが
わたしはそれを確信している

誰もが、内に秘めた、自分で自分に隠し持っている豊かさ、というものがある。
音楽は、とてもすなおに表現する。

歌のことを英語でsongという
フランス語ではchansonという
イタリア語でcanzoneという

音のことを、英語でsoundという
フランス語ではsonという
日本語では音(on)という
ラテン語ではsonusという

オゥム、という音は
宇宙の根源とつながる音として、ふるくから発されてきた
ヨガの世界でもオゥム…と音を発してからはじめるひとたちもいる
いまここと、宇宙の源とつながり、ゆたかなひとつの音として、
わたしたちは存在し、たがいに響き合っている。


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