手術note07 前立腺の悪性腫瘍

※ この記事は小動物医療関係者向けです。

12歳、去勢手術済みのヨークシャー・テリアさん、慢性的な下部尿路徴候があり、各種検査により前立腺の尿路上皮癌と診断されました。
明らかな転移所見はなかったため、根治を目的に前立腺を含めた尿路の全摘出術を行いました。

術式  :膀胱-前立腺-尿道全摘出術、尿管-包皮粘膜瘻造設術
手術時間:138分
麻酔時間:176分

下腹部の術野を広く確保するために皮膚の逆U字切開と腹壁の正中切開で腹腔内へアプローチします。

皮膚の逆U字切開で包皮と陰茎を反転させたうえで正中切開で開腹したところ

包皮の腹側を縦切開、会陰部まで皮膚の切開を延長し、会陰部までの陰茎と尿道を周囲から分離して遊離させます。

会陰部までの陰茎と尿道を遊離させたところ

膀胱に付着している尿管を切断し、膀胱と前立腺に分布している血管を止血処理して外側間膜を切開し、膀胱、前立腺を腹腔と骨盤腔から分離します。

尿管を膀胱から切り離し、膀胱と前立腺を周囲から分離したところ

骨盤腔内の尿道周囲を血管シーリングデバイスなどで止血を行いながら分離し、尿道が全て遊離したところで引き抜くことで、膀胱・前立腺・尿道の一括切除となります。
この方法は骨盤の骨切りを必要としません。

※動画は陰茎と尿道を引き抜いているところです。

膀胱から切り離された尿管は後腹膜を切開して分離し、腹腔外まで誘導できるように遊離させます。

分離された尿管

左右の腹壁に穴をあけてそこから尿管を腹壁外へ誘導します。
腹壁を縫合閉鎖します。

尿管を腹壁外へ誘導し腹壁の切開部を縫合閉鎖したところ

包皮の背側面に穴をあけ、そこで尿管断端の粘膜と包皮粘膜を縫合して尿管-包皮粘膜瘻とします。

尿管-包皮粘膜瘻の尿管開口部の拡大図(尿管にはカテーテルが入っている)

包皮と皮膚の切開部を全て縫合閉鎖して終了です。

病理組織検査では前立腺に発生した尿路上皮癌(移行上皮癌)と診断され、尿道の広範囲に腫瘍が浸潤していることがわかりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?