手術note17 門脈体循環シャント

犬、シーズー、11ヶ月齢、メス
ホームドクターさんで避妊手術前の血液検査で肝酵素上昇が見られた。その後、尿検査で尿酸アンモニウム結晶が見つかり、総胆汁酸(TBA)で食前 400μmol/l以上、食後2時間 210μmol/lと高値を示したため、門脈体循環シャント(PSS)が疑われました。他施設でCT検査を実施、左胃静脈-横隔膜シャントと診断された症例です。

術式  :門脈体循環シャント結紮術
手術時間:142分
麻酔時間:113分

手術は腹部正中切開で開腹、胃を尾側に牽引、肝臓を正中側に避けるとシャント血管が確認できます。

シャント血管

シャント血管周囲の膜を剥離し、シャント血管を分離します。シャント血管にナイロン糸をかけておきます。門脈圧を測定するために、腸管膜静脈に留置針を設置。

門脈圧測定

門脈圧(結紮前9mmHg)を測定し、シャント血管をターニケットで仮遮断。門脈圧(仮遮断後14mmHg)、全身血圧に大きな変動はなく、肝臓・膵臓・消化管など鬱血の所見も見られませんでした。よって完全結紮出来ると判断しました。

シャント血管完全結紮後

シャント血管の完全結紮後も門脈圧(結紮後14mmHg)、全身血圧に大きな変動はなく、肝臓・膵臓・消化管など鬱血の所見も見られませんでした。
その後、定法通り子宮卵巣摘出、膀胱結石を摘出し、手術終了としました。


膀胱結石


門脈体循環シャント結紮後に痙攣発作、運動失調、行動の変化、震え等の神経学的兆候を減衰後神経学的兆候(PANS)といいます。同義語として発作後発作症候群、結紮後発作、結紮後神経学症候群、減弱後神経学的兆候、減衰後発作等があげられます。

PANSの病因は依然として不明です。危険因子に術前肝性脳症、加齢、特定の品種(ジャック ラッセル テリア、パグ、マルチーズ)、肝外シャントの形態が含まれます。高アンモニア血症、低血糖、電解質異常とは無関係とされています。

PANSがみられた場合の治療は原因不明のため、支持療法が主体となります。一般的な抗痙攣薬に関しては以下の通りです。①ベンゾジアゼピンは研究の大部分で制御できなかったと報告されている②プロポフォール CRIは迅速に制御できたと報告されている③フェノバルビタールは肯定的な結果の報告が多い④レベチラセタムは頻繁に記載されているが、有効性を記載した報告はほとんどありません。

今回の症例は術前にレベチラセタムを使用して手術を実施しました。幸いに術後に問題となる症状はなく、レベチラセタムを漸減して治療終了としました。PANSを生じた場合は危機的な状況になる可能性や、レベチラセタム使用によるデメリットは少ないと判断し、報告では有効性に関しては結論が出ておりませんが使用する選択をとりました。PANSに関しては今後の研究が必要と思われます。

参考資料
Mullins, Ronan A., et al. "Postattenuation neurologic signs after surgical attenuation of congenital portosystemic shunts in dogs: A review." Veterinary Surgery 51.1 (2022): 23-33.PMID34585759

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?