手術note15 尿道の動的な屈曲による排尿困難の猫

11歳の未去勢オスのメインクーンが排尿困難で来院されました。
1週間前から排尿姿勢をとるが排尿できない状態で、かかりつけの動物病院で尿道カテーテルによる導尿を実施しているが改善がみられないとのことでご紹介をいただきました。
1年前にも同じような排尿困難があり、その時は内科的に改善したとのことでした。

来院時、膀胱は重度に拡大していました。外尿道口から4Frのアトムチューブを挿入したところ、若干抵抗感はありましたが、膀胱まで挿入は可能でした。

いわゆるオス猫の尿閉の典型像ではなかったため、尿道の狭窄や動的な閉塞を疑い、膀胱-尿道の造影検査を行いました。
逆行性尿路造影では陰茎部尿道がやや細く(図1青矢印)、膀胱は重度に拡大して弛緩していました。
膀胱に造影剤を充填した後に、膀胱を圧迫しながら順行性の尿道造影を行ったところ、近位尿道の屈曲が見られました(図2黄矢印)。

図1:逆行性尿路造影
図2:順行性尿道造影(圧迫排尿による)


排尿困難の原因として尿道の弛緩による排尿時の動的な閉塞と、陰茎部尿道の狭窄を疑いました。膀胱は重度に拡張して弛緩しており、尿道の不完全な閉塞が長期に存在していたことが示唆されました。

数日間の内科管理を実施しましたが、自力排尿がみられず膀胱固定術と会陰尿道瘻術を行いました。

会陰尿道瘻術は、尿道ー会陰部皮膚瘻を定方通りに行いました。

膀胱固定術は、下腹部正中切開で膀胱へアプローチして行いました。
膀胱は弛緩し尿抜去しても収縮せずに重度に拡大していました(図3)。
膀胱を頭側に牽引した状態で膀胱頸部と右側腹壁を縫合して固定しました(図4)。

図3:重度に弛緩した膀胱
図4:膀胱頚部と右側腹壁の固定

術後は自力排尿が可能になりました。

ポイント💡尿道の動的な閉塞

排尿困難は通常は尿道の固定された閉塞によっておこりますが、高齢の猫でしばしば今回のような動的な閉塞がみられます。
今回のような病態は、近位の尿道やその周囲組織がルーズになることで、排尿時の腹圧上昇によって膀胱と尿道が尾側に押されて尿道が折れ曲がってしまうことにより起こります。腹圧がかかったときのみ屈曲するので、尿道カテーテルは挿入できます。
教科書的な疾患ではなく、尿道閉塞の一般的な原因として鑑別に上がりにくい病態ですが、尿道カテーテルは入るのに尿道閉塞がある場合にはこの病態も疑う必要があります。


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