手術note21 棘細胞性エナメル上皮腫
12歳の柴犬が棘細胞性エナメル上皮腫の再発の治療で来院しました。
かかりつけの動物病院での切除生検による診断後に再発がみられました。
手術前にCT検査により骨下顎骨への浸潤の程度を確認しました。
病変は肉眼的に右下顎第2前臼歯周囲までおよんでおり、骨への浸潤は右下顎第1前臼歯周囲までみられました。
根治治療を目的として下顎間結合から尾側は右下顎第3前臼歯尾側までの下顎部分切除を行うこととしました。
手術
術式:右側下顎吻側部分切除
手術時間:87分 麻酔時間:113分
顎骨周囲の軟部組織を止血しながら切開・剥離して顎骨を露出しました。
下顎間結合をサジタルソーで離断しました。
続いて、右下顎第3前臼歯尾側で下顎骨を切断し下顎骨を切除しました。下顎管内の下歯槽動静脈は切断後にバイポーラで止血しました。
下顎骨から剥離した粘膜同士を縫合し創を閉鎖しました。
切除した病変部と顎骨です。
術後の経過は良好で、すぐに自分でご飯を食べたり、飲水もできるようになり、日常生活に戻ることができました。
💡ポイント
棘細胞性エナメル上皮腫は良性の上皮性歯原性腫瘍に分類されますが、周囲の骨への局所浸潤性が強い特徴があり、肉眼的な病変の切除だけでは再発することが多いです。十分なマージン確保のない切除では再発率が91%にも達すると報告されています。
退縮したエナメル上皮細胞から発生する病変であり、図から分かるように歯周囲組織から発生するため顎骨内での発生が多いです。そのため、根治を目的とした治療を行う場合には肉眼病変の切除と共に顎骨切除が必要になります。
参考資料
Goldschmidt, Stephanie. "Surgical margins for ameloblastoma in dogs: a review with an emphasis on the future." Frontiers in Veterinary Science 9 (2022): 830258.
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