手術note4 ジャック ラッセル テリアの直腸の腫瘤

※ この記事は小動物医療関係者向けです。

7歳のジャック・ラッセル・テリアさん、血便でホームドクターさんを受診し、直腸の腫瘤が見つかりました。
直腸の腫瘤は粘膜面に広範囲に存在していたため、直腸粘膜引き抜き術(直腸粘膜プルスルー)を行いました。

手術  :直腸粘膜引き抜き術
手術時間:46分
麻酔時間:79分

肛門を広げて反転させ、4方向に支持糸を設置します。
指示糸の内側の直腸粘膜を全周性に切開します。
このとき、直腸粘膜だけを切開し、筋層や漿膜面まで切開が及ばないようにします。
全周性の切開部から頭側に向かって粘膜の剥離を進めます。
剥離自体も全周性に進めることで、直腸の粘膜が引き出されてきます。

直腸粘膜を剥離して引き抜いたところ

直腸を十分に引き抜いたら直腸粘膜の背側に縦切開を加え、内腔の病変の範囲を確認します。
このとき、引き抜きが不十分であれば追加の引き抜きを加えます。

引き抜いた直腸粘膜の背側を切開して展開したところ

腫瘤からマージンを確保したうえで頭側の直腸粘膜に横切開を加えます。
まずは12時方向から3時方向、9時方向に切開を加えながら、残存させる直腸粘膜を肛門側に残した粘膜と縫合していきます。
縫合は吸収糸で粘膜同士の併置縫合になるようにします。

12-3時と12-9時方向の粘膜を縫合したところ

3時から6時方向、9時から6時方向にも切開と縫合を進めて、全周の切開と縫合が完成したら終了です。

引き抜いた直腸が切除されて全周の縫合が完成したところ

腫瘤病変は病理組織検査で直腸腺癌と診断されました。

直腸粘膜引き抜き術では、手術部位において粘膜の長さと筋層・漿膜との長さがアンバランスになり、手術部位の直腸で術後の狭窄が起こりやすいです。
これを防ぐために術後しばらくの期間、定期的に指を用いたブジーによる手術部位の拡張を行い、恒久的な狭窄が生じないようにしました。

豆知識💡

ジャック・ラッセル・テリアでは近年、消化管の腺腫/腺癌の発生が増えており、遺伝性の病因と考えられています。
胃や大腸での報告が多いようです。
他の犬種と比較した予後についてはまだ情報が十分ではないようですが、一部の患者さんでは長期的な予後も期待できるようです。
(参照:PMID: 33328390

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