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the dialogue #1 働き方改革に、直接アプローチ。法人向けヘルスケアテックの可能性を、『POZ』×『バックテック』代表が緊急対談。

quantumのfoundersが、共に0から1を生み出そうとするパートナーや、尊敬する起業家、有識者との対話の中から、新規事業の可能性や、成長へのヒントを探っていくシリーズ [ the dialogue -つくりだす人との対話- ]

quantum発のセルフ・コンディショニング・サービス 『POZ』 事業責任者の金学千がヘルスケアテックの可能性を掘り下げる連載(全3回)の1回目。

2019年4月に関連法案が施行され、いよいよ実践フェーズに入った働き方改革。「健康経営を推進すべし」という社会全体の風潮はもちろん、従業員が幸福度高く働ける職場を作ることで、より魅力的な会社に変えていくためにも、“何かアクションを起こしたい“と考えてはいるものの、何を導入したら良いか悩んでいる健康経営担当者も多いのが現状ではないでしょうか。

そこで、quantumにて、最新テクノロジーを活用して企業従業員の健康づくりをサポートする2つのサービスの事業責任者による対談を実施。日本のヘルスケアテックベンチャーの代表的企業であり、『ポケットセラピスト』を提供するバックテック代表取締役社長の福谷直人氏と、quantum発のセルフコンディショニングサービス『POZ』事業責任者の金 学千という旧知の2人が、近年注目が高まるヘルスケアテックという領域の可能性について語り合いました。

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※2019年10月にquantumウェブサイトに掲載した記事の再掲です。団体名やサービス名などは、取材時の記載をそのまま使用しています。


■大学院生のピッチコンテストで高い評価を得た事業アイデア


――お二人の出会いのきっかけから教えてください。

福谷 きっかけは2014年の「Global Technology Entrepreneurship Program」(GTEP)ですよね。

 GTEPというのは、京都大学の起業家育成プログラムです。医学部と経済学部の大学院生以上を対象に2014年から始まったもので、私たちquantumは京都大学と縁があり、いくつかの講座を受け持っていたんです。福谷さんはその一期生でした。

福谷 大学院生たちの研究をもとに、いくつかのチームに分かれて約半年間、ゼロイチから事業をつくるために必要な知識を実践を通して学ぶことができるプログラムです。当時、私は医学研究科の大学院生だったのですが、周りが真面目な人ばかりの中で、自分はあんまり研究室に寄り付かないような生徒でした(笑)。それを見た先生が、「お前は研究よりこっちのほうが向いている」と思ったのか、GTEPを紹介してくれたんです。

――大学院ではどんな研究を?

福谷 働いている方々の健康状態が企業の生産性にどんな影響を与えるのか、というテーマでした。

――まさに現在のバックテック社の事業そのものですね。

 福谷さんはずっと一貫していますよね。ご自身の研究分野をシーズとして起業されたという、教科書に出てきてもおかしくない起業家です。

福谷 でも、これを事業にするという発想はまったくなかったんですよ。

――GTEPに参加するまで、自分が起業するとは思ってもいなかった?

福谷 はい。GTEPの最終報告会でバックテック社のもとになる事業アイデアを発表して準優勝したんですが、そのときにたくさんの投資家の方に声をかけていただいて、いくつかのピッチコンテストに出場したんです。そこでも高い評価をもらうことができ、ようやく「そこまで評価していただけるなら、やってみよう」と決意しました。

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――金さんは福谷さんの事業アイデアのどこに可能性を感じていましたか?

 健康に悩んで働けなくることは本人にとっても企業にとっても損失だから、それをなくしたいんだと当初から言っていたことです。事業を通じて解決したい課題がすごくクリアでした。

福谷 ふとしたときにGTEPのプレゼン資料を見返してみるのですが、確かに今とほとんど言っていることが変わってないですね。

 一般的に言われていることですが、ゼロイチを目指す際には課題の深堀りが甘いってことが原因で壁にぶつかることが多いんですよ。でも、福谷さんはそこが一貫している。実際のソリューションは状況に合わせてピボットしているんだけど、軸足がしっかりしているから、ぶれないで着実に進めているのだなってつくづく感じます。


■ヘルスケアテックのポイントは“予防”にある


――お二人はヘルスケアテックという同じ領域でビジネスをされているわけですが、お互いのサービスをどう見ていますか?

福谷 我々は肩こりや腰痛対策を起点に、従業員の健康を測定・改善し、生産性向上をサポートする「ポケットセラピスト」というWebアプリを提供しています。ただ、こういうオンラインのサービスは知ってもらうのが大変なんです。でも、POZみたいにリラクゼーションルームに設置するものは、すごくわかりやすい。市場的にも健康経営を掲げる企業が増え、喫煙ルームをオフィスからなくす流れにある中で、そこにPOZを入れれば、オフィスの一角を健康促進のためのポジティブなスペースに変えていくことができる。それは我々にはできないことなので、すごく魅力を感じています。

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――金さんはバックテック社のサービスをどのように見ていますか?

 たとえば、「ぎっくり腰」というように、ほとんどの人は「ぎっくり」となってからでないと病院に行かないわけです。それに対して、バックテックさんは“予防”に軸足を置いている。さらに理学療法士とも連携して、もし悪化したらちゃんとリスクを評価して、時には病院に行くよう指摘もしてくれる。病気が起こってからでなく、未然に対処することで生き生きと働くことができるという体験を提供されている。この発想はまさに先駆者であり、ヘルスケアテックのベンチャー企業として、日本を代表する存在になっているのではないかと思います。

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――バックテック社の創業は2016年ですが、当時はまだ「健康経営」という言葉は一般的ではなかったですよね。その中で最初から現在の企業向けサービスとして展開されたのですか?

福谷 いえ、最初はto Cのサービスでした。というのも、当時は法人向けの需要がまったくなかったんですよ。人事部にヒアリングしても、従業員の健康管理は個人の責任というムードがものすごくあった。それで個人向けとして始めたのですが、健康経営という言葉が広まったことでマーケットができ、我々も一気に法人向けにピボットしたという経緯です。

 これはあとから振り返って気がついたことですが、実はソリューションのピボットに関しては、POZも同じ道をたどっているんです。

――POZも最初は個人向けとして考えていた?

 そうです。もともとクライアントの姿勢解析技術というものがあって、それが何に活かせるのかという問いがPOZ(当時はまだ名前もありませんでした)の出発点でした。360°で幅広くアイデアを出す中で、スポーツのチュートリアルはいけるのではないかという方向性にたどり着き、さらに検討する中で、先ずはヨガにフォーカスしました。だから最初は、YouTubeでポーズを見ながら見よう見まねでヨガ上達を目指す独身ビジネスパーソン(主に女性)向けに、カメラとソフトウェアでポーズを解析しながら、正しい姿勢に導くという個人向けの体験(サービス)を創造しようとしました。

しかし、現状では大画面液晶やパソコンのカメラが必要だったりと、個人宅に導入するサービスとしては、現状ではハードルが高いだろうという結論になりました。では、どういう場所であれば技術が生活に溶け込み、毎日の生活をアップデートできるか議論する中で、まさにバックテックさんと同様に「健康経営」というキーワードが浮かんで来たのです。

――どちらも最初から法人向けとして考えられたわけではなかったということですね。

福谷 課題があって、それに対するソリューションがある。でもプロトタイプをつくってみて市場とマッチしなければ、ソリューションをピボットしていく。事業検証の仕方はそうやるのだとGTEPで習ったので、染み付いているのだと思います(笑)。

 この話をもとに2人で「新規事業の立ち上げ方」みたいな講義ができるかもしれませんね(笑)。


■いかに社員の運動の継続率を上げることができるのか?


――お互いの事業については、定期的にシェアされたりしていたのですか?

 そうですね。定期的に会って互いの事業について話し合っているうちに、実は私たちが協力することで、互いのサービスを補完し合う関係になるのではないかと盛り上がったことがあるんです。そのときに書いた図がこれなんですが。

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 現在、バックテックさんにはアプリの中で簡単にできるエクササイズの動画があったりするのですが、動画を見ているだけでは、「本当にこれでやり方が合っているのかな?」という疑問が出てくると思うんです。それに対してPOZは、リアルタイムでポーズのフィードバックを受けることができますし、ターゲットにしている顧客層も非常に近いから、互いに送客し合うこともできるのではないか。そういうアイデアを図にしたものです。

福谷 弊社の課題として、オンラインのサービスのみではモチベーションを保つのが難しいということがずっとあるんです。そこでPOZが我々の弱みを補完してくれるという可能性が見えてきたので、近いうちに一緒に仕掛けられたら、と、目下作戦会議中です。(笑)

――健康経営を実現するためにこういうサービスを導入しても、効果を実感してもらうためには継続的に使ってもらわないと意味がありません。そのための工夫は、どのように考えていますか?

 POZの場合は“手応え”だと考えています。それはやったあとに感じる精神的な手応えと、正しい姿勢を教えてもらいながら上達の実感を味わう習熟度の手応えです。その2つを自然に感じてもらうために、POZでは日々試行錯誤しながらUXを改善しています。

福谷 私の考えとしては、大きく2つあります。ひとつ目はニッチに絞る。我々のサービスがそうなのですが、肩こりや腰痛解消のために使ってくださいって言うと、継続率が下がるんです。でも、もっとターゲットを絞って、整体院に行っても治らない人に使ってほしいと言うと、継続率が上がります。しかもなんとなく使ってみた人と違って、効果を実感したら、いい評判を積極的に口コミしてくれるんです。

だから、ボリュームそんなにないんだけど、切実な課題を持っているニッチに絞ってまずは訴求して、次のセグメントに移っていくということを繰り返す。事業的な視点では、それが重要だと思っています。

2つ目は、運動習慣をいかに継続してもらうかということですね。ここで重要なのは不安の解消です。普段、運動してなかった人が久しぶりに再開すると、実に約4割が膝や腰に痛みを感じるというデータがあります。さらに、その中の半数が運動を辞めたり、頻度を落としたりする。

――運動が苦しい体験になってしまうと、続けるのが億劫になってしまうわけですね。痛みの原因は正しいやり方を知らなかったり、いきなり負荷をかけすぎるといったことですか?

福谷 おっしゃるとおりです。だから、そこで我々が「こうするともっと楽に運動できますよ」というアドバイスをすることで、不安を解消してあげるようにしています。実際、検証してみると、それによって継続率が高まるということがわかっています。

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■オンラインのサービスだから多様化する働き方に対応できる


――継続率のほかに、健康経営を実現するためにクリアしていくべき課題はありますか?

福谷 働き方改革が推進されている中で、最近は主に外資系企業の方から、リモートワーカーの健康状況を改善していきたいと相談されることも増えました。これはいろんな研究でわかってきたのですが、リモートワークは一定日数を越えると、身体を壊しやすくなります。それは運動不足もありますし、誰かに気軽に相談できないことでストレスを抱えやすいという側面もあります。そういう中で多様化する働き方に合った健康経営をどうやったら実現できるか。我々のようなオンラインのサービスであれば、そこに対応できます。

 様々な方とお話する中で知った、アメリカの西海岸発祥の「オレンジセオリーフィットネス」というジムがあるのですが、そこでは参加者がFitbitのようなヘルスケアメーターを身に着けて運動すると、画面にそれぞれの心拍数や消費カロリーが共有されるようになっています。コーチがそれを見ながら参加者のテンションを上げていくのですが、一緒に運動することで、そこに一体感のようなものが生まれて、ひとりで黙々と運動するよりもやりがいのある体験にしているんですね。

これはまだ構想の段階ですが、POZがインターネットにつながるようになったら、部屋にひとりでいるリモートワーカーも、オフィスで働いている人も、それぞれ別の場所にいながら、時間だけ決めて一緒に運動するといったことができるようになり、多様な働き方に対応した健康経営ができるようになるかもしれません。

――それだとシェアオフィスとかもターゲットに入ってきますね。

 そうですね。いろんな働き方に対応できるサービスになっていくことで、いわゆる会社員だけでなく、働くすべての人が、より生き生きと働ける世の中にしていきたいと思っています。

バックテックについての詳細はこちら  https://www.backtech.co.jp/
POZについての詳細はこちら http://poz.co.jp/

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