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量子とは【量子コンピュータ入門2】

前回の記事では、量子コンピュータ入門のはじめの一歩として、量子コンピュータが一体どんなものであるのかをざっくりと説明しました。

これからの記事では、もう少し具体的に量子コンピュータがどのような原理で動作しているのかを解説したいと思います。その前に、量子コンピュータの原理を理解するためには、「量子」という概念を理解する必要があります。その前に、量子コンピュータの原理を理解するためには、「量子」という概念を理解する必要があります。
本記事では、量子とは何かを理解できるようになることを目指しています。

量子とは

結論から申し上げますと、量子とは非常に小さな物質のことです。
例えば、以下の例が挙げられます。

・電子、原子、分子
原子、分子そして電子といった物質を構成している基本的な粒子が量子の代表例として挙げられます。

原子分子 - コピー - コピー

・光子 (フォトン): 光の粒
光は、一般的に波として扱われることが多いと思いますが、実は光子(フォトン)という光の粒から成り立っています。

この他にも、様々な量子とよばれるものが存在します。これらの量子に共通していることは、それらが非常に小さな物体であるということです。
そして、量子コンピュータや量子センシングといった量子技術は、このような目には見えない非常に小さな物体の状態を精密に制御しなければいけないのです。

ただし、注意点があります。

「量子は小さいものである」というのは、厳密には正しいわけではありません。量子とは、量子的な性質を有するものであり、小さいから量子というわけではありません。しかし、一般的には小さい物質のほうが、量子的な性質が顕著になるのです。

ただ細かい話を抜きにする場合は、量子とは非常に小さい物である捉えていただければ問題ないかと思います。

量子は波である

それでは、なぜ量子を用いることで、量子コンピュータや非常に感度の高いセンシング(量子センシング)が実現できるのでしょうか。それは、量子の波としての性質がカギを握っています。

「量子は波である」とはどういうことなのか。

ここでは、電子を例に説明をしていきます。おそらく、多くの方は電子という言葉を聞いた時に、「小さな粒」を想像しているかと思います。それは、間違いではありません。しかし、実は波としての性質も持ち合わせているのです

二重スリットの実験

量子が波であることを実感できるのが、二重スリットの実験です。
二重スリットの実験では、二つの細い穴(スリット)が入った板に向かって、電子を放出します。

スリットまとめ - コピー - コピー

さらに、スリットの向こう側には、電子がたどり着いたことを検知する特殊な板が設置されています。もし、電子がその板に到着すると、その跡が点として残るわけですね。
ここで、何度も電子を放出した後に形成される電子の痕跡がどのようになるのかを検証したのがこの二重スリットの実験です。

電子が粒子である場合

それでは、まず電子が粒子であるとして、この二重スリットの実験の結果を予想してみましょう。もし、電子が粒子なのであれば、上の図の予想される結果のように、スリットを通り抜けたところだけに跡が残るはずです。これは、下の図で表現されるように、電子の粒子的な振る舞いから予想される結果です

粒子スリット - コピー - コピー

しかし、実際に観測される結果は縞々の干渉模様が観測されます。一体なぜか。

これは、電子が波としての性質も持つということで理解できます

冒頭でもお伝えした通り、量子には波としての性質があります。つまり、電子を波として理解することができるのです。

波粒子 - コピー - コピー

電子を波として考えた場合

それでは、電子を波としてとらえ直した時、二重スリットの実験はどのように解釈できるでしょうか。

先ほど、電子が到達した痕跡が縞模様のようになるという結果がありました。これは、まさしく量子を波としてとらえ直すことで説明ができるます。
つまり、右側のスリットと左側のスリットを通り抜けた量子の波、
もう少し正確に説明すると、どちらのスリットを通り抜けたかのか分からない波が干渉することで、量子の波の干渉(量子干渉)を起こします。その結果、このような干渉縞が出現するのです。

波 スリット - コピー - コピー

量子の波の意味: 量子を発見する確率の大きさ

さて、ここで量子の波とは具体的にどのようなことを意味しているのでしょうか。結論から言いますと、波の高さはその量子を発見する確率の大きさに対応します。

確率振幅 - コピー

この図のように、波の高さが高いほどその量子を検出できる確率が高くなります。

実は、量子というのはその場所に確実にいるという保証はないのです。量子は、とある確率でその場所に存在しますその確率の大きさが、この波の高さに対応しているのです

つまり、さきほどの二重スリットの結果は、下の図のように干渉効果によって量子の存在確率が高いところと低いところが交互に出現しています。

確立干渉 - コピー

このあたりのお話しは非常に複雑であるので、今後の記事で詳しく解説したいと思います。

まとめ

今回は、量子の性質、特に量子が波としての性質を持つことを解説しました。この量子の波の性質は非常に大切な事実であり、量子技術はこの量子の波を上手に制御することで実現可能になります。

参考文献

[1]  M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information (Cambridge Univ. Press, 2000).
[2] 嶋田義皓 (2020) 「量子コンピューティング」 情報処理学会出版委員会 
[3] 藤井啓介 (2019) 「驚異の量子コンピュータ」 岩波書店 
[4] 武田俊太郎 (2020) 「量子コンピュータが本当にわかる!」 技術評論社