見出し画像

量子ビットとは【量子コンピュータ入門3】

本記事では、量子コンピュータの要である"量子ビット"について解説したいと思います。

量子ビットとは、普通のコンピュータのビットの量子版です。この量子版のビットを使って情報を表現し、情報処理を行うのが量子コンピュータです。

古典ビット

量子ビットの説明に入る前に、私たちが普段使っているコンピュータやスーパーコンピュータで使われている(古典)ビットの説明をしたいと思います。古典とは、量子を用いていないコンピュータという意味でした。家庭で使われているパソコンやスーパーコンピュータがまさしく古典コンピュータです。

ビットとは、0と1の二値をもつ情報の最小単位のことです。文字や数字といった様々な情報を沢山のビット列で表現することで情報処理を行っています。例えば、こんな感じです。

りょうし - コピー

量子ビット

量子コンピュータでは、量子ビットと呼ばれる量子情報の最小単位を使って、情報を取り扱います。

量子ビットの最大の特徴として、量子ビットは0と1の両方の値を同時に表現することができます。古典コンピュータのビットが0と1のどちらか一方の値しか表現できないのに対して、量子ビットでは、0と1の両方の状態を同時に表現することができます。これを量子ビットの重ね合わせ状態と呼びます。

古典ビットと量子ビット - コピー

もう少し詳しく説明すると、重ね合わせ状態というのは、ある一定の割合で量子ビットの0と1が混ぜ合わさっているということに相当します。

例えば、量子ビットの0と1が30%と70%の割合で混ぜ合わさっているとします。ここで、量子ビットを100回読み出すことを考えてみます。すると、0が得られる回数は30回、つまり確率30%で0が得られ、1が得られる回数は70回、つまり確率70%で1が得られるということになります。

古典ビットがノイズが無い限り100%の確率で0または1が得られるのに対して、量子ビットはその0と1の重なり度合い(まざり度合い)によって、0と1が得られる確率が変わるのです。これが量子ビットの重ね合わせ状態というものです。

この重ね合わせ状態が実現できると何が嬉しいのでしょうか。結論から申し上げますと、沢山の量子ビットの重ね合わせ状態を利用することで、一度に多数の組み合わせを表現することができます

具体例を出して考えてみましょう。

(A) 1個の古典ビット vs. 1個の量子ビット
1個の古典ビット: 0と1のどちらかの1通りを表現できます。
1個の量子ビット: 0と1の両方の2通りを表現できます。

1個 - コピー

(B) 2個の古典ビット vs. 2個の量子ビット
2個の古典ビット: 00, 01, 10, 11のどれか1つを表現できます。
2個の量子ビット: 00, 01, 10, 11の全ての4(=2×2)通りを表現できます。

2個 - コピー

(C) n個の古典ビット vs. n個の量子ビット
n個の古典ビット: 00.....0 (0がn個並んでる)から11.....1 (1がn個並んでる)ものまで2のn乗通りのどれか1つを表現できます。
n個の量子ビット: 00.....0 (0がn個並んでる)から11.....1 (1がn個並んでる)ものまでの全ての2のn乗通りを表現できます。

n個 - コピー

このように、量子ビットの数(n)が増えれば増えるほど、爆発的に表現できる計算の組み合わせが増えていきます。n個の量子ビットを持つ量子コンピュータは、2のn乗通りの計算を同時に処理することができるのです。

具体的な例として、量子ビットを古典コンピュータで表現するために必要なメモリを考えてみます。細かい数学的な定義を抜きにすると、たった50量子ビット、つまり2の50乗通りの計算パターンを表現するだけでも、スーパーコンピュータのメモリをはるかに凌駕する領域に突入します

量子ビットの重ね合わせ状態が使えるから量子コンピュータは計算が速いのか?

量子コンピュータは、量子ビットの重ね合わせ状態を使うことで、多数の計算パターンを同時に処理できるから計算が速いのでしょうか。

実は、これは間違いです。

確かに、重ね合わせ状態を用いることで非常に多くの計算パターンを表現することが可能なのです。しかし一方で、量子コンピュータの出力は多数の計算パターンからたった一つの計算結果したか読み出せないという特徴があります。

計算結果1tu - コピー

この事実は量子力学の原理的な要請から生じる問題であり、これを変えることはできません。このままですと、多数の計算パターンのどれか一つが、ランダムに出力される計算機であり、あまり効率的な計算にはなりません。

その代わり量子コンピュータでは、特定の答えが得られる確率を高くするということを行っているのです。その結果、欲しい答えに非常に高い確率でたどり着くことができるのです。

欲しい答え - コピー

次回の記事では、量子コンピュータがどのようにして、欲しい答えが得られる確率を大きくしているのかという解説をしたいと思います。

参考文献

[1]  M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information (Cambridge Univ. Press, 2000).
[2] 嶋田義皓 (2020) 「量子コンピューティング」 情報処理学会出版委員会 
[3] 藤井啓介 (2019) 「驚異の量子コンピュータ」 岩波書店 
[4] 武田俊太郎 (2020) 「量子コンピュータが本当にわかる!」 技術評論社