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町工場と市民が作った「置いておくだけで2億円得する」アイテムとは?

群馬県は、生活系収集可燃ゴミの排出量(1人あたり)が全国ワースト1位に迫る「ゴミ大国」。その中でも、もっとも人口の多い高崎市は群馬県平均水準を下回っています。

その可燃ゴミの焼却には、高崎市のぶんだけで年間約36億5000万円が使われています。そしてこれを1人あたりに換算すると、なんと1万円。1世帯ではなく1人あたりの金額ですから、5人家族であれば年間5万円を「ゴミを燃やすこと」に使っていることになります。SDGs推進が世界のスタンダードになっている中、地域のゴミ処理にまつわる課題も無視できるものではありません。

「これは環境問題であり、経済の課題でもある。このままではいけない」──高崎市の未来に責任を持とうと立ち上がったのは、市民とともにプロダクトをつくる町工場の集団でした。

「2億円くらいなら市民の手でどうにかできる」

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「高崎市から出ている可燃ゴミのうち、約60%が生ゴミです。そして生ゴミの約80%は水分。つまり、可燃ゴミ全体の4割程度が水分なのです。私たちは、ゴミの中の水分を燃やすためだけに数億円の税金を払っていることになります」(山崎さん)

高崎市のイタリアンレストラン・Gru。2019年12月16日、ここで「高崎生ごみ減量プロジェクト」の製品&プロジェクト報告会が開催されました。マイクを持つのは、プロジェクトを牽引する山崎将臣(やまざき まさおみ)さん。高崎市で精密板金・プレス加工を行う「有限会社 山崎製作所」代表でもあります。

「日本人1人あたりの1日の生活系収集可燃ゴミ排出量の全国平均は413g、それに対して高崎市は572g。実に1.3倍量です。となれば、私たち高崎市民が『ゴミを出すときに水分を取り除く』だけで、多くの費用を削減できるのではないでしょうか。

もし生ゴミ中の水分が全て取り除かれていれば、約17億円のコスト削減になります。もちろん全ては無理でも、10%程度減らすだけで2億円程度の削減になるわけですから、それくらいであれば市民の手でどうにかできる可能性があるのではないか。そんな思いから、このプロジェクトが走り出しました」(山崎さん)

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このプロジェクトを技術面から支えるのは、山崎さんが代表をつとめる町工場集団「カロエ」。デザイナーや造形家とタッグを組み、確かなものづくり技術をもとにユニークな家具やアート作品を製作しています。

「『カロエ』は異業種の製造業の連携体です。私の会社は精密板金加工を主体としていますし、同じ金属でも鋳物、鍍金、切削の加工屋さんや、木工屋さん、建築屋さん、電気設備屋さんなどが所属しています。ものづくりに関するキャパシティが整っているから、高崎市が可燃ゴミ処理の問題に取り組んでいることを知ったとき、すぐに本プロジェクトをスタートすることができました」(山崎さん)

試作品完成!次の目標は「本当の実現」

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「高崎市民」と「高崎市の製造業」をかけあわせて地域課題の解決を試みるカロエ。今回はボトムアップでの製品開発にチャレンジしています。

「生ごみの水分量を減らすために、高崎市民を集めて『こういう水切りグッズがあったらいいんじゃないか』というアイデアを募集しました。そこではユニークなプロダクトや仕組みが生まれ、拡散された意見を5ヶ月後にデザインへ落とし込みました」(山崎さん)

群馬県内外のデザイナーなどから持ち込まれた複数のデザイン。その中から、「これを使ってみたい」という意見と投票を集め、みんなの意見が反映された試作品が製作されました。

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「水切りグッズのメインユーザーは、いまのところ主婦。そこで彼女たちの『なるべく洗う手間を増やしたくない』『置き場所に困るので小さいものがいい』…といった意見を参考に、置いておくだけで水が切れる一番カンタンな構造のものを採用しました。」

完成した試作品のユーザーテストを行った結果、10%程度の水分を取り除くことができたそう。自分の手から離れた「ゴミ」に対して意識的であると、この10%がとても意味ある数字に見えてきます。とはいえ、今回出来上がったのはあくまで試作品。これからは、本当の意味での「実現」──つまり、高崎市全域に水切りの意識を普及させることが課題になります。

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持続可能なまちを作っていくためには、みんなで考えて手を動かすことが重要です。「自分だけでは出来ないけど、誰かに頼れば出来る」。今回のプロジェクトにおいて、その実例となる第一歩が踏み出されました。