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品質管理の玉手箱(8)

現場管理から経営管理へ

 労使の意志疎通を目的とした企業の施策や制度の実態を明らかにするために厚生労働省が5年毎に行ってきた"労使コミュニケーション調査"の結果の推移(第61回の図2)をみると、小集団活動に対する経営者の期待度(重視度)が大きく(10%以上)低下した時期が2度ありました。

 1度目は1984年から1989年にかけての-15.3%で、この時は、急激な円高不況と国内の人件費高騰の影響から、それまで小集団活動の発展に中心的役割を担ってきた国内製造業の有力企業が相次いで製造拠点の海外移転を進めたことが、小集団活動への関心や期待度の低下に繋がったと推測されます。

 そもそも、日本型品質管理(日本型TQC)も小集団活動(QCサークル)も、日本の政治経済体制や企業の雇用形態、日本人の価値観や国民性(気質)に合わせて進化させてきたものですから、それがそのまま海外の工場でも通用すると期待する方が非現実的で、この時代は、日本型品質管理を海外展開するための手段を暗中模索する中で、海外における小集団活動の有用性を見直す企業がでてきました。

 そして、1990年代に入って、主に東南アジアに進出した日系企業の生産拠点を中心に日本型品質管理が成果を出し始めた頃に、それまでの日本の品質管理に対する概念を大きく変える事件が起こります。

 それが、ISO9001規格に基づく品質(マネジメント)システムの認証登録制度です。

 1987年に制定されたISO9000シリーズ規格は、元来、企業の品質保証システムを構築するための、単なる”国際的なガイドライン“として、日本を筆頭とする先進工業国に浸透していったのですが、そこに事業機会を見出だした組織が"認証登録ビジネス"を立ち上げ、あたかも「この認証がなければ、海外に製品を輸出できなくなる」かの様な根も葉もない噂を広めたことで、特に経済基盤を国際貿易に頼らざるを得なかった日本の産業界は、一気に、ISO9000規格が提唱する新たな品質管理の概念に方向転換しました。

 こうして、日本の品質管理の主体は一足飛びに現場から経営(層)に移り、その結果、多くの企業で、QCサークルを始めとする日本型品質管理が置き去りにされ、1994年から1998年にかけての、2度目の小集団活動への期待度の大幅低下(-14.6%)に繋がったのです。


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