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「新聞記者」について(個人的感想文)


結論から書くと、よくできたフィクションであり、
よくできた再現ドラマでもあり、
よくできたエンターテインメントだった。

「フィクション」というのは、たとえば赤木さんをモデルにした
鈴木さんの奧さんが、望月さんをモデルにした松田記者に
遺書を託したのは、元NHKのジャーナリストの相澤冬樹さん
だったと思うので、あれ望月さんはこの件でそこまで食い込めて
いなかったんじゃないのかというところや、佐川局長をモデルに
した毛利さん(あーめんどくさい!)が部屋で酒飲んで悔恨の日々を      過ごしている様子など本人でしかわからないものはあるので創作の部分が    大きいだろうというところ。あとユースケ演じる官邸ブレーンの豊田氏とかさ。

一方、きっとこうだったんだろうなと思わせる意味では
まるで「再現ドラマ」かのように臨場感をもって立体化されている。
鈴木さんがどんどん追い詰められていくところのリアルさは
生々しいし、上意下達式に伝えていくところあたりは本当に
役所なんてそうだろうなと思わされる。

そして「エンターテインメント」としての評価としては
横浜流星や小野花梨などの学生の目線を描くことで
世の中で起きていることに対していかに若者が
無関心であったり、逆に義憤に燃えて理想を
貫こうとするのか、あるいは内定取り消しのような
本当に起きていた問題などをうまく絡めて
おとぎ話のようにしなかったところ。全話見ても
長いとも思わなかったし、まったく飽きさせない
作劇術はまさにこれが実録モノではなく良質の
エンターテインメントとして成立していることを
証明している。

だからこそ、文春で報じられたような舞台裏での
トラブルは残念だったし、そういうところの
脇の甘さが、世に溢れる安倍ちゃん応援団や自民大好きさんや
リベラル嫌いの論客などに揶揄されてしまう原因に
なってしまった。誰がどうみても疑惑のデパートだった
当時の総理を追及する野党やマスコミに「ストーカー」とまで
呼んでいる人たちが今でも一定数いるし、そんな人たちの多くは
ひたすらアベノマスクありがとう、安倍さんありがとう、的な
サポーターなのできっとこういうドラマは天に唾吐く不埒な
物語だったはず。そんな怒り心頭のところに降って湧いた制作
スキャンダルは彼らの格好の餌食となってしまった。
折角、良質なドラマをつくっても足元をすくわれかねない
事前事後の対応が残念でした。

あと、「JFK」でオリバー・ストーンが批判されたのは
歴史的かつ客観的事実と、「本当はこうではなかったのか」
という仮説や予断をあたかも真実のように描く手法だった。
安倍さんがどれほど疑惑のデパートであろうが財務省や
官房長官がどれだけ人権や正義に対して鈍感であろうが
真相が闇の中である以上、どこまで本当らしく見せるのかは
難しいところだったと思う。よく知らない野次馬みたいな人などは
すべて信じる側か、すべて嘘だと思う側かのどちらかになりがちだから。
こういうところもきちんと対応していかないといけないでしょうね。今後。

とはいえ、民放どころかNHKでも絶対にできない難しいテーマを
よく取り上げられたのはさすがNetflix。いま日本のメディアはどんどん
物言えば唇寒しの状態だけに、志ある制作者はもう最初からNetflixを
目指すのではないかと思えるほど。こういう現状に対して少しでも
悔しいと思うテレビマンがいるのであればぜひ「日本のテレビを舐めるなよ」
と胸を張れる作品をつくってほしい。ドッキリで穴掘ったり、無人島で
サバイバルとかもいいけどさ。二番煎じでもないし、芸人の使い回しでもない
プロとしての意地が垣間見えるコンテンツをテレビマンには望みたい。


それが元テレビマンの希望です。

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