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解説者の「当てた方も痛い」はもうNGにしたい

巨人の高梨選手が阪神の近本選手へ死球をあてた。高梨は試合後自身のSNSでそのことに触れることはなくチームメンバーの好投を称える投稿をした(後に自分のことではなくあくまで仲間のことだと弁明)。近本は結局骨折だったことがわかりチームを離脱。高梨は公式に謝罪。復帰した近本本人にも球場で謝る。しかし、高梨への非難はおさまらず巨人戦では彼が登板するたびにスタンドからヤジやブーイングが浴びせられることに。これに対して「阪神ファンはしつこい」「民度が低い」など主に阪神ファン以外から批判がおこっている。とここまでが一連の流れ。

僕のスタンスを先に書いておくと、確かに野球に死球はつきものとは考えるがそれを当然だから何も謝る必要はないとまでする考え方には反対である。「時には当たることもある」と「だから当ててもいいし謝る必要もない」は全く違うからだ。

以前、死球が多いことで有名な東尾は「打者は当たったら一塁に行ける。それでいいじゃないか。死球は当てた投手だって痛いんだ」と言い切った。また死球でピンチを拡げる度に解説者もこんなことを言う。「これは当てられた○○君も痛いけど当てた××君の方がもっと痛いですね」しかしこれが詭弁であることは小学生でもわかる。投手は塁にランナーが出てもケガはしないが、打者は下手すれば選手生命に関わるほどのリスクがあるからだ。これは割に合わない。痛いのは打者なのだ。

1970年、田淵が外木場から頭部死球を受けた時は耳から血が流れ田淵はその場で動かなくなった。これを契機に耳当てがヘルメットについた。それくらい打者は自らの身体に向かってくる剛速球に恐怖を感じつつ打席に立っている。いまでも藤浪の死球を集めた映像はYouTubeなどで簡単に見られると思うけどあれを見たら彼の時には打席に立ちたくないと思ってもしょうがない。死球は「やってはいけないもの」であり、どれだけ注意してもすっぽ抜けたり手元が狂って不幸にも当ててしまうことがあるがその場合はペナルティとして進塁、また頭部に関しては険球退場というルールがあると理解している。つまりルール上、死球への罰は明文化されているというわけだ。

だからといって達川のように「首から下なら当ててもいいという不文律がある」などと言い切るOBや「故意じゃないんだしそもそも謝罪する必要はない」などと言うコメントをする人もいると「ちょ、ちょっ、待てよ」と言いたくなるのだ。

ここであらためてプロ野球の死球について炎上してる問題の論点を整理する。
・その死球が故意か故意じゃないか
・死球を与えたら謝罪する必要があるかないか
・ファンの球場でのブーイングやヤジ、ネットの誹謗中傷をどうするか

前述した「選手生命の危機」になり得るという観点からいえば故意とか故意ではないとかは関係なく、まず死球はすべてよくないものと言える。さらに踏み込むと故意じゃないのはいい、というのは逆に故意の死球があるということを暗に認めていることになり、それは「故意死球などというものはない」とする性善説を前提とするプロスポーツの精神上おかしい気がする。

次に謝罪の是非についてだが、これは人としてケガさせかねない行為に対して帽子をとるなど頭を下げるだのという日本式の謝罪の表明が、以前はMLBの選手から「謝るということは当てる気できたのか」と怒りを買うなどと言われたけど、今はご存知の通り、大谷の活躍や彼の日常の振る舞いにより、当てたら謝るのは「日本人らしいマナー」として認知されているのも事実。さらにそうしたグランド上のマナーに加え、病院にまで行った選手に対して翌日以降、相手ベンチに謝りにいくことは日本では珍しくないけどこれも人として当然だと思う。

いま、昭和に比べれば乱闘は減ったけどその背景はコンプラ重視の世間一般の流れと無関係とは言えないし、さらにはWBCなど世界大会にオールジャパンとして戦う仲間としての意識が高まり、昔の星野監督のように「敵だから話すな、仲良くするな」みたいなことを言う武闘派がいなくなったことも大きいと思う。そしてそれは悪いことではないと思う。それこそ乱闘ばっか見せられてうんざりしてたので。

最後、今いちばん問題になっている阪神ファンの高梨へのブーイングについて。「子供が聞いていてつらい」という意見もあったけど、子供が傷つくようなヤジがどんなものかその場にいないのでわからないけどそれはやめた方がいいとは思う。たとえば巨人のある人気選手が避妊しないで性交した女性の妊娠を知ると堕胎を迫り揉めると最後は球団の弁護士に交渉を任せ、金で示談にしたという出来事はこうやって書いていてもムカムカするくらい不愉快だけどだからといってそれをスタジアムで「け○あ○確定」などと連呼して野次るのはさすがに子供の耳には入れたくないなと思うので控えてほしいと思う。人格攻撃や恫喝に近いものはそもそもマナーとしてというより人としてどうかと思うのでやめるべきだし、言ってもやめないならJリーグなどのように強制排除、入場禁止も視野に入れた方がいいと思う。

一方、ブーイングというのは僕はファンにとって最も穏便な「抗議」の手段だと思っていて、たとえばNBAで相手のフリースローの時に子供からじいさんまで必死にブーイングするのも、MLBで敬遠で勝負を避けるやつにブーイングを浴びせるのもファンとして唯一やっていいものだと思ってる。好プレーに拍手やエールを送るのと敵チームにブーイングするのはまあよいのではと個人的には思ってます。なので、高梨が登場するたび阪神ファンからブーイングをもらうのもまあ今年は仕方ないかなと。ブーイングでケガするわけじゃないしね。
ただそれとネットでの誹謗中傷は別。これを書いている最中、今度は梅野捕手が死球をもらい骨折で今季絶望かということになった。さっそく当てた投手に対して「夜道を歩けないようにしてやる」系の脅しや、罵詈雑言が届いているという。これはもう警察に訴えた方がいいレベル。球場でのブーイングはOK,グラウンド外での中傷はアウト。これが僕の意見です。
それにしても、死球が「野球なら当たり前」とか脳天気なことを言っているOBやメディアは「当てたらどのくらい大変なことになるのか」をもっと伝える側にまわった方がいいと思うけどね。

その昔、東尾がデービスに殴られたとき、「あんな投球じゃ殴られてもしかたない」という意見は同じチーム内にもあったという。あれから何十年も経ったけど、死球に対して変わったのは危険球退場くらいで選手を守るルールはほとんどない。確かにいまは肘などいろんなプロテクターをするようになってある評論家が「内角を攻めてもよけなくなった」と嘆くくらい痛くなくなってきたのかもしれないが尺骨のような小さいところやプロテクターのないところに当たったら骨が折れる危険性は減ったわけではないむしろ昔より投手の球威があがっているだけに危険性は増しているのではないかとさえ思える。

コリジョン、リクエスト制度など、野球界も進化してはいる。でもやっている選手が生身の人間である限り、常に危険はつきまとう。死球を取り巻くルールの見直しも必要なのではないかと思う。ただどういう方法がいいかはわからないけれど。

将来有望な選手が選手生命やリアルに生命の危機などの不幸なことにならない方策を見つけてほしいとただ思う今日この頃です。

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