ブレヒト/なくてはならぬ役人

「ずいぶん長いこと、その役目に坐っている、ある役人について、あの人はなくてはならぬほど、それほどよい役人であると、だれかがほめているのを、コイナさん、きいた。「どうして、なくてはならぬ人なのです?」とコイナさん、不機嫌になって、質問した。かれがいないと、役所の仕事がすすまないからです、というのが、ほめる人の言だった。「役所の仕事が、かれなしにすすまないとき、どうしてそれが、よい役人なのです?」と、コイナさん、いった。「自分がいないと困るように、かれの地位をうまくあんばいするだけの、時間があったのですな。いったい、かれはなにをあんなにやってるのです? きみたちにいいたいね、ゆすりたかり、ですよ。」(長谷川四郎訳『コイナさん談義』)。

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