「昭和史サイエンス」(112)

近衛上奏文

 小磯国昭内閣期に、もう1つ重要な出来事がありました。昭和20年2月14日、近衛文麿が天皇に上奏した話の内容、いわゆる「近衛上奏文」は、本書のテーマからしてきわめて重大なものです。近衛上奏文とは、「国体護持の立場より憂うべきは、敗戦よりもこれに伴う共産革命」という点が主眼となったものです。
 なるほど、日本国内で敗北必至の状況を悪用して、実質的な共産革命を起こそうという動きも実際一部にあり、史料からも確認できます。
 ただ、この言葉をより広義に解釈して、太平洋戦争終結にむけての動きを悪用して、連合国側との仲介工作をソ連に依頼することで、日本を実質的に同国の衛星国にしようとの一連の工作のほうが際立っています(詳細は後述)ので、今後はこの広義の意味での一連の工作を重視する視点から、「近衛上奏文」と鍵括弧付きで表記することにします。
 なお、近衛が上奏の際に天皇に申し出た対米直接和平交渉の要望は、受け容れられませんでした。この時期、日本は圧倒的に不利な状況でしたが、まだアメリカを中心とした連合軍に対し一撃を与える余力は残っているとされ、そのうえで終結交渉を有利に運ぼうというのが、天皇を含む日本上層部の判断でした。いわゆる一撃和平論です。
 

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