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埼玉県立近代美術館「ボイス+パレルモ」展


埼玉県立近代美術館では2021年7月10日(土)から9月5日(日)まで「ボイス+パレルモ」展が開催される。今年生誕百周年を迎え、20世紀を代表する芸術家ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)と、その教え子でもある画家のブリンキー・パレルモ(1943-1977)を紹介する展覧会だ。日本におけるボイスの大規模な展示は2009~10年の水戸芸術館現代美術センターでの「Beuys in Japan:ボイスがいた8日間」以来約10年ぶり、そしてパレルモ展は公立美術館で初となる。

本展では「社会彫塑」を提唱し緑の党の結成にも関与したボイスについて、思想家というより造形行為や素描家としての一面を見せたいという狙いから、日本では観る機会が限られていた初期のドローイング、欧米以外では初の展示となる60年代の最重要作品《ユーラシアの杖》(1968-69)や、国立国際美術館が新収蔵した《小さな発電所》(1984)など約80点を展示。

さらにボイスの芸術実践において核であった「アクション」と呼ばれるパフォーマンスの記録映像6本を上映する。鼻血を出したボイスがオブジェを持ち右手を高々と上げている姿が印象的な「クーカイ、アコペー—ナイン!ブラウンクロイツ、脂肪コーナー、モデル脂肪コーナー」(1964)や、頭部にハチミツを塗り、金箔を貼ったボイスがウサギの死体とともに壁に掛かっているドローイングを鑑賞する「死んだウサギに絵を説明するには」(1965)など、図版で見ることが多いボイスの作品資料は、映像だと印象が変わって見えるだろう。

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「ボイス+パレルモ」展示風景

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「ボイス+パレルモ」展示風景

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「ボイス+パレルモ」展示風景

教育者として多くの芸術家を育成したことでも知られるボイスが教え子たちの中でも自身に最も近い表現者だったと認めるパレルモは1943年、戦時下のライプツィヒで生まれる。1962年にデュッセルドルフ芸術アカデミーに入学し、64年にボイスのクラスに移り、マフィアでありボクシングのプロモーターでもあったフランク・"ブリンキー"・パレルモに由来するあだ名を付けられたことをきっかけにして作家名に「パレルモ」を採用、以降77年にモルディブで客死するまで名乗り続けた。

本展では15年に満たない短い活動期間に手掛けられた作品群から、パレルモと名乗る以前の初期作品《男と女》(1963)や既製品の布を縫い合わせた「布絵画」、アルミニウムの支持体へ何度も絵具を塗り重ねることで「キャンバスと木枠を用いた場合とは全く異なる『イメージ』」[1]を作り、それを複数枚組み合わせる「金属絵画」、そして今日では現存しない壁画作品のドキュメンテーションなど約50点を展示する。パレルモの作品を国内ではじめて本格的に紹介する機会となっている。

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「ボイス+パレルモ」展示風景

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「ボイス+パレルモ」展示風景

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「ボイス+パレルモ」展示風景

政治活動やパフォーマンス、そして「社会彫塑」の概念を提唱したボイスと、絵画の可能性を追求したパレルモを一緒に紹介する初めての試みとなっており、貴重な作品群を実見できる本展は必見だ。


[1]岡添瑠子, 「『見出された色』のありか ──ブリンキー・パレルモの『メタル・ピクチャー』における色彩をめぐって」, 『REPRE』, 2019, Vol.35, https://www.repre.org/repre/vol35/note/okazoe/


展覧会情報
会場:埼玉県立近代美術館(https://pref.spec.ed.jp/momas/
会期:2021年7月10日(土) ~ 9月5日(日)
※会期中、一部作品の展示替えがあります。
 前期:7月10日(土)~8月9日(月・振替休日)
 後期:8月10日(火)~9月5日(日)
休館日:月曜日(8月9日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30 (展示室への入場は17:00まで)
観覧料:一般1300円、大高生1040円

巡回情報
豊田市美術館 2021年4月3日~6月20日 [終了]
国立国際美術館 2021年10月12日~2022年1月16日


展示風景撮影:平間貴大


平間貴大
1983年生まれ。グループ新・方法(2010-2019)。野方ハイツメンバー(2015-)。人工知能美学芸術研究会の発起人(2016)。EBUNEメンバー(2019-)。


レビューとレポート第26号(2021年7月)

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