見出し画像

前本彰子展「紅蓮大紅蓮」

2021年4月26日(月)から5月8日(土)まで、コバヤシ画廊で前本彰子個展「紅蓮大紅蓮」が開催されている。本展にむけて制作された2点と、80年代に制作された代表作の2点を中心に展示。

画像5

《大紅蓮》1986 部分

ドレスの背後に地獄の炎が燃え盛る様子が表現されている《大紅蓮》は、過去に新聞で前本の作品が取り上げられた時に「マチスに似ている」と記述された前本が「じゃあ敢えてマチスっぽく作ってやるわ」と制作で遊んでみたという作品だ。1986年になびす画廊で開催された戸谷成雄との二人展「モノローグ・ダイアローグ」で初めて展示され、作品の大きさはなびす画廊の壁面に合わせて作られた。映画『ロビンソンの庭』(1987年、山本政志監督)にも登場している。

画像2

《Silent explosion - 夜走る異国の径》1988

《Silent explosion - 夜走る異国の径》はサンフランシスコ近代美術館をはじめ全米7箇所を巡回し、国内ではICA名古屋で開催された「Against Nature:Japanese Art in the Eighties」展以来、約30年ぶりに展示される。

画像3

《悲しみの繭》2021 部分

国軍がクーデターで実権を握っているミャンマーでは、現在も治安部隊による弾圧が続いている。《悲しみの繭》の口から吐き出されている赤い蝶は、クーデターに抗議するためのデモに参加し、銃撃によって亡くなったMya Thwe Thwe Khineさんに向けて作られた。猫の仮面には耳や顎の部分に鎧が装着され、血の涙がしぶきのように顔全体に飛び散っている。その後弾圧によって亡くなった人の数だけ赤い蝶を作ろうとしたが、犠牲者が増えつづけ、とても作れる状況ではなくなってしまったらしい。

画像4

《火ノ魂国奇譚》2021

女神と赤い巨大猫の戦闘に翻弄される人々が描かれた《火ノ魂国奇譚》は二つのキャンバスを組み合わせて作られている。前本によればこの絵は当初左側のキャンバスだけで制作をはじめ、女神が虚空に手を差しのべている姿を象徴的に表現するつもりだったが、その虚空の指先に対応するように「猫の手がバン!」と出現し、その後キャンバスをもう一枚追加して画面を覆うように右側の巨大な赤い猫を描いたという。

画像5

《ダツラ・イノクシア》1990

奥の小スペースには昨年の個展「宝珠神棚」で発表した神棚の作品や、カルロス・カスタネダ『呪術師と私ードン・ファンの教え』に出てくる植物をモチーフとした《ダツラ・イノクシア》など11点を展示。


前本彰子展「紅蓮大紅蓮」
会期|2021年4月26日(月)-5月8日(土)日曜休廊 祝日開廊
開廊時間|午前11時30分から午後7時 但し最終日は5時まで
会場|コバヤシ画廊東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1
http://www.gallerykobayashi.jp/


────────
前本彰子
石川県生まれ。1980年京都精華短期大学絵画専攻科卒業。1982年Bゼミ・School修了。主な展覧会に「もの派とポストもの派の展開 1969年以降の日本の美術」展(1987年)、「Against Nature:Japanese Art in the Eighties」(1989年)。コバヤシ画廊では「宝珠夜会」(1983年)を初め「80年代の美術4―前本彰子展」(2019年)など個展多数。多摩美術大学などで講師、精神科クリニックでアートセラピー・ワークショップ。著書は「ゼッタイお姫さまゼミ」(宝島社)など。


平間貴大
1983年生まれ。グループ新・方法(2010-2019)。野方ハイツメンバー(2015-)。人工知能美学芸術研究会の発起人(2016)。EBUNEメンバー(2019-)。

レビューとレポート第24号(2021年5月)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?