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アーティゾン美術館開館記念展内覧会レポート

1952年に創設されたブリヂストン美術館は、2015年からの長期休館を経て、2020年1月18日よりアーティゾン美術館と名前を変えてオープンした。1月16日にはプレス向け内覧会が行われ、アーティゾン美術館館長の石橋寬からの挨拶、同美術館副館長笠原美智子による展覧会概要説明、そして同美術館教育普及部長の貝塚健、学芸課の島本英明による展示解説が行われた。

テキスト=平間貴大

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館長 石橋寬氏の挨拶

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その後、教育普及部長の貝塚健による展示解説が行われた。

内覧会は美術館が予想する2倍の申し込みがあり、会場はプレス関係者であふれていた。
「創造の体感」というコンセプトの元、人類の遺産としての美術作品を取り扱うために、建築は大地震にも耐えられるように設計し、停電時はオフィスを含めて72時間の発電を可能とした。4階から6階を展示室とし、LED照明による美術作品に最適なライティングと、心地よさをデザインした空間に設計されている。
開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」では、ブリヂストン美術館の約2倍になった展示面積の全展示室を用い、全コレクション約2800点の中から新収蔵作品31点を含む206点を2部構成で展示している。
第1部「アートをひろげる」では1870年代のエドゥアール・マネやカミーユ・ピサロの作品から2007年のピエール・スーラージュ《絵画2007年3月26日》に至る近現代の「東西の名品」を6階フロアに展示している。

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第1部「アートをひろげる」入り口より。1番手前に見えるのはエドゥアール・マネ《自画像》1878-79年

6階フロアは大きく3つの部屋に分けられている。このフロアは壁が斜めに設置されているのが特徴だ。

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メアリー・カサット《日光浴(浴後)》1901年(左)、アンリ・ルソー《牧場》1910年(中央壁)、オーギュスト・ロダン《立てるフォーネス》1884年頃(手前)

壁を斜めに設置することで「ある角度から観るとセザンヌと青木繁を同時に観ることができる。これらは同じ時期にパリと東京という異なる場所で作られた作品で同時代性のあるものだ」と貝塚は解説する。

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コンスタンティン・ブランクーシ《ポガニー嬢Ⅱ》1925年(2006年鋳造)、ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924年(左奥)

今回の解説で貝塚が強調していたのは「向かい合わせの展示」だ。例えばカンディンスキーの向かいには新古典主義時代のピカソの作品がある。ピカソの具象画とカンディンスキーの抽象画を、鑑賞者は後ろを振り向くことで比較することが出来る。
著作権保護期間中のため画像は掲載できないが、一つ壁の向こう側に進むとキュビスムや具体、抽象表現主義など20世紀に作られた作品が並ぶ。そして2007年に作られたピエール・スーラージュ《絵画2007年3月26日》で締めくくられる。

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第2部「アートをさぐる」では装飾、古典、原始、異界、聖俗、記録、幸福の7つの視点からアートを掘り下げる。

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5階の吹き抜けからは4階の1室を見下ろすことができる

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5階展示風景。壁も少なく、ゆったりとした空間で、6階とは天井も床も違う。

このフロアには第2部の7つの視点のうち「装飾」「古典」「原始」「異界」が展示されている。

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左から「ブーローニュ441の画家」《アッティカ黒絵式頸部アンフォラ「ヘラクレスとケルベロス図」》紀元前520-510年頃、イラン テペ・シアルク《幾何文台付鉢》紀元前4000年紀、イラン《動物幾何文嘴形注口把手付壺》紀元前1000年紀、「ラゲットの画家」《カンパニア赤像式ヒュドリア「ディオスクーロイ図」》紀元前350-340年頃(2-1 装飾より)

紀元前4000年紀に作られた壺にも施されており、人間の根源的な欲求といえる「装飾」。ここでは紀元前に作られた壺の他、モーリス・ドニ《バッカス祭》1920年や佐伯祐三《テラスの広告》1927年など20世紀の作品も多く展示されている。貝塚は「モーリス・ドニの《バッカス祭》のある位置から正面を見ると展示空間上に透明ガラスに囲まれた吹き抜けがあり、その先には小杉未醒(放庵、放菴)が日本神話を題材に描いた《山幸彦》1917年が見える。向かい合わせになるように展示をした」と解説する。

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安井曾太郎《水浴裸婦》1914年(2-2 古典より)

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ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《若い女の頭部》製作年不詳

次の「古典」のコーナーでは、エドゥアール・マネ《裸婦》制作年不詳、パブロ・ピカソ《生木と枯木のある風景》1919年、藤島武二《裸婦》1906-07年など、19世紀後半から20世紀前半の絵画を中心とする中、新古典主義の代表格であるジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《若い女の頭部》製作年不詳が目を引く。
動物としての人間が持つ、本来的な、拭い去れない特質が潜んでいるといえる「原始」コーナーにはポール・ゴーガン《ポン゠タヴェン付近の風景》1888年、黒田清輝《ブレハの少女》1891年という、フランスのブルターニュ地方で描かれた作品が展示される。
芸術が持つ、現実の向こう側にある世界への欲望を掘り下げる「異界」には「現実ではない世界への憧れ、期待する精神を描いているものを集めている」という。

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左からヴァシリー・カンディンスキー《二本の線》1940年、パウル・クレー《島》1932年

4階は第2部「アートを探る」の7つの視点のうち「聖俗」「記録」「幸福」の3つの視点から選ばれた所蔵作品が展示される。このフロアはもともといくつかの部屋に分けられ、仮設の壁を設置していない。

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《洛中洛外図屏風》江戸時代 17世紀

注目すべきは《洛中洛外図屏風》が展示されている古美術を展示するために作られた部屋だろう。展示空間は15メートルの高透過一枚ガラスで隔てられ、集中して作品を鑑賞することができる。ガラスは日本では作れず、ドイツで製作して輸入したそうだ。
美術の大きな部分を占めるのは、社会や出来事、そして美術家の内面の「記録」であるとするこのコーナーには、クロード・モネ《アルジャントゥイユの洪水》1872-73年、ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》1872年他、アンリ・ルソーやフィンセント・ファン・ゴッホ等による1870年代以降のパリの風景から、岸田劉生《街道(銀座風景)》1911年頃や松本竣介《運河風景》1943年と、20世紀前半の東京の風景を巡るように展示されている。

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(「記録」より)自画像のある部屋から5階を見上げる

4階吹き抜けの一室には自画像が7点掛けられている。また6階にもセザンヌとマネの自画像が展示されている。自画像はアーティゾン美術館の「自慢のコレクション」だ。
最後は「幸福」。「美術があることは幸福である。他者がいなければアートは存在しない。共感や、見てもらいたいという関係が存在してこそのアートだ。関係性や組み合わせによって一つの幸せな状況を作り出だす」と貝塚は説明する。

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チームラボが制作したDigital Collection Wall (デジタルコレクションウォール)が4階と5階の2箇所に設置されている。この4枚の大型タッチパネルはそれぞれ操作が出来、美術館が所蔵する作品をパネル上でも鑑賞できる。背景には所蔵作品が流れるように表示され、直感的にタッチして拡大表示することも可能だ。
https://www.team-lab.com/news/artizon20200121

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5階のDigital Collection Wallの向かいにはブリヂストンの創業者、石橋正二郎の胸像が設置されている。

アーティゾン美術館は入館までの待ち時間を緩和するために、事前に入館日時を指定してチケットを購入できる「日時指定予約制」を採用している。朝10時から90分間ずつ、30分のブランクが挟まれている。サイトでは、まず見たい展覧会を選んで、カレンダーから日付を選択し、その後時間を指定するという流れになっている。
詳しくはwebsiteを参照。(https://www.artizon.museum/ticket

※ 作品詳細は美術館作成の作品リストによる

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開催概要
展覧会名:開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」
(英語:Inaugural Exhibition Emerging Artscape: The State of Our Collection)
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
会期:2020年1月18日[土] - 3月31日[火]
会場:アーティゾン美術館
開館時間:10:00-18:00 (毎週金曜日は20:00まで/但し3月20日を除く)*入館は閉館の 30 分前まで
休館日:月曜日(祝日にあたる2月24日は開館)、2月25日[火]
担当学芸員 貝塚健、島本英明、上田杏菜

アーティゾン美術館
〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
https://www.artizon.museum/
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「レビューとレポート」 第9号 2020年2月
(パワードbyみそにこみおでん)


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