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堺友里インタビュー (1/2)

堺友里は1988年徳島県生まれ、美術家。東京工芸大学在学中から制作を始める。初期は主にアクリル絵の具を使ったペインティングから始まり、近年ではディスプレイ同士が戯曲を上演する映像作品を発表する等、作風は多岐にわたる。2020年1月には地元の徳島県で出身を同じくするパルコキノシタ、金藤みなみと共に展覧会を控えている堺にこれまで制作してきた作品について語ってもらった。

堺友里インタビュー
聞き手:平間貴大

「あたかも画廊のような雰囲気のこの空間は」(イエローハウス)2F展示風景


──今日は大学在籍中から今までどういう作品を作ってきたのかというところから作品の変遷をみつつ、これまで開催した個展や参加したグループ展についてお聞きしたいと思います。
堺:最初の個展はイエローハウスで開催した「あたかも画廊のような雰囲気のこの空間は」(*1)です。会期は2016年の3月4日から3月6日の三日間でした。短い会期の中、勢いでやった感じがします。この個展でそれまでに作った作品はほとんど展示しました。会場は1階と2階に分かれていて、1階には2015年から2016年にかけて制作した作品を中心に、2階は大学を卒業した2011年から2014年に制作した作品を中心に展示しました。更に学生時代に作った作品も多く出しました。
会場のイエローハウスはTwitterで知りました。当時、知ってる人は知っていたDESK/okumura(*2)の近くにあったというのもあってそこで展示をすることにしました。

──大学在学中は制作や展示はしていましたか?
堺:基本的には課題が出た時に制作し、友達とのグループ展やGEISAIで展示していました。
大学4年の春休みには同級生達5人で「女子栽培」(*3)というグループ展をやりました。

《星》2008

──この絵は端がやぶけているように見えます。地球にフォークが3本刺さっていて、そこから斜め4方向に向かってオーラを纏ったオレンジ色のギザギザしたものが放射されている。左右の洋式トイレに向かって沢山のカメ、蛇、イカ、マンボウ、魚などが円を描くように入っていっている。すごく良い絵ですね。
堺:この絵についてはよくわかりません。描いたことも全然覚えていません。キャンバスか紙かもわかりません。この頃はよく出てくるモチーフとしてトイレやタコやイカそしてキノコがあります。モチーフは自分の嫌いなものにしていました。

──草間彌生も自分の恐怖の対象をモチーフにしたりしていますね。
堺:この頃は絵画をどういう風にしようということはあまり考えていませんでした。その分気負いもありませんでした。

《幸せ》2008

堺:自分の中で1番転機になったのは2008年の《幸せ》と言う作品です。ポスターを作る課題でB1位の大きさで大学3年生の時に作った作品です。幸せな状態と不幸せな状態を地続きにして描きたいと思いました。それまで自分は絵が描けないのかなと思っていたけれど、これを機に描けるようになりました。

《超人計画》2008

堺:これは《超人計画》という作品です。滝本竜彦という「NHKにようこそ!」の作者で、自身も引きこもり経験があったりドラッグをやったりしていた小説家が書いた本ですが、その装画のイメージで描いた作品です。これは本のカバーをデザインして提出するという課題で作りました。

《ピザあおぞら》 2009

──ピザの箱のようなものは何ですか?
堺:ピザの作品は大学で「箱を作る」という課題が出た時に作ったものです。箱の中に4枚ピザを模したものが入っています。箱は実際のピザ屋でもらって作ったものです。中身は台紙を買ってきて切って作りました。

《春闘》 2009

堺:これはGEISAI#12(2009年)に出した作品です。100号位あるんですが足を止めて見てくれる人は少なかったです。飛行機が落ちたりしています。このあたりに描いた絵はあまり絵の解説やコンセプトは無くて、その時の感覚に頼って描いていました。

《分裂1》 2009

──「女子栽培」で展示した作品について教えてください。
堺:最初は女性が妊娠していく過程をテーマにしようと思っていたんですが、それではつまらないと思って庭をテーマにしました。そしてそれらを組み合わせて女子栽培というテーマになりました。
庭と言う空間を抽象的に捉えて、女性の自分がそれをどういう風に見ていくのかを考えたいと思いました。ギャラリーに芝生を敷き詰めて枝を天井から吊るして庭っぽい雰囲気を演出して、それぞれが自分の思い浮かべる庭を描きました。

──少女がたくさん描かれていますが、これは同じ人が描かれているんですか?
堺:人間なのかもわからないし女の子なのかもわからないんです。「新世紀エヴァンゲリオン」に綾波レイがたくさん出てくる場面があるのですが、そういう感じです。女の子をちゃんと描いていたのはこの時ぐらいですね。

──エヴァは見ていたんですか。
堺:大学1年生の時に見ていました。でもめちゃくちゃ好きというわけでは無くて、周りが見ていたから私も見たという程度です。ちなみに私はエヴァより「ふしぎの海のナディア」のほうが好きです。特に第一話で出会ったばかりのジャンとナディアが建物の上で話しているシーンが好きです。

──当時絵は毎日描いていましたか?
堺:2010年ぐらいに父、母、妹と一緒に住んでいた時があったのですが、その時はリビングの隣のすごい狭いところに部屋があって絵が全然描けなくて。その時は絵も描いていたのですが、それよりも映画を見たり旅行に行ったりして過ごしました。

──大学卒業後、他の展示に出品したりはしていたんですか?
堺:GEISAIに出品しました(*4)。GEISAI#14(2010年)、GEISAI TAIWAN#2(2010年)、GEISAI#19(2013年)に出しています。GEISAI#14の時にGEISAI大学出張講評をやっていて、カオス*ラウンジの黒瀬陽平さんを含め何人かが気になった作品をピックアップしてどんどん講評していくみたいな感じで、そこで「良いよね」と言ってくれたりしました。その時に初めて直接的に現代アートの人が私の作品を見るとこういう感じで評価するんだと言うふうに知った感じです。個人的にはそれがとても重要な出来事でした。

《花見》 2012

堺:これはすごく心が病んでいた時の作品です。働いてたところから目黒川が見えたので目黒川を描きました。

《potato》 2013

──時を経て女の子の絵はだんだん抽象的になってきていますね。
堺:初期の少女の絵とつながっているのですが、少女よりも性別もわからないようにしたかったんです。あと昔のように細かい絵を描けなくなってしまいました。

──2013年位までの作品は今と全然違う印象を受けます。
堺:絵を見てもわかると思いますが、2013年以降ぐらいから細かい絵が描けなくなってきました。

《anthropology》 2014

《force》 2014

堺:この絵は3331で開催されたリキテックス アートプライズ2014(*5)に出したものです。デザイナーの色部義昭さんの審査員賞を受賞しました。

──この絵はリキテックスの画材を使って描いたんですか。
堺:使ってないです。持っていた画材を使用しました。

《how should I live?》 2014

──ドローイングのシリーズは実物はもっと紙が歪んでいたりざらざらしたりしていますね。
堺:画像だと平面的に見えますね。これは文字が描いてあります。
オットケサラヤハナと書いてあって韓国語です。ムキムキマンマンスという韓国のインディーズバンドの歌詞です。ほかにも絵に描いてある文字は好きなバンドの曲とか歌詞とかから取ってきました。

──2010年から2014年あたりはどのような制作環境でしたか?
堺:当時馬込に住んでいたんですが、6畳1部屋と4畳位のキッチンがあって、キッチンのほうにベッドを置いて6畳の方をアトリエにして絵を描いていました。なので60号の大きめの絵でも頑張れば3枚描けました。

《壁》2015

堺:これはカタ/コンベで定期開催していた展示「キタコー」(*6)に出した絵です。2015年の1_WALL(*7)の時にTYM344さんから声をかけていただきました。その時はアトリエが近いんですよみたいな話をした記憶があります。カタ/コンベの人たちは野方ハイツを気にかけてくれて一緒に遊んでくれたりしました。

──野方ハイツに入ったきっかけを教えてください。
堺:2015年くらいに引っ越がしたくて、近くにアトリエがあったらいいなあって思っていてTwitterをなんとなく見ていたら内田百合香ちゃんがシェアアトリエのメンバーを募集していたのを見つけました。見学会があって、それには行けなかったのですが、その後、百合香ちゃんにアトリエを借りたいとDMをしました。彼女も私の作品は知っていて、いいよと言ってくれたんです。そしてハイツを借りることになったからいつでも行けるように近くに家を借りました。
その頃はがっつり絵を描いていたので、イエローハウスに出した作品は野方ハイツで描いたものが多かったです。

──野方ハイツでは講評会(*8)もやりましたね。そしてこのあたりで作風が少し変わってきます。2017年5月19日から24日まで開催していた新宿眼科画廊での個展「やわらかい友達」(*9)では過去の作風と新しい作風の作品が混在していましたね。
堺:存在してるかどうかもわからない絵のキャラクターが、大きくなったり小さくなったりして、それがスクリーンショットされるような世界というのを想定して描きました。会場撮影はカタ/コンベで知り合った新井五差路さんにお願いしました。

《中央区》 2016

──地名が書いてある絵もありますがこれはなんですか?キャンバスの上に紙を貼ったりもしてますね。
堺:住んでいた場所や展示会場の地名を描きました。土地から受け取ったイメージを描いています。《中野区》と言うやつはカタ/コンベのキタコーで展示をしたときに作ったものです。《中央区》は自分では気に入っているんですがイエローハウスで展示した時はあまり誰も評価してくれませんでした。

《Love Yokohama》 2017

──これがこの展示で1番異質な作品でした。パープルームのグループ展「パープルタウンでパープリスム」(2018)(*10)でも展示していましたね。
堺:それまでは割と直感でいろんな事が出来たのですが、この時は1つのことしか考えられなくなってしまって、結果これを描くしかないぞという状況に追い込まれて出来た作品です。「なんで描くのか」というよりは「これを描くしかない」と言う必然性がばっちりあった結果です。

──2019年5月1日から8日まで「画廊跡地 」で開催していた「金藤みなみのじゃじゃ馬ならし」展(*11)に出品していたLINEのスクリーンショットを使った作品につながるようなものですね。
堺:身近なツールを使って作品を作るようになってきました。
実はこの個展「やわらかい友達」はあんまり自分自身の手ごたえがありませんでした。描きたいことはあるけどこれが私の本当にやりたいことなのか不安みたいなものが残りました。ただ個別の作品は自分でもすごく良いものが出来たと思っています。
今もう一度作品を作るとしたら全然違うアプローチの仕方で制作すると思います。どう描くかというか、なんでこうなったのかっていうことを重要視するような描き方になっているだろうなと思います。

──本屋さんで展示もしていましたね。
堺:2017年3月12日から18日まで「本棚の祭壇」(*12)という展覧会がありました。有地和毅さんがあゆみブックス小石川店で働いていて、その店舗がなくなるというタイミングで作品の展示を依頼されました。本棚を宗教的なイメージで祭壇として扱いました。本棚は3段あり、下段の棚板の部分に神を象ったオブジェを置いて、周りに花を飾りました。中段には絵を展示しました。奥行きがある箱の中のような絵で、本棚自体と入れ子構造になるような仕組みにしました。上段にはミニチュアのイーゼルに小さな絵を掛けて展示しました。作品の下には有地さんが思弁的唯物論についての本や作品に関連するような本を置いてくれました。ブックギャラリーで展示をやっているという話はよく聞きますが、店の本棚にほんとに作品を入れるというのはあまり聞いたことがなかったので面白かったです。コンセプトがいいなと思いました。本を読むことは信仰に近いのかもしれませんね。

──ありがとうございます。今回は2016年のイエローハウスでの個展を起点に、これまで制作してきた作品についてお話いただきました。
次回は2017年以降の話と、これまでに影響を受けた作品などについてお聞きしたいと思います。

*1. あたかも画廊のような雰囲気のこの空間は  (http://yusasabi.sakura.ne.jp/exhibition/solo/atakamo/)、togetterまとめ(https://togetter.com/li/947297
*2. DESK/okumura(https://ki4four.wixsite.com/deskokumura/info
*3. 女子栽培
http://liveandmoris.blogspot.com/2009/04/blog-post_20.html
*4.GEISAIサイトの堺友里掲載リンク→GEISAI#12(2009)(http://www.geisai.net/g20/history/g12/exhibitors6.php)、GEISAI#14(2010)(http://www.geisai.net/g20/history/g14/exhibitors2.php)、GEISAI TAIWAN#2(2010)(http://www.geisai.net/g20/history/gt2/exhibitors4.php)、GEISAI#19(2013)(http://www.geisai.net/g20/history/g19/exhibitors.php
*5. リキテックスアートプライズ2014(http://artprize.jp/
*6. 正式名称はKITAJIMA/KOHSUKE。シェアスタジオカタ/コンベ(https://twitter.com/katakombetokyo)で定期的に開催されていたグループ展。展覧会告知Tweet(https://twitter.com/katakombetokyo/status/627865475939110912
*7.1_WALL(http://rcc.recruit.co.jp/gg/exhibition/gg_wall_gr_201504/gg_wall_gr_201504.html
*8. 野方ハイツ講評会 Youtube(https://youtu.be/afDCV4B469o)堺友里発表分テキスト起こし(http://d.hatena.ne.jp/recorded/20160302/p1)、togetterまとめ(https://togetter.com/li/935310)」
*9. 個展「やわらかい友達」(https://www.gankagarou.com/s201705sakai)、(http://musasabivskiwi.web.fc2.com/solo201705.html
*10.パープルタウンでパープリスム(http://www.parplume.jp/tennji/tokusetu201811.html
*11. 「金藤みなみのじゃじゃ馬ならし」展(https://kintominami.com/exhibition/kinto-minamis-the-taming-of-the-shrew/)、(https://www.facebook.com/events/664324164004814/)、 (https://www.tokyoartbeat.com/event/2019/DA7B)
*12. 「本棚の祭壇」togetterまとめ (https://togetter.com/li/1372630)、おばけBOOKSのツイート(https://twitter.com/ObakeBooks/status/840231975487078404

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・平間 貴大(ひらま たかひろ)Takahiro Hirama
新・方法主義者。グループ「新・方法」の他、写真、絵画、音楽などを制作。2010年8月、個展「第1回平間貴大初レトロスペクティブ大回顧展」、「『反即興演奏としてのマラン・メルセンヌ+ジャン=ジャック・ルソー』『10年遅れた方法音楽としてのマラン・メルセンヌ+ジャン=ジャック・ルソー』同時開催展」、2019年「パラレルキョンシーズ」。2015年6月より野方ハイツメンバー。

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