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タピオカ粉 徹底解剖

はじめに

QQボール(さつまいもボール)は、蒸したさつまいもに「タピオカ粉」、砂糖を混ぜて生地を作ります。

いっぽう 日本でQQボールを紹介しているほとんどのレシピサイトでは、(タピオカ粉が入手しづらい食材であるせいか)「タピオカ粉は片栗粉(または上新粉/白玉粉)で代用できる」と紹介されています。

私もそれを信じて実際に片栗粉、白玉粉、上新粉、コーンスターチでQQボールを試作してみましたが、どの粉を使っても本来のQQボールの食感は全くと言っていいほど再現できず、タピオカ粉を使わないと十分な膨らみと中のモチモチ感が得られないことがわかりました。
それと同時に、デンプンの奥深さやタピオカ粉の特徴について興味を持つきかっけにもなりました。

そこで、この記事では、「タピオカ粉とは何か」「地瓜粉はタピオカ粉なのか」「タピオカ粉だと何故おいしいQQボールが作れるのか」といった疑問を徹底解剖してみます。


タピオカ粉とは

まず、タピオカ粉とは何なのかについて解説します。

タピオカとは

タピオカ「粉」という前に、「タピオカ」と言ったときまず思いつくのはタピオカドリンク(タピオカミルクティー)ではないでしょうか。
このタピオカドリンクに入っている、茶色くて丸くてプニプニした食感の粒が、一般的にタピオカ または タピオカパール と呼ばれる製品です。

そしてタピオカパールは、「キャッサバ」という芋の仲間を原料として作られます。

キャッサバとは

キャッサバは、元々はブラジル等の南米を原産とし、そこからアフリカ・東南アジアなどに広まり、今では世界各地の熱帯地域で広く栽培・食用されている、植物の「地下茎」だそうです。

このキャッサバから取り出したデンプンを加工して粒状に乾燥させたものが「タピオカパール」。このタピオカパールを茹でると、我々にとってなじみのある「タピオカ(ドリンク)」になるそうです。

なお、"tapioca"を英語で検索して調べてみると、

Tapioca is a plant starch obtained from the cassava root.

https://www.navitalo.com/tapioca-what-is-it/

「タピオカとは、キャッサバの根から得られる植物のデンプンです」。といった記述があります。

日本でタピオカというと(キャッサバのデンプンで作った)商品名として認識されていますが、本来は「タピオカ = キャッサバのデンプン」と言うのが正しいようです。
この記事では、まぎらわしさをなくすため、
タピオカ粉=キャッサバのデンプン
と定義することにします。


キャッサバとタロイモの違い

一部のサイトでは、「タピオカの原料はタロイモです」と記載されていることもありますが、キャッサバから作ったタピオカと、タロイモから作ったタピオカ(厳密に言うとタロイモボール)は別物です。食感も違うため、台湾でも別商品(芋圓)として取り扱われています。

なお、キャッサバは南米原産の植物の地下茎なのに対し、タロイモは南アジア原産の芋。里芋も、タロイモの一種に相当するそうです。

結論:タピオカ粉はキャッサバのデンプン

上記のとおり、タピオカ粉はキャッサバのデンプンであることがわかりました。
では、台湾でQQボールの原料として売られている「地瓜粉」は、タピオカ粉なのでしょうか。それともタピオカ粉とは違う原料で作られている製品なのでしょうか。


地瓜粉は何のデンプンなのか

台湾で販売されている「地瓜粉」は、何の粉なのか。

そもそも「地瓜」とは中国語で「さつまいも」のことを意味します(他にも甘薯、蕃薯などの呼び方もある)。
また「地瓜粉」の商品情報を見ると、「さつまいもデンプン」という記載があったり、「タピオカデンプン」"Tapioca Starch"という記載があったり、まちまちです。

はたして地瓜粉はさつまいも粉なのか、タピオカ粉なのか、情報収集してみました。


地瓜粉=さつまいも粉 という情報

以下のように、「地瓜粉」はさつまいものデンプンであるという情報が散見されます。

地瓜粉はさつまいもの澱粉です。

https://taiwanlove.jp/products/nissho-tapioca-starch-1000g

瓜粉とはさつまいもの澱粉のことをさします。

https://kokyo-market.com/products/4714379300116

さらに、Googleで「地瓜粉とは」で検索すると、あろうことか「タロ芋のでん粉」といった表記まで出てくる有り様。

Google「地瓜粉とは」検索結果


地瓜粉=タピオカ粉 という情報

一方、以下のように、キャッサバのデンプンである(タピオカ粉である)との記載もあります。

キャッサバを原料とした澱粉です。

https://www.genhoko.com/?pid=169663507

また、「地瓜粉」と記載のある商品パッケージにも、英語では TAPIOCA STARCH (タピオカ澱粉)と記載されています。

TAPIOCA STARCHの記載


さらに、上記の「地瓜粉」を販売している「日正食品(Sunrightfoods)」の現時点のホームページ情報によると

成分:樹薯澱粉

https://www.smile-sun.com/products/【sunright】tapioca-starch-627cc41b3b97ba00010628f0

との記載があり、商品名も「木薯粉」となっています。

樹薯/木薯は、中国語でキャッサバのことですから、間違いなく本品はキャッサバのでん粉=タピオカ粉だと言えます。


さらに核心に迫る情報として、商品に記載されている以下のラベルがありました
(画像、スクショで拝借いたしました。問題あれば削除いたします)

原名:地瓜粉
(元の名前はさつまいも粉)
経衛福部指示更改品名
(衛生福利部(日本の厚生省のような組織)の指示にもとづき品名を改めました)
品質成分不變
(品質と成分は変わりません)
敬請消費者舊雨新知
(消費者の皆さんは旧雨新知(温故知新のような意味?)で)
繼續選用
(引き続きご使用をお願いします)

最近になって、台湾の行政(衛生福利部)の指導により「地瓜粉」とは言わず、「木薯粉」と呼ぶようになった。と理解できます。


結論:地瓜粉はタピオカ粉

ということで、本記事では、

地瓜粉は、タピオカ粉です

と結論づけたいと思います。

また、「以前は「地瓜粉」として販売されていた商品は、現在は「樹薯粉」という名前に切り替わっている、ということもわかりました。


考察:なぜ地瓜粉と呼ばれるか?

現在はは「地瓜粉」という名前が「樹薯粉」に切り替わっているとは言え、そもそもなぜ「タピオカ粉」を「さつまいも粉」と称して販売していたのか、疑問が残ります。

そこで理解を深めるため、「農畜産業振興機構」ホームページで、「台湾のでん粉生産の状況」を調べました。
すると、台湾では

  • さつまいもを年間20万トン程度生産している

  • 東南アジア(タイやベトナム)から安価なタピオカ澱粉が輸入されている

  • タピオカ澱粉の輸入量は年間35万トン程度

  • 原料のでんぷんを輸入し「加工でんぷん」として輸出する産業が活発

といったことが分かってきました。

流れとして推測できるのは、
「以前の台湾では、さつまいもで作った澱粉を地瓜粉と呼び、使っていた。しかし、外国からタピオカ澱粉を安く輸入できるようになったので、割高なさつまいも澱粉から安価なタピオカ澱粉に中身が入れ替わっていった。(しかし名前は、広く知れ渡っている「地瓜粉」のままで販売した)。今になって混乱を避けるため、行政指導により正しい名称「木薯粉」表記に変えるようになった。」

(そして、「地瓜粉」名で出荷された商品の在庫が日本にはまだ大量にあるため、日本で買うタピオカ粉はまだ「地瓜粉」名で売られている)

と、考えられます。

たとえば日本でも

  • 片栗粉:以前はカタクリの澱粉だったが、今は安価なじゃがいもの澱粉に入れ替わった。しかし名前は「片栗粉」のまま。

  • わらび粉:以前はわらびの澱粉100%だったが、今はわらび粉にイモ類の澱粉を混ぜたものを「わらび粉」と呼ぶ(←→わらび澱粉は「本わらび粉」と呼ぶ)

といった現象と相似しているように感じます。

いずれも、「時代の流れとともに、デンプンとしての物性が似ており、安価な材料に入れ替わったものの、普及している名称を名残として使い続けている」という点で共通点があります。

皆様はいかがお考えになるでしょうか。


タピオカ粉の特徴

なぜ独特のモチモチ感・弾力性があるのか

他のデンプンと比較したとき、一番感じられた特徴が「独特のモチモチ感」と「中が空洞になるくらい大きく膨らむ(=弾力性がある)」ことでした。この独特のモチモチ感・弾力性は、なぜ生まれるのかと思い、調べてみました。すると、

タピオカ粉は水を加えて加熱することによって糊化(こか)する性質があり、もちもちとした食感を与えます。糊化とは、粘りのある状態になることです。タピオカ粉は56℃〜60℃で糊化がはじまり、80℃以上で完全に膨潤(水分を吸収して体積が増加する)します。また、糊化する際に大量の水分を吸収する他、キャッサバのでんぷんは老化しにくいため時間がたっても固くならないという特徴があり

https://fily.jp/articles/1855

とのこと(上記、強調は本記事によります)。
他のいくつかのサイトでも、「タピオカ粉の特徴は、他のデンプンに比べて多くの水分を溜め込むことができる」といった点が共通して指摘されています。

タピオカ粉は、他のデンプンと比べ、保水性が極めて高いからこそ、弾力が生まれ、QQボールの「大きく膨らむ」ことと「モチモチ感」が実現されると考えられます。

このタピオカ粉の特徴を生かしたレシピを以下で紹介します。

タピオカ粉の特徴を活かした料理(南米)

タピオカ(キャッサバ)は南米原産。ゆえに、南米(ブラジル)には、タピオカ粉を使った以下のような料理がポピュラーだそうです。

  • ポン・デ・ケージョ

  • タピオカ粉クレープ

ポン・デ・ケージョのモチモチ感は、QQボールにも通じるものがありますね。


タピオカ粉の特徴を活かした料理(台湾)

台湾料理では、QQボールはもちろん、

  • 蚵仔煎(牡蠣入りオムレツ)

  • 蛋餅(ダンピン:朝食でよく食べるハム入りクレープのようなもの)

などにもタピオカ粉を使い、独特のモチモチした食感を楽しみます。

また、台湾ではタピオカ粉は揚げ物の衣としても使われています。大鶏排(ダージーパイ)などの揚げ物の独特のザクザクした衣も、タピオカ粉が生み出す食感です。


まとめ

  • タピオカの原料はキャッサバ。キャッサバのデンプン=タピオカ粉

  • タロイモで作ったタロイモボールもあるが、厳密にはタピオカとは違う

  • 台湾の「地瓜粉」は、タピオカ粉(タピオカデンプン)

  • 地瓜粉は、最近では「木薯粉」という名前でも売られている

  • 台湾のタピオカ粉の原料は、主にタイやベトナムから輸入したキャッサバ

  • タピオカ粉が独特の弾力感を生むのは、高い保水性があるから

  • タピオカ粉を使った代表的なレシピは、ポン・デ・ケージョ、蚵仔煎、蛋餅、大鶏排など

でした。

皆さんも、ぜひタピオカ粉を活用して、QQボールを始めとした美味しい料理を楽しんでいただけたらと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。


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