見出し画像

陰謀論を捨てよ、ピクニックに行こう


「自由と民主主義」という言葉が空虚な鳴き声のように響いて、米国議会は拍手につつまれる。ネギをしょってきた鴨はスタンディグオベーションの「トモダチ」にむかって誇らしげに手を振る。

あの戦争が西側の有利で終わるのか東側の有利で終わるのかわからないけど、それによって各々の陣営の構成メンバーがありつける資源や市場の分け前が変わってくるだろう。

彼は決して馬鹿じゃない。立派な政治家だ。掛け金を突っ込み続けることに疲れはじめたジャイアンは微笑んで財布を差し出すスネ夫に「おーこころの友よ!」と涙を流す。

小松左京の小説みたいに日本列島が沈没しても彼は西海岸を眺めながらのんびり老後が送れるだろう。波と戯れていた幼子が子ガニをとらえて駆け寄ってくる「ねえ、おじいちゃんはバイデン大統領の前で演説した立派な政治家だったってほんと?」完璧なアメリカンイングリッシュ。老人は目を細めて利発そうなひ孫に昔の自分を重ねるだろう。

これはゼレンスキー夫人がイギリスに城を購入したという噂に着想を得た妄想だ。負け犬のルサンチマンだ。とるにたりない陰謀論だ。もちろん俺達は、地球の裏側だろうがなんだろうが自由と民主主義の価値観を守るために仲間と共に闘わないといけない。ひまわり畑と青空、爆音が響いて罪もない女性と子供の鳴き声が聞こえる。義を見てせざるは勇無きなり。そうだろ?

ガザ?知ったこっちゃない。あんな乾燥した埃っぽい地球の裏側の場所。ユダヤは票になる。金になる。ムスリムの肩を持ってなんになる?あいつらは女性や性的少数者を差別する蒙昧な原理主義者だ、だからがあいつらが出ていかないなら女子供ごと焼き殺してやるんだ。沖縄、名古屋、神戸、東京、広島、長崎でやったみたいに。炎に清められた土地に自由と民主主義とハンバーガーの種を蒔こう。I'm lovin' it!

スターリンが粛清をやれば、毛沢東が飢饉をおこせば、それはもちろん共産主義のせいだけど、広島に原爆を落としたのもベトナムに枯葉剤を撒いたのも不況で失業者が自殺するのもべつに資本主義が悪いんじゃない。需要と供給が釣り合うところを神の見えざる手とよぶならば、あらゆることは神の思し召しだ。神は超えられない試練をお与えにならない。乗り越えなられなかった者は信仰と努力が足りなかったのだ。

貨幣という神のみまえに額ずいて預金通帳を眺めるとき、そこに並ぶ数字がお前の生きた証だ。だから働け、自己を啓発しろ、資産を運用しろ。想像してみろ海辺でウクレレを弾きながらのんびりと暮らす老後を。自由は金で買える。「働けば自由になる」ってアウシュビッツの門にも書いてあったじゃないか。資本主義バンザイ!自由と民主主義バンザイ!

権威主義で全体主義な東側の連中の好きになんかさせない。フィリピンを、台湾を、明日の日本を守るのだ。ニッポンバンザイ!海行かば水漬く屍、山行かば草生す屍。英霊たちの遺骨には敬意をはらわないといけないので、厚生労働省は多額の予算を使って海外での遺骨収集作業に当たっています。伝統的な価値観を大切にする美しい日本の国土と国民の財産と命を守るため、沖縄戦の戦没者の骨が混ざった土でサンゴ礁の海を埋め立てて米軍基地を作りましょう!武器を輸出しましょう!戦争のできる普通の国にしましょう!

百年後の安心のために。化石燃料を燃やし尽くし、核のゴミを埋め立てて成長しつづけよう!持続可能な成長目標を設定したから成長は持続するんだ!太陽神に生贄の心臓を捧げよ!少年少女の希望と絶望でタービンを回せ!スクラップアンドビルドは絶え間なく、千代に八千代にもっと幸せずっと幸せ!はっぴーはっぴーはーっぴー♫はぴはぴはっぴーはーっぴー♫

徒然なるままに光る画面に向かっていると、こういった陰謀論が脳裏に浮かんでは消え浮かんでは消え、メンタルがあやしく物狂おしくなってくる。バイト代でリンゴを買った。アイフォンのことじゃない。手触りも香りもあるほんとうの果物のリンゴだ。手を使って仕事をして手触りのあるものを買うのが好きだ。それだって市場経済の歯車のひとつには違いないけど、市場にとって俺が歯車でも、俺にとって俺が歯車でいいはずがない。

ピクニックに出かけよう。舞い散る花びらの下でりんごを頬張るとき、何万年か前の猿のだったころに刻まれた記憶以前の記憶が嬉しげに身震いする。そういうささやかな幸せを大切にしないといけない。たとえ遺伝子にとってお前が歯車でもお前は遺伝子の歯車にならなくていい。春は短いから。はっぴーはっぴーはっぴー♫


えっいいんですか!?お菓子とか買います!!