パラレル采女祭り

　采女祭りに行きたかったなと思いながら寝たら、奈良盆地が水没して海に繋がった猿沢池と、何事もなかったかのように行われる采女祭りの夢を見た。

猿沢の池大海とつながりて
白波立ちぬ
Harvest Moon

蕩々と広がる池のほとりにて
笙ひちりきが
かすかに聴こゆ

かがり火に照らされ采女は船の上
波もかないぬ
いざ漕ぎ出でな！

からころも金糸銀糸に彩られ
采女は何故か
泣いて見えたり

ぬばたまの海をみつめて
稚児めらは押し黙りけむ
翼はやして

緋の色のひらめきて采女池に落つ
slow motion
水音もせで

東に月傾きて
西の空かぎろひ立ちぬ
カモメおどろく

からぎぬに黒髪咲きて
ゆらぎつつ沈んでゆきぬ
水面のひかり

写真をば撮らむとせしその
一刹那
君は人波の中に消えたり

気がつけば
池のほとりにひとり居て
采女も君も白昼の夢

　奈良の興福寺の側に、猿沢池という池がある。中秋の明月の夜にはそこで采女祭りという祭りがある。これは帝の寵愛の離れたのを憂いた采女が池に身を投げたという伝説をなぞるものだ。（ただし、采女の故郷福島には、故郷に残した恋人と結ばれるための偽装自殺だったというロミオとジュリエットめいた伝承が残っている）
　もちろん祭りでは実際に身投げなんかしない。采女役の女性が舟の上から花扇を池に浮かべるのだ。蝶や鳥の羽をせおった稚児姿の子供たちや、雅楽の奏者も篝火のもと舟にゆられる妖しくも美しい祭りである。