中国映画『天安門、恋人たち』デジタルリマスター版公開に寄せて

 この映画の原題は「頤和(いわ)園(えん)」欧文タイトルは「Summer Palace」で、紫禁城の北西にあるユネスコの世界遺産にも登録されている庭園公園の名称だ。その歴史は12世紀に遡り、歴代皇帝によって整備されて、現在の名称になったのは西太后の時代だという。今は若者たちのデートスポットになっているらしい。
 1980年代末、若者たちの間に自由と民主化を求める気運が広がり、それが学生運動となり、当局による弾圧が起きた。世にいう天安門事件だ。その時代に主人公ユー・ホン(ハオ・レイ)は北京の大学で熱に浮かされたような青春期を過ごす。運命の人ともいえるチョウ・ウェイ(グォ・シャオドン)と出逢い、情熱のままに愛し合い、衝突し、そして別れる。チョウ・ウェイはドイツに渡り、ユー・ホンは郷里の恋人とともに北京を去る。彼女の郷里は北朝鮮に近い中国東北部だが、大学で北京へ、そして深圳へ、また他の地へと移り、その先々で新たな恋人と出逢うも意識の深い処で綿々と続く想いを自覚する。肉体をもって生を生きる彼女にとって、本当に確かなものは何なのだろうか。
 ここ何作かロウ・イエ監督作品では男優の印象が強く残るのだが、この映画に関してはヒロインを演じたハオ・レイが鮮烈な印象を残す。ハオ・レイはこの後、台湾映画『四枚目の似顔絵』(10年・鍾孟宏監督)で金馬奨の最優秀助演女優賞を受賞し、ロウ・イエ監督作品『二重生活』(12年)では同賞主演女優賞ノミニーになった。彼女はどこか沈鬱な女性が似合う。だからこその起用だろうか。本作は世代の抱える不確かな生がくぐもった映像の中で浮き彫りにされており、ハオ・レイはその声音(ナレーション)とともにその世界観にぴたりとはまる。そして、その世界からは後の『シャドウプレイ』に通じるものを感じる。
 改めて書くまでもないかもしれないが、中国で発禁になっているのは天安門事件の描写ゆえだろう。必見。


『天安門、恋人たち』(2006年/中国・フランス/中国語/140分/原題:頤和園/英題:Summer Palace/R18)
監督:ロウ・イエ/出演:ハ オ・レイ 、 グオ・シャオドン
天安門、恋人たち – アップリンク吉祥寺 (uplink.co.jp)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?