動物園

彼女が死にました。

それはそれはあっけなく。
僕は、彼女と待ち合わせをしていた動物園の前でそれを知りました。

彼女は動物園に向かっている途中、事故に遭ったらしい。
立ち寄ったコンビニに、運転を誤った車が突っ込んできたのだとか。

彼女と付き合って5年。
プロポーズの返事をもらう日だった。
どうだったのだろう?プロポーズを受け入れてくれたのかな?
いや、そんな事はどうだっていい。
もし生きていてくれるなら、プロポーズを断られてもいい。

そう言えば、彼女と初めてのデートも動物園だった。
大学生の時。
でもその日、彼女は入園してしばらく経つと、体調が悪いと言って帰ってしまいました。

それ以来の動物園だったから、結局彼女とはきちんと動物園を楽しんでいません。

もう二度と行けません。

彼女が死んで数日後、彼女のお母さんから連絡がありました。
彼女の鞄から、僕宛の手紙が出てきた、と。

僕は、ドキドキして手紙を読みました。


たっ君へ
急に手紙なんてごめんね。
プロポーズありがとう。突然の事でビックリしたけど、嬉しかったよ。
直接返事を伝えるのは緊張するので、こうして手紙を書いています。
改まって手紙を書くのも緊張するね。

プロポーズ、本当に嬉しかったです。
でも最初に私、たっ君に謝らなければならないことがあります。

私、たっ君の事が好きじゃありませんでした。

あ、勿論、昔の話ね。
大学時代、告白してくれた時、友達に相談したら、面白そうだからデートしなよ。それで、デート中今どんな感じか報告してよ、って言われて、無理矢理デートに行ってたの。
でも、たっ君に申し訳なくなって、すぐ帰っちゃった。
あの時、動物園に一人残して本当にごめんなさい。

自分を責めたよ。なんてひどい気持ちでデートをしたんだ。バカバカバカって。

でも、そんな私の嘘を信じて、たっ君は私の体調を気にかけてくれてたよね。
本当にごめんなさい。そして本当にありがとう。

それからきちんと謝ろうと思って、もう一度たっ君に会った時、たっ君の目の下に大きなクマがあってビックリしたよ。
そんなに私の事を心配してくれてたんだって。
でも、ズルい私は本当のことを言えずに今まで過ごしちゃってました。
ひどいよね。ぶたれても仕方ないくらいだ。

その事を今まで黙っててごめんなさい。

こんな私と付き合ってくれてありがとね。

いつも飄々としているたっ君。
いたずらっ子でなまけもので、何を考えてるのか分からない時もあるけど、ご飯は夢中で食べるよね。
あれは面白いね。

私が初めてご飯を作った時、「肉じゃがーーっ!」って、大声出して、「うまいうまい!」って、バクバク食べてくれたね。
あれ、嬉しかったよ。

だから私も調子に乗って、その日以来、お料理を勉強したけど、たまに油物ばっかりのメニューになった時があったよね。
あれはヘビーだった…。反省。

朝は絶対パンだ、って言ってたのに、美味しそうにご飯を食べてくれた時も嬉しかった。

いつの間にか、私の方が、たっ君に夢中になってました。

でもこの際だから言っておきます。
たっ君の嫌なとこ。

ケンカして私がすねちゃったら「あーあ、君はそれでも大人かい?」と偉そうに言うとこが嫌。

それと、付き合って2年目だったかな?楽しみにしていたクリスマス、「クリスマス関空に集合」なんて言うから、何処に連れてってくれるのかと、ワクワクしてたら、空港の近くの汚い炉端焼き屋さんだったとこ、あれも嫌だった。

あと、デートに行こうと言ってたのに、男友達との約束を優先する時があるのも嫌。
私はあれを、『デートに行こう行こう詐欺』と呼んでいるのだ。ウシシ。

おー、紙が無くなってきた。
実は、何度も間違えて書き直したりしてるのです。

たっ君、色々言っちゃったけど、それ以外は全部好きです。
でも私も嫌なとこいっぱいあると思うから言ってね。

長々と書いたけど、プロポーズ本当にありがとう。

「お前といると楽だ。お前しかいない。」ってプロポーズはどうかと思うけど、こちらこそ、よろしくお願いします。

私と結婚してください。
ズーーーっと一緒にいてください。


手紙にはそう書かれていました。

僕は思わず手紙で涙を拭いてしまった。

手紙がくちゃくちゃ。
彼女はこういうところも嫌だと言うだろうな。

手紙ありがとう。

もう一度、手紙を読みました。

そしたら、気付きました。

彼女と行くことが出来なかった動物園。
でも、偶然かわざとか彼女の手紙には、沢山の動物たちがいました。

彼女と動物園に行った気になれました。


※彼女のお手紙に何種類かの動物が隠れています。暇つぶしに探してみてください。








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