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俺はこの橋である女を待ってる。
女と出会ったのは今から5年前。俺がこの橋で、花を手向けている時だった。

あ、失礼。紹介が遅れてしまったが俺は殺し屋をしている。
そんな殺し屋の俺は、5年前、任務を遂行しターゲットを消した。
しかし、そのターゲットの嫁と子供が、ショックを受け橋から飛び降りた。
そのお詫びに俺は花を手向けに来た。
おかしいだろ?殺し屋の俺にもそんな気持ちがあるなんて。

そんな時だった。その女と出会ったのは。

その女は俺には気付かず、いきなり橋の欄干に手をかけ、乗り越えようとした。女は泣いていた。
俺は咄嗟にその女を掴み、引きずり戻した。

女は彼氏にフラれた、と泣き濡れていた。
俺は必死に説得した。そんな事で死ぬな、生きろ、と。
殺し屋の俺が「生きろ」だとさ。

女は暫く泣き続けたが、ようやく落ち着きを取り戻し、去っていった。
俺は、再び飛び降りないように女の姿が見えなくなるまで見送った。

その翌年。だから4年前の事。
俺は再び亡くなった母子のため、花を手向けに橋にやって来た。
女の事など、すっかり忘れていた。

すると、見覚えのある女がやって来た。去年の女だ。
女は、また欄干に手をかけ、飛び降りようとした。

俺は、呆れながら女を引きずり戻した。
聞くと、この一年彼氏も出来ず、仕事もうまくいかず、いい事がないから死んだ方がマシだと。

俺は怒った。死んだ方がマシなんて事は絶対にない!生きてる方がいいに決まってる!と。
殺し屋の俺が真剣に、生きることを勧めている。
仲間には聞かせられないセリフだ。

そして翌年。3年前。
俺は三度、この橋へやって来た。
花を手向けながら、どこかであの女の事を考えていた。

暫く待っていたが、来なかった。
そらそっか。ちゃんと頑張って生きてるのかな?それともどこか別の橋から…。

そんな事を考えていると、人の気配がした。
あの女だ!ん?誰かと居る。

女は、楽しそうに男と話しながら橋を渡っていった。
良かった。男が出来たんだな。

しかし何だこの得も言われぬ感情は。
胸がモヤモヤする。

恋…?
嫉妬…?

いや、そんな馬鹿な。
殺し屋の俺が恋だなんて。

翌年。今から2年前。
今年も花を手向けにやって来た。だが、本当の目的は違うのかもしれない。
女の会うためにやって来た?いや、俺に限ってそんな事はない。
自分に言い聞かせるのに必死だった。

そこへ女がやって来た。
やっぱり横にはあの男がいた。幸せに暮らしているようだ。

思わず声が出た。
遠くからでも分かる。女のお腹が大きく膨らんでいる。

気付けば、俺の頬が濡れていた。
これはきっと嬉しいからだ。幸せになれて良かったな、と再び自分に言い聞かせる。

翌年。去年の事。
その年も俺は橋にやって来た。理由は二つ。
花を手向けるためと、任務を遂行するため。

ターゲットは、あの女の男。

ターゲットの写真を見た時には驚いた。
どうやらあの男は、どこかの議員さんで相当あくどい事をしているのだとか。爽やかそうな奴だったのに、人は見掛けじゃ分からんな。
かくいう俺も、ひょろっと貧相な容姿。到底殺し屋だなんて思わないだろう。

暫く待つと、男はやって来た。横にはやはり女がいた。
そして、女の腕にはしっかりとお腹の中にいたものが抱かれていた。
この幸せが壊れてしまうのか。ああ、壊れる。壊す。
殺し屋に同情なんて不要。任務を遂行するのみ。

そして


ターゲットの男は死んだ。

だが、俺が殺ったんじゃない。
あの男は沢山恨まれていたようで、他にも依頼があったみたいだ。
俺は引き金を引けなかった。情けない。


そして今年。
俺はこの橋であの女を待っている。

俺は殺し屋から足を洗った。
同情して引き金を引けなかった俺は、殺し屋の資格なんてない。
しかも……、


恋をしてしまった。


俺は今日、女がやって来たら、思いを告げるつもりだ。
俺の事など覚えているのか分からないが。

………
………
………

しかし、女が来ない。
いつもならもうとっくにやって来る時間なんだが。

何かあったのか?
それとも夫の後を追って逝ってしまったのか?

………
………
………

来ない。

陽も落ちてきた。

帰るとするか…。
ガラにもなく、何やってんだ俺は…。

俺は、とぼとぼ歩きだした。

………
………
………

ん?何かが違う。ふと周りを見渡す。

!!??

俺は気付いた。


『ああーーー!!
 この橋じゃない!!もう一個向こうの橋やぁぁぁぁぁ!!!』


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後ろの2人
A「何?急にあの人、どうしたの??」
B「さぁ、でも叫んだ拍子に指輪を川に落っことしたわよ」
A「バカねぇ」




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