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デザイン内製化の意義を考える#2UXという罠




UXは目的になり得ない


UXは目的になり得ない

「デザイン」に匹敵するくらい、胡散臭い…じゃないや、近年多用される文言として「UX」という物がある。細部の話は置いておくとして、結局、何なんだ?という話を整理したい。

大抵の場合、「UXを向上するために、これをやりましょう!」という話は香ばしい。UX自体は目的にはなり得ない。デザイン自体が目的にならないのと同様に。

「UX上、これは重要だ!」を正確に表現するとしたら、「〜という目的に対し、UXという視点で重要なことは〜」になる。

では、目的とは何だろう?対象によって様々だが、以下、例を挙げてみる。


例えば、こんな営利企業があるとする↓

企業の一例

この内、UXに関わる領域はどこでしょうか?
正解は、狭義には顧客体験の領域。広義には全体になる。


顧客体験で最も重視されるべきことは、目的の達成だろう。たとえば銀行であれば、残高照会・振込などの操作ができなければ、サービスが提供されたことにならない。

これに加えて、ATMやネットバンキングなどのITサービスからの体験、オペレーターの対応など人間からの体験がある。さらに、企業への感情。「普段、使っているから慣れている」「何となく好感が持てる」などの、より曖昧な体験がある。


さて、上記の体験を向上させて、数ある競合他社で選ばれるにはどうしたら良いか?それには、上図・左部の「開発・運用」の領域を考える必要がある。

まず、IT・生身の人間に関わらず、提供者は人である。(最近はAIかもしれないが、その裏には人間が存在する。今の所は。)そのために、どのくらいコストを掛けるのか、どんな風にモチベートするのか、どんな業務環境を用意するのか、人が居なくなった時の対応方法をどうするのか、などの課題がある。

そして、技術の問題がある。いくら優秀で働き者の人間を集めて、すばらしい組織を作っても、顧客が見るサイトや業務システムが使いにくい、ネット回線が遅い、PCや工場機械の性能が悪いと、仕事が進まない。

「以前使っていたサービスで、自分の顧客データが引き継がれてない」という悪い体験があったとすると、社員にやる気がない、やる気が無いと成り立たない仕組みになっている、技術的な課題があり業務が滞っている・ミスが多いなどの原因が考えられる。


そこで、人や技術面の向上をしようと考えると、金の話になる。人材を雇用するために幾ら出せるのか、内部の品質向上にどこまで時間(人件費)を割けるのか、など。

その予算を捻出するためには、事業が成功していなければならない。そのためには、顧客体験を軽視できない。

* * *

例えば、そんな循環が起きている。

例文
「売上のため、新規顧客を獲得するという目的に対し、UXという視点で重要なことは、初めてアクセスするwebサイトのUI品質向上である。」
「競合他社が台頭して来たため、既存顧客の流出に対応する必要がある。この目的に対し、UXという視点で重要なことは顧客満足度の向上であり、直近優先すべきは、評判の悪いオペレーターの対応品質の向上だ。」


UXの仕事とは

冒頭で「香ばしい」と表現したのは、この循環に乗らない話である。

事業や開発・運用などを含めた、全体に寄与しない顧客体験を伸ばそうとしても、それは「仕事」ではないですよね?という…(※営利目的の企業においては。趣味のサークルであれば、別に何だって良いのだけど。)

高校物理の内容は99%忘れたが、一つだけ印象に残っている事がある。「物を持っているだけでは、仕事をしている事にならない。移動させなければ、仕事とは言わない。」関係ない話だが、仕事という語彙の使われ方として、何かに働きかける事ができなければ、仕事とは言えないのではないか?という事を子供ながらに思った。

頑張ることは、仕事ではないのだ。UXと唱え、「やっている感」を出すだけでは、仕事とは言えないのだ。


評価しにくい領域をどうにかするために

ここで問題になるのは、事業領域と比較して、開発・運用・顧客体験などについて、定量評価が難しいということ。しかし、前述した通り、利益を出すには他領域の成長が必要になる場合がある。定量化できないからといって、無視する訳にはいかない。

さらに、近年、サービスをIT技術を使用して提供する企業が増えた。ユーザーもそれら技術に触れている時間が増えた。人間が窓口であれば、顧客の顔色を知る事ができるが、モニター上のボタンやフォームから顧客の状態を窺い知ることは困難になった。

各領域間の分断、顧客/消費者との分断、これらを企業は乗り越えなければならない。そこで発展した内容が、UXという領域だと私は解釈している。

例えば、ユーザーの思考や行動を理解する、という行程が必要とされる。よく見るのはアンケート、またユーザーインタビューなどの手法だが、得たい情報に対し、どちらを実施するべき?

調査結果を分析する手法として、各状況で適切な物は?ステークホルダーに対し、開発コストを要求したい時、顧客のニーズの説明資料として適切なのは?

前述した3つの領域、また、その提供方法(IT or 人間)を越えて、開発と合意形成に必要な知見を、まとめて呼称した物がUXなのだと思う。

冷静に考えてみれば、行動経済学、認知心理学、文化人類学、人間工学、情報構造設計、視覚情報設計、エンジニアリング、プロダクトマネジメント、事業、人材マネジメント…これらは個別の分野として成立しているし、UXを親とした子要素なんかではない。

評価しにくい領域をどうにかするために、必要な知見を寄せ集めて、セットにしたよ。というハッピーセット*だ。(*:玩具と食品という別分野の商品を、子供の生活という目的に応じてセットにしたもの。)


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