小林賢太郎という人

私が小林賢太郎さんに出会ったのは東京オリンピックの1週間前くらい。NAMIKIBASHIの映像コントを見てから動画を漁りまくっていました。例の件で彼が話題の人物になった時、私は最悪なタイミングで彼の作品に出会ってしまったと思いました。世間から彼の印象があまり良いイメージでは無くなってしまったとほぼ同時に存在を知って作品に衝撃を受けていたところだったのにと。でもよく考えると私にはこれがかえって良いタイミングでした。
すなわちこれは私がキュウに出会うよりも後ということになります。ちょくちょくキュウの漫才の動画にもラーメンズの漫才版などと書かれていることは知っていましたが生粋の食わず嫌いな私にとってラーメンズ?知らないなあくらいにスルーしていました。あの時までは。
ラーメンズのコントの中で初めて見たのは「不透明な会話」でした。コントなのにびっくりするほど小道具がない。あるのは黒い箱が2つだけ。2人の対話の中の日本語の表現、話し方の特徴、パントマイムなどの情報量のみでそのコントが作られていることには脱帽します。こんな世界がお笑い界にあっていいのかと正直驚きもありました。文学的で少しミステリアスなその雰囲気に段々と飲まれていきました。私は言葉遊びをするお笑いが大好物です。なので「同音意義の交錯」を見た時はビビビっと自分の身体に電気が走ったようでした。パターンがひとつではないし、しかもひとつのコント内にそれらが収められている。キュウの漫才を初めて見た時のように美しく、おもしろいとはこの事だと身に染みて感じました。
彼の執筆した「僕がコントや演劇をする時に考えていること」は彼の脳内を少しのぞけた気になれます。彼のどんな思考があれほどの作品を生み出すのか。本来私は自分の好きな物に対してはずっとミッキーマウスでいて欲しいというか裏側や努力を垣間見えないようなテレビの中の人という気持ちでいたいのです。彼のパフォーマンスでもどうやっているのだろうと種明かしが気になることはありますが 別に知りたくなんかありません。純粋に真正面から作品を楽しむことが表現者にとってもお客さんにとっても最高の関係だと思います。だからこの本を読むことは彼の脳内を知るためではなくて私自身の人生に新しい風を吹かせるためのものになっていました。
小林賢太郎テレビをリアルタイムで見られなかった世代としては是非再放送していただきたい。ちょうど1年くらい前に小林賢太郎テレビのDVDを全て購入しました。「デザインあ」や「ピタゴラスイッチ」、「テキシコー」などNHKが放送する不思議だけどためになって面白いものをよく見ていた私は小林賢太郎テレビも同じ分類、その分類の頂点とも言えると感じました。短いコントを物語コントの間に挟んだり最後には彼の創作の発想を垣間見れたりとこれが大晦日のNHKで見れたの?!と疑ってしまうほど素敵な番組。また1年に1回の番組という所もミソ。ラーメンズや小林賢太郎さんを知らない人はたまたま見たくらいでないと見られないという隠れ家みたいな優越感も当時見ていたら抱いていただろうと強く思います。
最近は小林賢太郎さんの新しい劇場「シアターコントロニカ」もできるなど表舞台から退いてもなお根強いファンがいることや彼のその才能を我々は楽しむことができる、なんと嬉しいことでしょうか。(学生にはちょっと💰が厳しい...笑)もう彼がパフォーマーになることはまず無いと思いますが0.1%でも見れる可能性があるならそのチャンスを逃さないように彼の作品を愛していきたいですね。

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