ドラえもん傑作集が傑作揃いなので読もう その2

ドラえもんはギャグ漫画です

 僕がコロコロコミックを読んでいた当時はドラえもんのキャッチコピーが「ギャグの王様」ってなっていて、子供心には他の過激なギャグ漫画の方が面白かったので「王様は吹かしすぎじゃね……?」と思っていたものでした。
 しかし少し大きくなってから改めて読んでみると、その面白さに目覚めます。短いページだからこそ生まれるシュールさであるとか、子供向けの皮を被った危険なネタであるとか(藤子F先生が大変な悪戯好きなお方であったというのは有名な話です)。
 昨日のまんがセレクションが面白いという話の続きとして、今回は恐竜以外の部分を取り上げていきましょう。
 ストーリーを追う形はなりをひそめてすごーくゆかいな部分を取り上げていく形で進めていきたいと思います。

無敵コンチュー丹

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 一コマ目がコレ。
 ドラえもんといえばのび太がいじめられてくる所から始まるのは定番のシーンなんですが、初手でドラえもんが無表情でスライム遊びしてるというシュールさ。多分当時流行ってたんだと思います。これわからない人は本気で何をしてるかわからないんじゃなかろうか。
 コンチュー丹というのは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という言葉どおりに昆虫の優れた部分を自分の体に宿すという凄い薬です。昆虫の能力を人間サイズにまで拡大したらどれほど強くなるだろうかという思考実験であります。

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 つまりバキのこれの元ネタでありテラフォーマーズの元ネタなのであります。うそです。
 薬を飲むと突然葉っぱが食べたくなって、夜になると口から糸を吐き出して繭が形成され、翌朝には凄い新人類となる(見た目の変化なし)というすさまじい薬。これ元に戻るんでしょうか。

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 ヤクブーツはやめろというシーンではないです。
 このあとドラえもんが内緒で葉っぱを持ってきてくれて一心不乱に葉っぱを食べ始めます。

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 葉っぱなのにやたらうまそうに見えるのが藤子F先生の食事描写。
 お話としては繭から帰ったスーパーのび太が見事にジャイアンに仕返しをするのですが、虫としての意外な弱点によって酷い目にあいます。

ネコののび太いりませんか

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 猫が飼えない理由が二人ほど雑。
 というかスネ夫は金持ち自慢してるなら飼ってやれ。

 公園で見つけた捨て猫をめぐっての口論なのですが、誰も飼えないというのでもう一度元に戻そうとしたところでのび太が自分の家で飼うと言い出す所から話ははじまります。画像の通り野比家はママが動物嫌いなのでペットがいません。どれくらい動物嫌いかというと、動物の気配を感じ取った時のママの行動がコレ。

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 天井の忍者を牽制するかのような行動を即座に取ってみたり(そこにはいませんでしたが)。

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 見事に隠しておいた猫の居場所を勘で当ててみたりします。
 嫌いな理由が特に明示されておらず、単純に動物が難いみたいな表現になっているのはママを悪者の位置にしておきたいという意図や、改心するだけで飼おうという方向に流れやすいというストーリーの都合があるのだと思います。下手にアレルギーだから、とか理由つけちゃうとさすがのドラえもんも諦めざるを得ないので(アレルギーを治すとかはまた別な話になっちゃう)。
 のび太の「ママは動物の可愛さを知らないから、それを知れば飼ってくれるはず」という主張によって色々とすることでママと猫は見事和解するのですが、実際には彼らの努力は全然関係なくて本当に猫のかわいらしさだけで全て和解に向かってしまうというお話。ひみつ道具はちゃんとオチに使われますが結構珍しい展開でした。

ぐうたらの日

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 連載時は土曜日は午前だけ授業がありました
 しかし祝日がないのは今も変わらず。六月生まれとしては微妙な気分になりました。六月で蟹座の生まれって割と不遇な扱いを受けやすい気がします。
 お話としてはカレンダーに勝手に祝日を決めちゃうという凄い道具で、日本中がそれに従っちゃうのですが、さすがにのび太もその効果の高さに一瞬戸惑います。そりゃそうだろう。
 しかしドラえもんはここで後押し。

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 谷口悟朗作品のラスボス的思考
 のび太は言いくるめられて見事に「ぐうたらの日」を制定。誰も彼も働かずテレビ番組ですら全て録画した番組を流しているという徹底ぶり(放送しているので結局誰かが働いているのですが)。
 働いてはいけないのでママもご飯を作ってくれません。ラーメンを取ろうとしても断られ、家の食料も見事に空。ここからの狂気の描写が凄い。

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 朝ご飯抜いただけでこの表現。

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 泥棒猫が盗んだ魚を見事に奪い取るのび太。すでに野生に還っています。

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 しかし公園で焼いていたらジャイアンに焼き殺されそうになって魚も奪われます。洒落になってない。警察も消防も休みなので暴力が支配する完全なる無法地帯となってしまった世界に嫌気が差したのび太が元に戻そうとするのですが、さすが戦中の生まれのF先生らしい飢餓感に関するリアリティというか「腹が減ったら人間何するかわからねえぞ」という描写の恐ろしさ。ほぼ全ページにわたってのび太がまったくぐうたらしていないという日常ギャグ回の中でも傑作の回でした。

新種図鑑で有名になろう

 草むしりを頼まれて逃げ出したのび太が空き地で出木杉君としずちゃんが新種発見の話をしているのを聞いて勝手にその気になって新種を探そうとするのですが、当然のように見つかりません。見つからないから大ニュースになるのですが(という事を実際ジャイアンとスネ夫に言われて馬鹿にされます)。
 見つからないのでドラえもんに頼んで「なんでもないものを新種と扱ってしまう」というすさまじい道具を出して貰います。カレンダー同様、世界の価値観を根本からひっくり返してしまう恐ろしい道具がホイホイ出てくるのが面白い所です。

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 なんとかゴキブリを二匹捕まえてきたのび太(それはそれで凄い)は道具で新種扱いにするんですけど、こういうときにお墨付きとして出来杉君が使われるのが好きです。出木杉君が言うならそれはこの世界においては正しいのです。のび太の大魔境の「ヘビースモーカーズフォレスト」だって出木杉君が言うから信憑性があったというものです。
 で、こういう時はだいたいスネ夫が賄賂をのび太に渡して何とかするというのが定番なのです。

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 このスネ夫が見せる良心の呵責の一切なさそうな表情!
 もう皆を十分にからかって気が済んでいたのび太はあっさり教えちゃいます。わりとのび太が一番得してるかもしれない。漫画のタイトルが宇宙王子なのですが、宇宙皇子とは多分関係ない。
「きたない家のきたない台所でよく取れる」とゴキブリホイホイを渡されたスネ夫の次のコマがこれ。

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 このスピード感
 最終的に草むしりのことを思い出したのび太が道具を使って見事にオチを付けるのですが、このお話、短編としての完成度が抜群に高いのです。冒頭の草むしりから逃げ出す所はそれほど特異な話でもない(ママに何かおつかいを頼まれて逃げる、というのはドラえもんの定番ネタの一つです)のに、しずちゃんと出木杉君を使って非日常へと誘い、ジャイアンとスネ夫という敵に一度はバカにされるも道具を使って見事に仕返しをします。出木杉君は冒頭の誘導役に使いつつ、「新種発見」という難しいシークエンスをたった2コマで認定させてしまいます。彼の使いどころの見事さといったら。
 ジャイアンとスネ夫が暴力などを振われる事もなく面白い目に合わされてのび太の溜飲も下がった所で冒頭のママのお使いの事を思い出して、ちゃんと今回の道具で機転を利かして、それも解決してオチにしてしまいます。
 たったの6ページ(扉として消費しているので実質4ページ半!)でここまでしっかりネタが確立しているという凄い回です。お話作りの教科書にしてもいいかもしれないくらい。連載中後期くらいの話なので、ある意味では一番脂ののっていた時期なのかもしれません。好きな回です。

風神さわぎ

 凄い風力をだすうちわを楽しく使うお話。クーラー(エアコンではないです、クーラーです)を使いすぎて電気料が凄かったので禁止されて熱い熱いとうだっていたらドラえもんが出してきたのが、強力うちわ「風神」。ジャンプの巻末の通販ページに載ってそうな(昔あったんですよ。今はああいった会社は残ってないんでしょうかね)ネーミングセンス。
 ドラえもんの好きな所はこういうどうでもいい道具に対して「空気抵抗が大きくて、かすかにうごかすだけでうぎわとおなじ風が出るんだ」とちょっとだけもっともらしい事を言って「何か知らんけど未来の道具っぽい」と思わせる所。
 普通に仰ぐと人が吹き飛ばされるような風が吹きます。なぜ作った

 ドラえもん、基本的にのび太のこと信用してないので道具を貸すときも結構慎重になる時があります。

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 しかしのび太、二つ使ってこの風力で空を飛ぶという天才的な発想でスポーツ化してしまいます。名前が「バタバタヒラヒラ」というアレなネーミングセンスなのはさておき。
 最終的にみんなが喧嘩しちゃうのであっという間にこの競技は終了しちゃいます。オチに困ったらしくてネズミオチなのはご愛敬。

思いだせ!あの日の感動

 昨日のエントリで使ったこの画像の回です。

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 面白いのは冒頭だけで、実は感動する回なのです。全てに飽き飽きしちゃったのび太に「ハジメテン」という薬を飲ませて「何にでもはじめてのような感動を与える」という効果を起こさせます。この薬によって離婚しかけたのび太の両親は完全に仲直りして、学校に行く気も起こさせる……という展開になるのですが、薬を飲む前にのび太はタイムマシンで自分が小学校に入学する前日に戻ります。そこで自分が当時受けていた新鮮な驚きを見る事で薬に頼らずに改心します。
 とても素敵なお話なのですが、この後薬のせいでオチがついてしまうので(かなり秀逸です)感動系のまとめに入りにくいという難点があります。どうでもいい話ですが、この頃ののび太のパパは普段着が洋服になっています。

のび太の地底国

 どこでもホールという、のび太と竜の騎士でも使われた道具の回です。
 0点のテストの答案を隠すためだけに使った道具なのですが、あまりに広い空間に繋がってしまったために結局その空間の中で穴を掘って埋めるという無駄骨っぷり。最初から庭に埋めておけばそれでよかったやつ。
 同じ頃、いつもの空き地にマンションが建つというので使えなくなって彼らの遊び場がなくなってしまいます。そこであの広い空間を子供達だけの遊び場として整備していきます。

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 出木杉君がいるとこういう時便利

 無事に町が出来て、国として運営するのですがのび太が調子に乗り始めて独裁政治を始めてしまいます。きっかけが「ジャイアンの暴力から逃れるために出した道具(ロボ警官と署長バッジ)」によってのび太だけが武力を得てしまい、それによるクーデターというからちょっと笑えない所。時折こういうのを混ぜてくるのが好きです。まあそんなクーデターで生まれた独裁政権もまたクーデターで終了してしまうのですが。さらに地震で物理的にも崩壊してしまいます。命からがら逃げ出した六人。

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 敵意剥き出しの男性陣の中でもちょっとだけ冷静な出木杉君てホントいい人だと思います。出木杉君が怒る回って結構レアじゃないでしょうか。出木杉君自体がレアキャラだけど。
 この画像でのび太が持っている物によって見事にオチが付くというドラえもんにおける基本「日常に還る」が履行されます。やはり完成度が高いこの話。使っている道具が同じだったりするので、おそらく竜の騎士はこの話から発展させたのではないかと思います。

 そういえばネットで時折見かけるこのコマはこの回で登場します。

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終わらなかった

 別に全話レビューするつもりじゃなかったのに全部面白いから今の所掲載順に全部書いてしまっていて、ここでようやく半分です。長いのでここで区切ってまた後日書いていきます。
 気に入った人は是非買って読んで下さい。

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 こういう話もあります。イグアナ飼えるなら捨てネコ飼ってやれよスネ夫。

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