ドラえもん傑作集がマジで傑作揃いなので読もう 3

常に出版される事の意義

 ドラえもんは定期的に何かしら出版される事が多いです。最近だと0巻が出版されてたちまち50万部突破しちゃったりなんかしてるし、50周年記念ということでてんとう虫コミックス全45巻をメモリアルエディションとして年末に発売されたりしますし、今こうして語っている形態での傑作集も定期的に出されています。
 連載が終了した作品をしつこく出す事に、最初はどうなんだと思っていたもんですが、結構意義があるんですね、これ。何しろアニメがまだ放映されているので、過去の作品とも言いづらい。そして定期的に「新しい本」が出版されることで本屋さんに定期的に置かれます。再版だと目立つところに置かれることは稀ですが、新しい本なら平台に置かれる事もあります。そうなれば新しい読者の目につく機会も増えていきます。こうして常に読者を得ていく事で作品が古びず、残っていきます。
 名作は定期的に何かの形で新しい本として出していけば、既読の読者ではなく新規顧客を生み出す可能性が出てくるので十分に意義があると思うわけです。まとめてみたらもの凄く普通のこと言ってた。まあいいや本題に行きましょうね。

なんでもひきうけ会社

 ドラえもんのストーリーの定番の一つとして、「道具をのび太が悪用してしっぺ返しをくらうパターン」があるんですが、これは学年誌の読者年齢に合わせてネタを変えているからだそうで。一年生に掲載されているのはカラーでドラえもんの道具を使って楽しく遊ぶだけのもの。段々年齢が上がるにつれてのび太が賢くなっていって、五年生あたりではこの回のように道具を本来の用途ではない事に使おうとしはじめるという。
 今回の話はドラえもんの秘密道具を活用して色んな人に役立てて金を貰おうという、読者が一度くらいは考えたであろう事をのび太がやってくれる回です。普通に考えるよね
 一応個人的な用途でのみ利用可能だというツッコミがドラえもんから入るのですが、スペアポケットを使って勝手に会社作って始めちゃいます。ドラえもんってちょいちょい組織作ったり会社作ったりするんですよね。子供だからこそ大人のまねごとがしたくなるもので、藤子先生はどうして子供の頃の気持ちをこんなに忘れないでいられるんだろうといつも思ってました。
 道具を使って金稼ぎすると莫大な罰金を取られるという設定が初めて登場します。

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 話が進むたびに報酬の額がどんどん上がっていく所とかちゃんと出来てますよね。まあどれも(なんだかんだで有料のお仕事は完遂出来ないので)手に入らないんですけど。最終的には最初に使った道具でドラえもんがやり返すという形で締めてくれます。
 最後の札束は「ジャイケル・マクソン来日公演のチケットを買ってこい」というものでした。よくある言い換えの名前を公式に使ってるの初めて見た。

流行性ネコシャクシビールス

 シュール系作品の傑作中の傑作。ビールスは今はウィルスと読むようになりましたね。(昔はVをバ行で発音していた)

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 カブトボーグでいう所の使い捨てヒロインの全身画からスタート。
 世間の流行がまるでわからない僕みたいなのび太がしゃれ子さんとスネ夫に馬鹿にされる所からお話ははじまります。そのやり取りの中で終始無表情なドラえもんも多分流行とか全然わかってないです。この当時は(実際の世相がどうかはわかりませんが)スカートが長くなる傾向にあったようで。
 ママも同窓会に行く服がないとパパに八つ当たりしていたりして、ついでにのび太にも八つ当たりします。

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 割と無理難題を言い出します。

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 陰キャ的には同意しかないこのコマ。先生も思うところがあったんでしょうか。こうして紹介記事を書いていくと常に新鮮なネタを周囲から集めて描いているんだなあというのがよくわかりますね。
 という訳で今回はここで「流行性ネコシャクシビールス」という、流行を作り出すウィルスを培養してばらまきます。バイオテロじゃん

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 培養の仕方(シャーレの中のウィルスらしきものがどんどん増えているのがおわかりいただけるでしょうか)。

 流行に敏感なしゃれ子さん、あっという間に感染してミニスカートに履き替えました。
 ウィルスの効目に味を占めたのび太がどんどんスカートを短くさせるんですけど最終的に短すぎて寒くて出られないというオチになるんですけど、のび太に「きみってかなりエッチなんだな」とかツッコミ入れておいて

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 のび太より貪欲に見に行こうとするスタイル。嫌いじゃないぜ。

 効果が気に入った二人は奇抜な流行を作ろうぜ、と悪ノリはエスカレート。
「ぼろ服を着るのがほんとのおしゃれ」
「いきなお化粧シャム猫カラー」
「外出のときはくつとげたをかたっぽずつ」
 などどんどん深夜ラジオとか昔の匿名掲示板みたいな悪ノリで変な流行を作り出した結果

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 地獄絵図
 何気に右下の男性陣、挨拶が風流。(セッセッセとあっかんべえが挨拶)
 左にいる背中向いてる男性、ゴミ箱持ってないのでもしかしたら流行と関係ない、もともとそういうファッションの人かもしれません。
 
 ところでこの作品、服を「作る」んですよね。時代性だと思うんですけどママも含めて新しい服は自分で繕うのが当たり前だったんでしょうね。パパの普段着も和服なので、結構初期の作品である事がうかがえます(てんとう虫コミックスでも6巻に収録されています)。ドラえもんが率先して悪ノリするのは初期ドラえもんの特徴の一つですね。多分アニメ化してからアニメ側の配慮にひっぱられて保護者的な面が原作にも浸透していったのだと思っています。

へやいっぱいの大ドラやき

 時期的にウィルスネタを二つぶっこんできたのすげえな。発売時期的にもよく差し替えしなかったなと思います。えらいぞ。

 ジュースを飲み過ぎで怒られたのび太が部屋に戻るとドラえもんが大仰な機械で何か作ってます。見られた瞬間パッと隠すのですが(見られたくなかったら壁紙秘密基地的な場所でやれよというのは野暮なツッコミですね)、のび太に懐柔されて説明しちゃいます。どら焼き一つで

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 好きな物と嫌いな物の前では倫理観とかが突然ザルになるドラえもんが好きです。
 使っていたのは「イキアタリバッタリサイキンメーカー」。新種の細菌を作り出す実験装置です。いやマジで人類絶滅させかねない道具!
 突拍子もない道具の時ほど信憑性を増すためにそれっぽい事を言うのですが、「人間はずいぶん細菌のおせわになっているんだよ、植物から酒やみそ、しょうゆを作ったり、抗生物質を作って病気を治したり……」などともっともらしい説明をしてくれますが、ドラえもんがやっていたのは

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 やってることが心底くだらなくてすばらしい
 作り方についても染色体だとかDNAだとかむずかしい話を交えて説得力を増し、作り上げた菌を色々とテストしてみたりしてそれっぽさは維持します。ちなみに完成したのは「どら焼きから空気を作る菌」でした。388種ほど作ったドラえもん、全部こんな感じのろくでもないものばかりだったらしいです。
 ドラえもんが去った後に(機械を置きっぱなしで!)のび太が勝手に作業を継続すると、一つのシャーレからむくむくとどら焼きが生えてきました。やったぜ。どら焼きを山ほど買って帰ってきた(もう諦めてた)ドラえもんに見せるとこれが大変な細菌である事が判明します。

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 食べ物で地球存亡の危機起こりすぎじゃね?
 (バイバインという薬で栗まんじゅうが増え続けてやばくなった事がありました)
 というかなんで名前が付いているんだとか色々な事を突っ込んではいけませんね。
 ちなみにこの段階で残り2ページです。ここまでに解決に至る伏線がちゃんと張ってあるのがすごいです。
 どら焼きだけでこんなに話題が広げられるもんなのかと心底感心する次第。

驚音波発振機

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 冒頭からタチキリをはみ出してまで描くジャイアンの不機嫌ぶり。どう考えても普段の行いが悪いんですけどジャイアン的にはそんな事は関係ないのです。
 困ったのび太が帰宅してドラえもんに相談しようとするも、ドラえもんはドラえもんでネズミがいたので半狂乱。

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 今回の傑作集、ネズミネタがいくつかありますがもれなく発狂しております

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 この目
 今回はネズミメインのネタです。「驚音波発振機ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ退治機」という機械で追い払おうとするのですが、肝心の驚音波のテープをなくしたので使えません。22世紀の道具なのにメディアがテープなのはご愛敬
 驚音波ならジャイアンの歌を使えばいいじゃない、という割と酷い発想によってジャイアンに家で歌を歌って貰うという命がけのミッションがスタート。歌の力を強める機械という訳の分からない言い訳で例の機械を作動させ、ママを無理矢理出かけさせ、固く耳栓をして準備運動や深呼吸をして備えます。

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 初日の予告で貼ったこれはそういう奴です。問答無用で飛ばしましたがママは無事だったんでしょうか。集中線が若干雑なのが笑いを誘います。
 歌の効果は絶大で、ゴキブリはわざわざ部屋に出てきてひっくり返り、窓ガラスにはひびが入り、漆喰の壁は崩れ、天井裏でネズミは断末魔の叫びを上げながら暴れ回ります。

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 これが人類の歌のリアクションだろうか
 見事にネズミは家から出て行き、めでたしめでたし、と思ったのですが調子に乗ったのび太がまた金儲けに走ります。ジャイアンのマネージャーのふりをして害虫駆除のために色んな家で歌わせます。
「ジャイアンもよろこぶ。しずちゃん(駆除依頼者)もよろこぶ。ぼくはもうかる。こんないいことやめられない」
 珍しく良い終わりになるのかな、と思った所で「道具を使った金儲け」はタブーなので、このあと手痛いしっぺ返しをくらいます。基本的にドラえもんは児童向け作品なので信賞必罰です。「作品中で悪い事をしない」のではなく「悪い事をしたら罰を受ける」という形で描く事、子供の悪戯心をまずは否定しないところが藤子作品の良い所だと思います。

とりよせバッグ

 これは映画のび太の新恐竜に出演する渡辺直美さんが欲しい道具としてこれを挙げたために収録されたお話です。いろんな話に登場するのでメジャーな道具の一つですが、初エピソードが収録されるのは意義のあることです。
 内容は、忘れ物をしたのび太を救う為に出した「とりよせバッグ」で助けてあげるのですが、面白がって持ち出して手品として披露。
「バッグからものが出るの、あたりまえだろ」
 というスネ夫のもっともなツッコミを受けてムッとしたのび太、事もあろうにスネ夫の日記帳を取り上げた挙げ句音読し始めるという公開処刑を開始。割とえげつない攻撃。

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 家に帰るとママが大変なことに。

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 ベタ。
 手品として披露した際にママの眼鏡を取り上げていたせいなのですが。
 今回は珍しくママにしっぺ返しを喰らうオチでした。道具を上手に使う事があまりないだけにちょっとレアですね。普段は蹴飛ばしたり壊したり捨てたりするか、道具で酷い目に合うポジションなので。

ツバメののび太

 こちらは同様に映画に出演される木村拓哉さんが好きなお話です。割とインタビューがガチファンな感じで語っておられるのが好きです。結構マイナーなこの話に影響を受けてツバメを保護した事があるとか、ちょっとトゥクンとしちゃう記事でした。ごめんそこまではいかない。

 冒頭で季節外れのツバメを見つけるところからお話はスタート。

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 割といろんな回で「○○ののび太」って出てくるんですけど、ツバメものび太がいました。他のツバメは南に渡っている状態で、一羽だけでたよりなく飛んでいます。
 そんなツバメを眺めていたらスネ夫が巨大な水槽と熱帯魚を自慢してきました。自慢されると反発したくなるのび太、口からでまかせでとんでもない事を言い出します。

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 小学生特有の無茶な嘘
 言われた方は「じゃあ見せろ」というと出かけてるとか貸し出してるみたいな事を言って誤魔化す(誤魔化せてない)ものですが、全員が家まで押しかけて確認しにいっちゃうのが彼らも大人げない。

 まあ、家にはクジラがいるのですが。たまにドラえもんは気を利かせます(それがのび太のためになるかどうかはさておき)。

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 のび太にプライベートはない。
 ドラえもん、今回の話に限らず結構のび太のこと監視してます。自家用衛星って秘密道具としては地味だけど出番多いですよね。
 今回の道具は「動物観察ケース」という空間を繋いでリアルタイムに動物の様子を見るというものだそうです。クジラだけでなくライオンやコアラ、パンダにモグラと様々な動物を見ることが出来ました。当然のように悔しがるスネ夫。

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 行動力の化身
 こういう時にスネ夫が真正面から張り合ってくれる話は名作。

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 話の流れがわからないと状況がまったくわからないこのコマが好きです。おどろくスネ夫と警官。そもそも何故警官がのび太の部屋にいるのか。緊迫した状況のはずがドラえもんとのび太はコアラを見て癒やされている。こういう一コマで異常な状況をサクッと描くスピード感はなかなか真似出来るものではありません(ページの都合もあるでしょうけど)。
 ちなみにこれはスネ夫が交番に行ってライオンを飼ってる人がいると通報したからです。意外と普通のリアクションと言えるかもしれない。

 お話はここから突然ツバメの話に戻ります。あのたよりなく飛んでいたのび太ツバメ。気になったのび太はこの道具で監視をすることにします。色々あって気がかりなので付いていこうとまで考えるのび太。責任感だけは強い子。台風の子とか犬とか面倒見は悪くないんですよ。飽きっぽいけど。
 学校があるのび太の代わりにドラえもんがフィリピンまで付いていく事になり、見事に送り届けてくれます。最後はちょっとしたオチで締めます。ツバメと熱帯魚自慢の話の繋がりが若干強引な感じがありますが、良いお話でした。スネ夫が良い感じに活躍してくれたので満足。

ドラえもんだけじゃない

 実はこの後、オバケのQ太郎、パーマン、チンプイ、SF短編の四つから恐竜に関わるお話が掲載されています。どれも面白いのですが今回は割愛します。
 全話レビューとかするもんじゃないなと思いましたが面白かったのでいいや。多分もうやりません。

 ついでなので、最近ライブを見事に成功させたmokkaさんのドラえもんの歌のリンクを張って終わりにします。埋め込み出来ないのよね。なんでだろ。

 それではまた。

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