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自選10短歌集2022 ふりかえり

今更ながら、2022年のふりかえりです。


昨年1月、#自選10短歌集2022 に参加させていただきました。
今更にもほどがありますが、書きかけの下書きを発掘してしまったので自作のふりかえりをしたいと思います。まさか次の次の夏が来てしまうとは思ってなかったな。

▼企画元はこちら

50番目に掲載していただきました。キリ番ってなんかうれしい。

2022年1月、短歌をはじめたばかりの頃に、2021年の自選10短歌集を拝見し、密かにこちらに参加することが2022年の目標になっていました。
スケジュール管理の甘さと学業の忙しさと想定よりも多くの歌を詠んでいたことにより、かなり慌ただしく10首を選出しましたが、自分がお気に入りのものだけを並べたのでとても満足しています。

文字色とフォントはどちらもおまかせでお願いしました。とってもかわいらしいお色をいただけてるんるんです。2022年のメンカラはピンクアーモンドになりました。鷹野さん本当にありがとうございました。


ふりかえり

以下、自選10首のふりかえりをします。解説と言えるほど立派なものではないですが、制作背景や考えていたことなどを覚えているかぎりつらつら書きたいと思いますので、よろしければどうぞお付き合いください。



1. 私には私の神が 貴方には貴方の神が そして地獄が

25題×4首ずつで計100首詠む、という一人百首企画の中で詠んだ歌。私の御守り短歌です。
アイドルを含めた人間を身勝手に神と崇めることの罪悪感とどうしようもなさを詠みました。他人を消費する産業の当事者であることのもやもや感や、他人の神と自分の神を混同するような身勝手さをどうにか言語化したかった。私自身は常に地獄に落ちる気満々でオタクをしていますが、他人の信仰の邪魔はしないくらいの徳は積んでから地獄に行こうとも思っており、そういうところが余計に罪深いなんて自嘲気味になる日々です。そんなことでは到底救われないので問題ないですが。
一方で、私が彼らに救われているように、彼ら自身の救われる存在がどこかにありますようにという祈りを込めた歌でもあります。人には人の神様、私の神への気持ちと貴方の神への気持ちが交わることはないし、同じ地獄に落ちることもないだろうから、それぞれ覚悟して生きていこうな、という歌です。行き着く先が地獄でも、きっと会えないから安心して落ちれるね。
大学時代の研究で日常的に地獄のことを考えていた時期があったこともあり、私の中で「地獄」は特別な場所ではありません。信仰の在り方は人の数だけあり、自分と世界との関わり方にどう折り合いをつけていくのか、の一つのパターンが「死後の世界の創出」で、「地獄」の存在だと思っています。結句の地獄は決して絶望の意味ではなく、私にとっては行き着くべきところに着いただけだというむしろ安寧に近い結びです。研究で思考していたことが短歌に透けていることはよくあるので、自分で読み返すと懐かしくなったり恥ずかしくなったりします。
この歌は初出時から感想をいただけることが多く、アイドル短歌として普遍性の高い歌になったかなと思っています。一首目から騒々しい単語が並んでますが、私らしくてかなりお気に入りです。


2. 純白のダンスを踊る海底で涙は泡に変わらないから

Snow Man 2ndアルバム『Snow Labo. S2』に収録の宮舘さん・阿部さん・佐久間さんのユニット曲をモチーフにして詠んだ歌。アルバムをひっさげたツアーで披露されたこの曲のパフォーマンスが忘れられずなんとか昇華しようとしてもがいた歌です。
海の底からひかりを求めるかのように、青い照明のなかで舞い踊る3人の姿が本当に美しく、それはまるで人魚姫の切ないお話のようでした。彼らの魂が透けるダンスと伸びやかで切実な歌声に魅せられて詠んだのがこの歌です。人魚はかなり逸話の多い伝説で、そのうちのひとつでは、人魚の涙が人間の手に渡ると不老不死の薬や宝石として高値で取引されるものに変わるとされています。どんな気持ちで流した涙なのか、人魚の感情は考慮されず、人間の欲に染められてしまいます。水中で流した涙は気づいてもらえず、人間の目に触れた涙は商品になる。弱音を吐くことを許されず、ただ美しく居るしかない人魚の哀愁と力強さと3人のパフォーマンスがひどくリンクしたところにつながっていく歌です。
全3首で作った連作、改めて見返すとすべて人魚伝説を念頭に作っていて、どれだけ人魚に見えたんだよ、と当時の自分をつっこみたい。でも円盤見たらやっぱりかなり人魚だと思ったので仕方ありません。重力を感じさせない可憐で力強く柔らかな踊りをする3人が本当に美しいので、ぜひみなさん見てくださいね。

((2024/4/10追記))

YouTubeにてMVが公開されました。まさかこのブログを寝かせた唯一の利点になるとは。人生ってなにが起こるかわからない。ありがとうSnow Man。


3. 受け取った熱い波線を反射して光る地球はあなたの色だ

渡辺翔太さんの誕生日に寄せて作った歌。
一昨年度のSnow Manの誕生日短歌はメンバーカラーをイメージした歌を作っていました。渡辺さんの青がどんな青なのか、宝石や花、空や食べ物を一通り逡巡した後、辿り着いたのは「地球」でした。地球は恒星ではないため、自ら光を発していません。しかし、宇宙のなかでひときわ美しく、「青」という他の星々とは一線を画した輝きを持っています。周囲からの期待や歓声をすべて受け止め、自らが輝く源にしてしまえる美しさ、私にとっての渡辺さんの青はそんなイメージです。地球色したアイドルってすごい壮大だね。
メンバーカラーの決め方はおそらくグループの数だけあって、どれがいいとかではないんですが、無限色の中から与えられた一色を背負って仕事していくのって、めちゃくちゃすごい制度だなあと思います。しかもみんなその色に相応しい輝きをしている気がする。渡辺さんに海・空・地球のような果てしないものを連想させる青が与えられている納得感。同じ作中で高温の青い炎をイメージした歌を詠みましたが、そういうエネルギーの高い青が似合う人だなと思います。みなさんの思うアイドルと色の話、ぜひ聞いてみたいので教えてください。
彼が地球なら、波線を送るのは私たち、歓声が彼を攻撃する隕石ではなく、どうか輝くための波線でありつづけますように。


4. 愛を知る 愛じゃなかったことを知る 愛を知りたい 一マス戻る

連作『ながいふゆ』より。街中が色めき立つのと反対に心はもの悲しくなっていく季節のはじまりに作った連作の中の1首です。
好奇心の塊なので、知らないことは全部知りたいと思ってしまうタイプなのですが、この世には参照元がわからない事象が多すぎて結構詰んでいる人生で、その最たる例が愛です。恐らく生殖のために一番重要な感情なのに、経験してみなきゃわからないなんて、人間ってなかなか恐ろしいことを設計されている気がします。ゲームみたいに戻ったり進んだりできればもうすこし楽なのにね。この歌は基本的に読みが一方通行になる「連作」という形式のど真ん中に配置した短歌で、堂々巡りのような、前にも後ろにも進めないような、ちょっと立ち止まる感覚を演出できたのが印象的でした。
短歌を詠む方には共感いただけるかも知れませんが、短歌初心者は1首に動詞が多発しがちになります。それだけ伝えたいことが多いのか、単に言葉を重ねることで表現を厚くしようとするのか、どちらにせよ、31文字には多すぎる動詞でごてごて重くなりがちです。絶賛初心者向けコースを登山中の私にとって、「愛」「知る」の2単語で表現を広げられたこの歌は、かなり上出来の良い短歌だったなと思います。自画自賛です。


5. 煙すら去った群青色に飲み込まれる夏のようでありたい

マイバースデー短歌と称し、誕生日に自分を振り返って詠んだ歌です。
大好きな夏の大好きな花火ですが、歳を重ねるにつれ、その美しさは光っている瞬間だけではないことが身に染みるようになってきました。むしろ、導火線に火を付けるまでの歳月や、どれだけ時間をかけて作っても火を付けたら祈るしかない不確定さ、光があっという間になくなってしまう儚さこそが花火の美しさではないかなあと思います。華麗なショーのあとに何もなくなった夜空は、何もないのに、明らかに花火の前と異なっていて、そうか、あの輝きを飲み込んだ暗闇なんだ、と気づいた時の歌です。
妙齢女になると「華」とか「盛り」ということを意識せざるを得なくなってくる最悪社会ですが、何もかも飲み込んだあとの人生こそ強く美しくしてやるぜ、というバチバチ決意の短歌です。私にとって短歌は今の自分の清濁ごちゃまぜ感情を吐露する表現になることが多いので、等身大の自分ではなく、なりたい自分を詠むというのが新鮮でした。普段アイドル短歌で散々人間を詠んでいますが、己という人間を詠むのはとても難しかったので、もっと自分に興味持ちたいと思いました。みなさんの「自分を表す短歌」ぜひ教えてください。


6. 釜茹での刑はどうです?しらすならきみの臓器になれたりしない?

連作『地獄めぐり』より。企画をやるほどの地獄短歌大好き芸人がはじめてつくった地獄連作の1首です。この歌も初出から感想をいただくことが多く、みんな臓器になりたいんだなあとうれしくなりました。
「言葉のつながり」や「単語の発想」を面白がっていただくことが多いのですが、この歌の発想を思い出してみると、地獄→釜茹での刑→かまゆでしたらおいしいもの→しらす→カルシウム→必須栄養素→健康→身体→臓器、と連想ゲーム的においしいところをつまんで詠んでいました。基本的に連作は連想ゲームだと思っている節があるので、作歌中のメモにはこういう残骸がたくさんあります。大抵は後から見てもなぜそうなったかわからないつながりばかりですが、今回は比較的理解しやすい数珠つなぎだったと思います。
「好きな人の一部になりたい」というわりと普遍的な感情を物騒に詠めたところがとても気に入っています。好きな人の構成要素になれたらうれしいし、人体に必要不可欠であればもっといい。アイドル短歌として作った連作なのできみはアイドルの彼で、他人のわたしが影響を与えたいなんて烏滸がましい感情を「地獄」という場所に落とし込めた歌でした。なぜ地獄が好きか、という話はまた別の機会に。


7. 正しくは飛ばせなかったヒコーキの軌道を抱いて強くなれたら

7首目/8首目は、2022年夏クールのテレビ朝日系金曜ナイトドラマ『NICE FLIGHT!』で阿部亮平さんが演じた航空管制官・夏目幸大について詠んだ短歌です。あの夏はサマーアイズ(夏目の隠語)に大変狂わされており、ドラマ完結後、数ヶ月を経てようやく連作に落ち着いた感情たちになります。
「正しくは〜」は夏目くんの学生時代〜管制官になるまでの前半を描いた連作のうちの1首。ドラマ内では当然描かれていない部分なので完全に想像です。セリフの端々に垣間見える、パイロットを目指しながらも諦めた過去とそこからくる少しの僻み嫉み、管制官になるまでの葛藤と空を守る仕事への誇りから妄想を膨らませ、「夏目幸大」という人間に夢を見させてもらっていました。憧れていた職業に就ける方が少数派な世の中で、諦めたものの近くで生きていくことを決めた人はとても強い人だと思います。思い描いた通りの軌道ではなくなっても大切にしたいことがあって、それは想定から逸れたからこそ大切にできるものかもしれない。これまでの選択を蔑ろにせず、憧れをなかったことにせず、誇りを持って生きていく大人のひとりとして夏目幸大さんのことを尊敬しているし、そんな素敵な役柄を阿部さんが演じたことがとてもうれしかったです。なんか夏目へのクソデカ感情供養文になってすみません、続きます。


8. しわくちゃな空にアイロンかけるようあなたの旅をまっすぐ祈る

こちらは夏目くんが管制官になってからを描いた後半の連作より。管制塔から飛行機を送り出す「Bon Voyage!」に込められた祈りに思いを馳せて詠んだ歌です。第3話に「僕は、空を飛ぶよりも世界中に旅立つ人を見送りたいし、ここに帰ってきた人に『おかえりなさい』って言ってあげたい。」という夏目くんのセリフがあるんですが、初見でこのセリフを聞いたときなんて阿部亮平なんだ…..と放心状態になりました。脚本家阿部さんですか?「いつかニュースキャスターになったらみんなの毎日を僕のいってらっしゃいで後押ししたい」というようなことをおっしゃっていた記憶があり(ニュアンスですいません)、そういうところなんだよ!!!と暴れ狂いました。
「知る」ということは「知りたくないことを受け入れる」と同義です。何も知らなければ無邪気に素敵なことばかりを考えられますが、知れば知るほど自分ひとりではどうにもならないことが山程あると理解できてしまう。天気のことも世界のことも、聡明であればあるだけその無力さを痛感してしまう。それでも祈るしかないから祈り続ける。誰かの心が少しでも癒やされるなら、できることを諦めない。
好きなアイドルの好きなところが当て書きされたとき、こんなにも胸が苦しくなることを知った夏でした。夏目幸大、一生物の出会いになっちまった。

NICE FLIGHT!は現在アマプラで全話配信中です。お時間ある方は人助けだと思って見てくれると嬉しいです。


9. 共同の廃品置き場 下手くそに結ばれているゼクシィの山

4首目と同じ連作『ながいふゆ』より。こちらも初出から感想をいただくことが多く、連作全体として詠みたいことが伝わったかなとうれしく思っています。当時住んでいた家はゴミ捨て場に本を捨てられたので、盗み見てはどんな本を読む人が住んでいるのかこっそり想像することがありました。ゼクシィが置いてあったことはないですが。
この歌の感想をいただくたび、自分の詠みの出来栄えよりも固有名詞の強さをひしひしと感じていました。「ゼクシィ」のたった4文字でこれから結婚するであろうしあわせな男女が思い浮かぶし、単語の色にそぐわない形容詞や動詞がつくとひっかかるものができる。固有名詞を効果的に詠み込むことは表現を広げることであるし、同時に自らの詠みを読み手の思う固有名詞の色に託すやや乱暴な手法だとも思いました。詠むのも読むのもだいすきなので何度も使ってしまいますが、そういう危険性は常に脳裏に浮かべながら創作していきたいなと思います。自戒です。
「ゼクシィの山」であることにこの連作に流れるどんよりした空気がよく表れていて、とてもお気に入りの短歌です。


10. 誰よりも太陽に近づきたがるきみに溶けない翼をあげる

本企画と同じく鷹野さんが主催されていた、#j31gateという企画の第25回「童話」に寄稿した作品です。こちらの企画とともに杏湯の人格は生まれているので、ほとんど母のような企画。
こちらは猪狩蒼弥さんが当時Jweb内の連載『伝記』に綴っていた物語から着想を得ました。猪狩さんは月額330円の会員ブログに、信じられない長文の散文や小説を認めてくれるので普通にお金払わせて欲しい。「イカロスの翼」という神話をモチーフに綴られた小説だったと記憶しているのですが、東京という街で上に昇っていく主人公と、それを嘲笑したり邪魔したりする人々と、彼を応援しながら命絶えていく人の物語で、正義や夢が何を目指してるのかを問われているような気分になりました。
猪狩さんのブログは、あくまでフィクションなので、深読みや曲解が歓迎されないことを理解しつつ、どうしてもアイドルである彼らの夢や正義に重ねずに読むことはできませんでした。太陽に近づくことが滅びに向かうことであろうと、愚かだと嘲笑されようと、彼らがそれを望むのなら、溶けない翼だってなんだって用意してあげたい。現実問題私にそんな大層な力は無いのだけれど、それでも太陽の熱にだって負けないほどの声援を送り続けたい。猪狩さんだけでなく、全アイドルに向けて、私が心から祈っていることを翼に託した一首です。
2024年に鷹野さんが主催された「短歌アンソロジー『アイドルが好き』」にもこの歌を寄稿しています。翼をはためかせるのはいつだって彼らで、どこへ行くか決めるのももちろん彼らです。ですが私は、私がアイドルを応援し、好きだと思う日々が続く限り、その一部として祈ることをやめられないでしょう。この歌とともに祈りつづけていきます。


ここまで6000字以上をお読みくださりありがとうございました。まえがきを書いたのが2月だったのですが、半年あまりをかけてようやくあとがきになりました。怠惰って恐ろしい。ふりかえると、どんなことから短歌を詠んでいるのか思い出せて、詠歌スランプのいいリハビリになった気がします。

2023のふりかえりもそのうち書きたいです。いつになることやら。


もしお気に入りの歌が見つかりましたら感想などいただけますと幸いです。
杏湯のマシュマロ

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