異世界転生もの(雑感)

最近のラノベ、漫画は、本当に異世界転生ものが多い。紙でも電子でも沢山ラノベや漫画を読んでいるので、当然異世界転生ものも結構カバーしたが、玉石混交であるのを感じる。ほとんどは「小説家になろう」で連載し、人気が出たら漫画化、更にアニメ化していくというパターンが多い。

まず、ほとんどの作品では、主人公はトラックにはねられるなど不遇な死を遂げ、異世界に転生する。この場合、女性なら美人悪役令嬢に生まれ変わる場合が多い。破滅エンドを避けるために奮闘して、最後は愛を成就させる。意地が悪く要領の良い妹に婚約者を奪われる姉という設定が多いのだが、現実に親が末っ子の妹を可愛がり、姉の自分は我慢させられることが多かった、という女性が世の中には多くて、それを反映しているのだろうか。男性の場合はもっと多岐に渡っていて、スライムだの、庶民だの王子だの様々な転生だが、基本チートな能力を持っていて、無双していく。それに、聖女、魔石、冒険者ギルド、ダンジョン、ゴブリン、オーク、ワイバーン、フェンリルなどファンタジー要素が加わって作品になる。概ね19世紀ヨーロッパっぽい世界が舞台だが、なぜか歴史上はその時代になかった王族貴族のための全寮制高校があり、そこでヒロインと悪役令嬢の恋の鞘当てが展開される。

同じような設定でどれだけオリジナリティを出せるかがポイントだし、細部まできっちり考えた奥行きのある世界で読者が、「そう来るか」とか、「何、その発想すごい」とかワクワクしながら読めるのか、薄っぺらいヨーロッパっぽさの中、陳腐な展開でがっかりさせられる作品なのか、まずは小説の段階でストーリーに魅力があるかどうかが問われる。なろう小説で私が一番気に入っているのは「本好きの下剋上」。プロットがしっかり練り込まれているし、描かれている人物が魅力的。あと、異世界転生ものではないが、「サイレント•ウィッチ」も話がしっかりと作り込まれている。どちらもコミカライズ進行中だが、漫画の作画も良い。(本好きは、第2部の絵はちょっと目が大きすぎる感じがするが…)

異世界転生ものの漫画に焦点を当ててみると、一つ、気になっていることがある。言っちゃ何だが、力量のない漫画家さんが多くないだろうか。若い美男美女はそれなりに上手いのだが、中年以上は若い顔にほうれい線と額のしわを加えただけ、というような作画しかできない人が多い。まあ、雨後の筍のように次から次へとラノベがコミカライズされている今の状況では、老若男女をしっかり描き分けられる画力を培う暇もなく、ある一定以上の力のある人がどんどん駆り出されているのだろう。

ただ、もちろん、漫画は例えば「デスノート」みたいに画力が半端ない作品もあるが、そうでなくて味がある絵、個性の出ている絵が魅力の漫画家は沢山いる。私が今、pixivコミックで先を楽しみにしている連載に「超弩級チート悪役令嬢の華麗なる復讐譚」がある。この漫画では登場人物は繊細美麗タッチで描かれてはおらず、むしろデフォルメされたような独特の絵柄なのだが、ストーリーとマッチしていると思う。

あと、ヨーロッパっぽい作品に加え、最近は中華っぽいものも多い。転生ものではないが、「薬屋のひとりごと」は漫画化を経て、今月からアニメが始まるのが楽しみだ。(ところでなんで漫画は2つのコミカライズバージョンがあるのだろう。一つで十分だと思うのだが。) 「本好きの下剋上」も「薬屋のひとりごと」も、作者が沢山のことを資料を当たって調べているのがわかる。やっぱり良い作品を描くには、手間暇かけたリサーチが必要だという事だ。

男性向けも女性向けも異世界転生ものが流行るということは、実は世の中の閉塞感を表しているのかもしれない。人間、死んではおしまいなのに、異世界転生ものでは、死んでからが本当の人生が始まるのだから。そして、今世でコツコツ努力して夢を叶えるのではなく、転生によって美貌やチート能力を苦もなく手に入れるのは、例えば「鬼滅の刃」で炭治郎が、これでもかという不幸と試練の中、歯を食いしばって鍛錬を重ねていくのとは真逆である。地道に働くより、投資で当てて一発逆転を夢見て情報商材に飛びつく人の多くは異世界転生もののファンかな、と推測している。


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