はる、なつ、あき、ふゆ、そしてまたはる(11)
軽井沢へは新幹線で行った。そのころ我々の仲は微妙な関係にあった。軽井沢旅行の一週間ほど前に、日常生活の中のささいなすれ違いから大きな喧嘩へと発展した後だったからだ。一応仲直りはしたのだったけれど、新幹線で隣の席に座っている間も、我々の間には何とも言えない微妙な空気が流れていた。片方が何かについて話しかけると、もう片方はそれについて返事をする。もうしばらくして片方がまた別の何かについて話しかけると、もう片方もまたそれについて返事をするといったような具合だった。何だか何もかもがぎごちなかった。
軽井沢では特に何も予定はなかった。熱海旅行でメイフラワー号(我々の愛車!)が故障したときの体験もあって、旅行先で必ずしも何かをする必要はないということを学んだからだ。我々は軽井沢に着くと真っ先にホテルにチェックインして、部屋に荷物を下ろした。今回はアーネスト・ヘミングウェイかスコット・フィッツジェラルドあたりが悩みながら小説を書いていそうな洋室だった。
しかし、私も恋人も座りこんだまま、一切何も喋らなかった。仕方がないので私はテレビをつけた。昼のローカル番組がやっていた。恋人はすぐにそれを消した。
「私がいま何をしたいかわかる?」と恋人は聞いた。
「正直に言うけど、全然わからない」と私は答えた。
「あなたとものすごくセックスがしたい。めちゃくちゃに愛し合いたい」
「わかった」
(続)
(目次)
thx :)