はる、なつ、あき、ふゆ、そしてまたはる(4)
熱海に旅行に行く途中で恋人の車が故障してしまったことがあった。
それはあまりにも突然のことだった。そのとき、恋人は運転席でハンドルを握っていて、私は助手席にいた。車(世界的シェアをほこるトヨタ社製のコンパクトカーだった)がもくもくと煙を上げ始めたのに気がついたのは恋人だった。私は100パーセント完璧に眠りこけていてそんなことには全く気がついていなかった。
恋人が切り裂きジャックに遭遇したかのごとき叫び声を上げて、私はそれで目を覚ましたのだった。
「どうした?」と私はまだ半分夢の中に片脚を突っ込んだまま聞いた。
「車が壊れた!」と恋人は私に向かって叫ぶように答えた。
さいわい、近くにカーショップがあったので、我々は煙を吐き続ける車に乗ってそこまで行った。
カーショップの店員は車をしばらく点検してから、非常に申し訳なさそうな顔をして我々のもとにやって来た。
「残念ながらこの車を修理することは不可能です」
そのようにして我々はメイフラワー号――我々は我々の車をそのように名付けていた――に突然別れを告げることになったのだった。
我々は即席でメイフラワー号の葬式を行うことにした。
「さよなら、メイフラワー号」と恋人は言った。
「さよなら、メイフラワー号」と私も復唱した。
我々はその辺りで摘んできた名前もよくわからない花をメイフラワー号のフロントガラスに供えた。その花は例えようもないほど美しく見えた。
それが我々にとっての初めての旅行で起きた出来事の一つだ。
(続)
(目次)
thx :)