小沢健二と坂本慎太郎について

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 小沢健二(ex. フリッパーズ・ギター)と坂本慎太郎(ex. ゆらゆら帝国)。

 この二人の間に直接的な関係はない。しかし、コーネリアスこと小山田圭吾(ex. フリッパーズ・ギター)を中継すると間接的な関係が生まれることは周知のところだろう。「作曲家としての小山田圭吾と一定期間に渡ってコンビを組んだことのある作詞家」という共通点によって。

 フリッパーズ・ギター時代において、(基本的には)作曲は小山田圭吾、作詞は小沢健二が担当していたというのは私が言うまでもないことだろう。フリッパーズ・ギター解散後、コーネリアスとしてソロ活動を開始してからしばらくは、小山田圭吾自身での作詞作曲を継続していたものの、2010年代よりプロデュース活動や各種サウンドトラックへの参加が中心になってくるのと並行して、いくつかの楽曲の作詞を坂本慎太郎へ依頼。何曲かのコラボレーションを経て、『あなたがいるなら』『未来の人へ』を始めとしたオリジナル・アルバムの楽曲に、坂本慎太郎が参加するようになる。

 以上が「小山田圭吾+小沢健二」から、「小山田圭吾+坂本慎太郎」に至るまでの四半世紀の概要である。

 小沢健二と坂本慎太郎の最大の違いは、世界や人生に対する基本的な認識及び態度が肯定的か否定的か、といった一点にあると思う。

きっと魔法のトンネルの先
君と僕の心を愛す人がいる
汚れた川は 再生の海へと届く
- 小沢健二『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』

まともがわからない
ああう〜
まともがわからない
ぼくには今
- 坂本慎太郎『まともがわからない』

 もちろん小沢健二が100%肯定的で坂本慎太郎が100%否定的だというわけではない。どちらにもそれぞれ否定的な部分があり、肯定的な部分がある。そのバランスは微妙である。

 しかし、ともに2010年代にリリースされた『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』と『まともがわからない』を比較する限りでは、やはり小沢健二は基本的には肯定的で、坂本慎太郎は基本的には否定的である、といったことは考えられるだろう。

 また、前者には「答え」があり、後者には「答え」がないということも重要なポイントである。

 21世紀のこの混沌としたインターネット社会において、どのような態度でもって世界に臨めばいいのかという問いに、小沢健二は「きっと魔法のトンネルの先 君と僕の心を愛す人がいる」と回答をし、坂本慎太郎は「まともがわからない ぼくには今」と回答を保留する。

 そして、文体のレベルで言っても、やはり小沢健二と坂本慎太郎には明確な違いがある。

カメラの中3秒間だけ僕らは
突然恋をする
そして全て変わるはず
本当のこと何も言わないで別れた
レンズ放り投げて
そして全て終わるはずさ
- フリッパーズ・ギター『カメラ! カメラ! カメラ!』 

なぜ 見てるだけで
いると わかるだけで
声を きいただけで
なぜ わけもなく
見てるだけで なぜ せつない
- コーネリアス『あなたがいるなら』

 乱暴な区別をあえてするとすれば、小沢健二の文体は小説的で、坂本慎太郎の文体は詩的である。

 フリッパーズ・ギター『カメラ! カメラ! カメラ!』の小沢健二の歌詞には、引用部分だけを参照しても「起承転結」の構造が存在している。これは明らかに小説的な感覚で書かれた歌詞である。

 一方、コーネリアス『あなたがいるなら』の坂本慎太郎の歌詞には、起承転結といったような構造は存在せず、あくまでも詩的な感覚によって歌詞が書かれている。

 以上の点だけを比較して、「小沢健二は小説的で、坂本慎太郎は詩的である」というのは、ほとんど暴論かもしれないが、少なくともそういった性質があるという証明にはなりうるだろう。

 また、小沢健二の文体は饒舌であり、坂本慎太郎の文体は寡黙である、ということも言えるかもしれない。

 これは「小沢健二の語彙がより豊かで、坂本慎太郎の語彙がより貧しい」といったような問題ではない(もちろん全くそんなことはない)。詩人としての性質として、小沢健二には「過剰さ」を指向するところがあり、坂本慎太郎には「質素さ」を指向するところがあるという話である。「過剰さ」と「質素さ」については、『カメラ! カメラ! カメラ!』と『あなたがいるなら』よりも、『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』と『まともがわからない』を参照していただけると、両者の違いがより鮮明に見えてくるはずだ。

 ここまで小沢健二と坂本慎太郎がどのように違うかということを検証してきたわけだけれど、逆にこの二人に共通する部分というのも多くとまでは言わなくても少なからず存在している気がする。小山田圭吾がパートナーとしてそれぞれを選んだということにもきっと何かしらの意味があるはずなのだ。

 でも、それについてはまたいつかどこかで。

thx :)