はる、なつ、あき、ふゆ、そしてまたはる(3)
三軒茶屋の「はあとぶれいく」という喫茶店の前で我々は落ち合うことにした。私も恋人もSNS上にセルフィーをたまに上げていたので、お互いに顔はわかるだろうということだったけれど、一応の目印としてリチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』を持っていようということになった(なぜかと言うと二人とも偶然その本を持っていて二人とも偶然まだ読んでいなかったからだ)。
先に「はあとぶれいく」に着いたのは私だった。私はとりあえず先に到着したという連絡だけをして、店の前でリチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』を持って馬鹿みたいに突っ立っていた。
しかし、相手がやって来たとき、私はSNSに没頭していて全く気が付かなかった。私はスマートフォンから顔を上げて、目の前に立っている人物を見た。
「私です。エル・ニーニョ現象です」と恋人は言った。
「どうも。出口王仁三郎の孫です」と私は言った。
我々はそしてリチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』を見せ合った。そのようにして「出口王仁三郎の孫」こと私と、「エル・ニーニョ現象」こと将来の恋人は出会ったのだった。
(続)
(目次)
thx :)