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はる、なつ、あき、ふゆ、そしてまたはる(5)


 メイフラワー号が故障してしまったので、我々は最終的に電車を乗り継いで熱海までたどり着いたのだった。当初の予定では観光スポットを巡るつもりだったが、観光をするには二人ともあまりにも疲れすぎていた。我々はとりあえず予約していた宿にチェックインすることにした。

 一ヶ月も前から恋人が予約してくれていたその部屋は非常に素晴らしかった。夏目漱石か森鴎外あたりが悩みながら小説を書いていそうな和室だった。我々はひとまず荷解きをして、部屋に備え付けのお茶を飲んで、ひと息つくことにした。

「これからどうしよう」と私は言った。

「なるようになる」と恋人は言った。

 我々が話し合って下した結論はこうだった。今回はメイフラワー号の故障という想定外の事態が発生したことも考慮し、当初予定していた観光地巡りは断念することとする。その代わりにこの素晴らしい宿で一泊二日の旅行を存分に楽しむのだ。

「悪くない」と私は言った。

「全然悪くない」と恋人も言った。

 そのようにして私たちは初めての二人きりの旅行を楽しんだ。地方のくだらないローカル番組を見たり、持ってきた本を読んだり、宿の近くにあったレンタルビデオ屋で映画を借りてきて見たりした。週末に普段やっていることと変わらないことを旅行先でやったわけだったけれど、それでも我々は旅行を楽しんだと言えると思う。

 どんな場所でどんな状況であれ、我々はとにかくいっしょにいるだけでよかったのだ。

そうだな
そういうのが人生かもな

リチャード・ブローティガン

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thx :)