音色を決めるファクタとその原理

ギターについての話

ギターという楽器は、ピアノより少し自由度が高い。ピアノは張られた弦の特定の位置をハンマーで叩くが、ギターは弦を弾く位置を自分で決められる。ネックに近い部分、ブリッジに近い部分。どこでもいい。
ギターを触ったことがある人ならば、この自由度がもたらす影響力の大きさを知っているはず。
そう、音色が変わるのだ。

ピッキングポジション

ブリッジに近いところを弾くと、音色が鋭くヌケが良いものになる。これは、高次倍音の量が多くなるためだ。EQでハイを上げた状態に似ている。ネックに近いところだと正反対に温もりのあると形容される、あまり高次倍音を含んでいない音色になる。
何故このような現象が生じるのか?
これは、ピック位置が主として振動の腹になるからだ。
基音の振動の場合、丁度真ん中、開放弦を弾くのであれば12フレットの位置が振動の腹になる。逆に2倍音の場合、12フレットは節にあたる。
なので、12フレットあたりをピッキングすると、偶数倍音を多く含んだ音色になる。
ではブリッジ付近だとどうか?
高次の倍音は様々なところに腹をもつため、弦上に一様に分散していると考えられる。
一方、低次倍音であればあるほど、腹の位置は少なく、中央付近に偏在する。
ブリッジ付近から出てくる音色は、高次倍音リッチで、低次倍音はあまり寄与しないことになる。
これが音色の特徴にそのまま繋がる。
エレキギターの場合は、さらにピックアップの位置を選ぶことができる。ブリッジに近いほど、高次倍音の寄与率が増すため、尖った音になる。

実際にアコギで実験した結果を以下に示す。
ブリッジ付近をピッキングした場合、高次倍音がより多く出現していることがわかる。

ピッキング位置による倍音分布の差異

つまり、

ピッキング位置、ピックアップはブリッジに近いほど、高次倍音が発生する

と言える。

インハーモニシティに似た話

ピアノ調律において、インハーモニシティという概念がある。曲げ剛性の影響で倍音が少しシャープする現象だ。
弦が硬いと高次倍音が出にくい、と考えても良さそうだ。高い周波数は波長が小さいため、短いスパンで振動する。弦が硬いとそれができない。
弦の硬さは材質や直径、アスペクト比で決まるが、張力も影響する。
同じ音程を出すために、細いゲージを緩く張る場合と、太いゲージをきつく張る場合では、高次倍音の分布が変化すると考えられる。

これも実験を行った。
2弦開放B3音を基準に、1弦を緩く、3弦をきつく張り、すべてB3音に調節した後、12f付近をピッキングし、開放弦を鳴らした。

張力による高次倍音分布の差異

張力の高い3弦は高次倍音が比較的小さい。
2弦と1弦はあまり変わらないように見えるが、6kHz以上の高音領域では2弦の倍音が離散的になっているのに対し、1弦の倍音は軒並み発生しているように見える。

今回の結果だけから結論を述べるのは性急であるが、一応の結論を提示する。

張力が小さいほど高次倍音が発生しやすい(剛性が小さく細かい振動を起こしやいため)

ギター種による音色の違い

以上のことを考慮すると、個々のギターの音色に特色が存在することに対し納得ができる。

例えば、スケールが長いギターと短いギターでは、同じ弦を張っても音色が変わるはずだ。スケールが長いと、もともとの音が低くなるため、短いギターと比較した際張力が大きくなる。とりもなおさず、高次倍音が少なくなると考えられる。

太い弦を使えば、細い弦よりも張力が大きくなるため、高次倍音が少なくなる。

ボディの硬さ等も影響を与えると考えられる。

また、エレキギターにおいては、ピックアップの特色も考慮する必要がある。振動が直接音になっているわけではないので、回路内での減衰等を鑑みる必要がある。

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