そんなに怖くない呪いの木の話

 これは、私は何も怖い思いはしていないが被害者はいる。そういう話。
 我が実家のご近所には呪いの木がある。何か曰くが解るかと住所や地名と『木』『呪いの木』などで検索してみたが、別の県の話ばかりが引っ掛かったので、呪いの木というのは案外その辺にいっぱいあるものなのかも知れない。
 なので私に解るのは、今はとっくに鬼籍に入った祖母がまだ小さな私をお膝に乗せて話してくれた「道路を作るときに、道の真ん中にある木を切ろうとしたんやけど、何度やり直しても工事の人が怪我をするのであきらめて、木をそのままにして道路を作ったんよ」ということぐらいだ。その木は令和の今もなんかしめ縄っぽいものを巻かれて道路のど真ん中に立っている。

 前回の話でも記載したように、私はうすらぼんやりと生きてきたので呪いの木の話を聞いても「ふうん」としか思わなかった。生まれたときから道路の真ん中にその木は生えていたわけで、それが普通のことだったので。
 成長するに従って、道路のど真ん中に一本だけ木が生えているのは普通ではないことは理解できたが、真夏のクソ暑い中道路を渡るときに木陰をくれる呪いの木のことは今も結構好きでいる。

 そこにあるのが当然なので、ご近所の人との世間話でも特に話題に上がることもなかったが、近年どうやら同じ町に住んでるらしい人が「うちの近所、呪いの木があるんですよ……、結構不気味で……」と語っているのを聞いて「あっ、あの木、やっぱり呪いの木って認識なんだ!?」と改めて思った。ただ、その人の語りも「昔、切ろうとしたら関わった人たちが次々怪我をしただか死ぬだかした」程度のものだったので結局詳しいことはそれ以上伝わっていないっぽい。

 ある夏の夜、コンビニにアイスを買いにいった私はその呪いの木がある道路を渡っていた。いつも側を通るときは木を見上げて「葉が繁ってきた、もう夏だな……」とか「なんか鳥の声が聞こえるけどどっかに止まってるのかな」とか「葉も散ってきたなあ、来年の夏も木陰頼む……」とか思いながら通るのだけど、その日はなんとなく俯いたままだった。
 俯いたままだと木の根本が目に入る。根本、というか回りの地面が行き交う車のヘッドライトの明かりに照らされてキラキラしている。キラキラしているということは、その辺にキラキラするものがある。具体的にいうと、割れたガラスとか。
 今もそれなりに被害はあるのかも知れないけど死亡事故があったという話しは聞かないのでまあ怪我で済んでるんじゃろ……呪いの木、ここに健在。そう思いながら帰ってアイスを食べた。

 実は、その呪いの木の近くに歩道のど真ん中に生えてる木もある。こちらもかなり大きな木で歩道のど真ん中というか歩道を塞いでしまっているのだけどやはり「そういうもの」と思っていたのであまり深く考えたことがなかった。
 この間みたら朽ちてしまったのか途中で折れて大人の身長程度の根本が残りそこから新たな緑が芽吹いていた。その状態でもしめ縄っぽいものを巻かれて根本のウロには小さなお茶碗が供えられたままだった。こちらの木についての由来は本当に何も知らないのでその状態になっても伐採されない、こっちの木の方がなんか怖いなと思っている。

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