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語るな、観せろ

言葉など関係ないからな。言葉は、生命が不活性物質から離れているのと同じくらい、生命からはなれているよ。

『スキズマトリックス』


僕がゲームの中に物語を感じたのはFF8が最初だった。

そこにはキャラクターがいて、世界があって、状況とドラマが連続し、一連のお話があった。そしてそれらは、テキストによって繋がれていた。

ファミリーコンピューター以降のテレビゲームは映像も音もある総合芸術のメディアとして一般に認知されていたけれど、それでもフィクションを表現するのに満ち足りていたわけではなく、それゆえ物語を紡ぐものとしてテキストは大きな役割を持っていた。

あの頃の物語は言葉だった。

いつしかそれは文化的な伝統として、あるいは手法的な文法として、そしてひょっとしたら、抜け出せない呪いとして、今なお残り続けている。




クリアしました。FF16。
シリーズにそこそこ触れてきた僕にとってやらねばならなかったともいえる作品です。少し前に「暁月のフィナーレ」をクリアしたばかりだったので、FF14開発チームが取り組んだタイトルとなれば期待値もそこそこにありました。
先行配信された体験版では派手なバトルアクションや相変わらず高クオリティなカットシーン、そして暴力の匂いに興奮したことが記憶に新しいですね。

実際クリアまで通してプレイしてみたところかなり楽しめましたよ。

増えていくアクションとその組み合わせで自分なりの戦い方をくみ上げる過程はそれだけで面白く、キャラの手触りも気持ちよさと真剣味がバランスよく調整されている印象。
マップ設計も14での経験を活かしていて、プレイヤーの動線を丁寧に、しかしうるさくなくコントロールしています。

また、アクションにフォーカスした作品ということで全体的なレベルデザインもアクションに向いたつくりを意識していたかと思います。

  • 武器や防具の性能に対する「力の入れなさ」具合

  • プレイスタイルをコントロールするものとしてのアビリティ、アクセサリ

  • アクションを縛りかねない属性の概念の撤廃

  • 軽めのデスペナルティ

エトセトラ、エトセトラ。
"アクションに弱い会社"などと言いつつ上手くやった思います。これも多分14の経験から来ていると思うのですが、「削るデザイン」を恐れないのは素晴らしいことですよ。

シビアな世界観も好み。
戦記物のテイストを文脈として纏いつつ、人とベアラーという差別構造を構築し、クリスタルというシリーズおなじみの要素をリソースとして解釈した、現実に根差そうとする志は好感触ではありました。

それに随所に仕込まれたシリーズのオマージュにはやっぱりニヤニヤしてしまいます。ファンが作っただけあってファン心をわかってる。斬鉄剣返しとかわかりやすいのもそうですけど、《原初の楔》発動のカットシーンとかFF7ACから引かれてますよねアレは。細かいなぁ。

そして何より評価すべきは召喚獣バトルでしょう。
昨今のスクエニのゲームは過剰なSFXが若干気になっているところでしたが、そんなものどうでもよくなるくらいの「過剰さ」がここにあります。
スケールにしろ演出にしろアクションにしろ、召喚獣同士の戦いは徹底して「やり過ぎ」であり、「やり過ぎ」であることを恐れず、「やり過ぎ」ることに意識的な無神経を発揮し、そして「やり過ぎ」たがゆえに最高の体験として、FF16の代名詞として言ってもよい新たな遊びを確立しています。
こういうのが好きでしょ?どころではない。
こんなもんじゃ足りねえよ、という常軌を逸した熱意がそこにはありました。

そんなこんなでAAAとして、大人気シリーズの最新作として、FF16は申し分ないクオリティを伴っていると思っています。


でも、僕はこのゲームは完全に肯定することはできません。


だってこのゲーム。
語り口が下手っぴなんだもの。




ストーリードリブンであることを意識したと、開発陣は語ります。
よござんす。つまりそれは「面白いお話」を提供することを主旨としたゲームであることを主張しているわけですな。
言いたいことはわかる。僕もシリーズのファンなので、FFの根底には物語があり、その上でゲーム性が成り立っているということは重々承知。開発サイドであり同時にファンである彼らも同じように感じているのでしょう。であるからこそ、物語を提供するという「らしさ」を重視している、と。

でもね、そこには大きな問題があるんですよ。

なにって、面白いお話を作ることって難しいよ、ってことなんです。
それはきっと、面白いゲームを作るよりもずっと。

ストーリーが悪かったのか?
いやいやそこまでは言いません。
"人が人として生きられる世界"というテーマは終始一貫しており、それを基盤に重厚な世界観が構築されているので脚本には筋が通っています。
それに前述したとおりカットシーンは基本的に高品質ですし、力が入っている。召喚獣バトルみたいに盛り上げてくれる要素も随所に盛り込まれている。プレイヤーを話にノせる力(つまりは演出力ですが)はあるんです。
だからまあ、悪いなんて言えませんよ。

悪いんじゃないんです。
つまらないんです。

色々ありますが、僕にとって最大の問題はセリフ。
本作のキャラクターたちのセリフはなんか説明的なんですよね。しかも説明的ってゲーム的な説明じゃなくて、キャラ自身の「ぼくはこうかんがえてるんだぜ」っていう心情とか思惑とかが説明的なんす。
さらに妙に劇的というか…人間ってもう少し平易なことを喋るもんじゃないんですか?と。
話をドライブさせるために説明的だったり演説させてみたりする、というんだったら分かるんですが、そういうところでなくてもこういう感じなんですな。

つまり、キャラ表現としてのセリフが死んでいる。
で、死んだセリフで掛け合うからドラマも死んでいる。

なんていうか…もう…。

それらしいこと言わせとけばドラマが成立すると思ってねえか?

て、思ってました。ずっと。
歌劇じゃねえんだぞ、と。いやこれは失礼か…。

しかも後半のウォールード~ラスボスくらいになるとそんな薄いドラマすら放棄してキャラの行動の意図の説明に終始し始める。ここに関してはキャラ表現だけでなく大枠の話のつくりも悪かった。面白くもないテクニカルタームの羅列と、要するに「俺こうしたいからお前らの敵ね」という意図のセリフの連続には正直嫌気が差しました。

ゲームの文法としてサブクエの方にドラマを散らしているっていうのもわかるんですが、それは別にメインストーリーを薄くする言い訳にはならないよ。

…なんでこんなにボロクソ言うかっていうと、他のFFはある程度上手くやってるからなんすよ。
お話が素晴らしかった漆黒や暁月ではこういった浅さは周到に回避され、キャラは上手くロールをこなしながら存在感を放っていました。
シナリオが素晴らしいと言われたFF10ではキャラクターみんなが強烈に個性的でそれでいて物語を訴求させる謎やイベントを各所に散りばめて話の内側に引き入れてきてます。
散々酷評された——実際脚本はわかりやすく混乱していた——FF15にしたって語り口は一貫しており、とっつきやすかったように思えます(そのノリがキツいんだよ!という受け手側の問題はあるんだろうけど)。

あんまりこういうこと言うの良くないと思うんですけど、前廣は紅蓮のころから成長してない。シリーズ作品をリスペクトしていると言いつつ、構造を学んで昇華させていない。
思うに、彼にとってのゲームは物語が言葉だった時から変わっていないのです。表情が見えないから気持ちを説明しないといけなかった時代から、エフェクトが重いから大仰に詠唱をさせていた時代から、UIに余裕がなかったからNPCに次の目的地を言わせていた時代から、彼にとってのゲームが進化していない。
映像や音で表現できることが増えて、ゲームにおける言葉のプライオリティはどんどん下がっているのに、それでも言わせずにはいられない。
思い出の亡霊。
だから石川夏子氏のような軽やかさを手に入れられない。


でも、散々言いはしましたが悪いとこばっかりでもないです。
序盤の少年編~シドとの邂逅までで意識的に表現されていた血の匂い。その容赦なさはかなり好きだったし、バハムート前後はアクションもドラマも相当に盛り上がりました。
それにエンディングのセリフの少ないカットシーンは、音楽も相まってかなりグッときたし…。いやなんでこれができるのにあんなにベラベラ喋らせていたのか、と思うほど。もうゲームはこういう観せるドラマができるんだよ。


それにテキストばっかりがダメってこともなくて。
新生エオルゼア~紅蓮のリベレーターで問題視されていた、かさ増し以外に寄与していない"お使い"問題は解決していないので、結果的に"ジェットコースターのような体験"を阻害することがありました。工数との兼ね合いとか色々あったんだろうし、多少だったら大目に見ますけど「多」だもの。多少じゃなくて。

ARPGにありがちな「オープンフィールドの道中の敵全無視問題」にも特に解決はなさそうだったし。いや、これはこのゲームの責任でもないか…

どうでもいいよりの問題としてはインタラクトしないと開かない扉やらの障害物。
あってもまあいいけどない方がいいよこれ。いらないよそんな「自分がキャラを動かしている」風演出。効果薄いって。

世界のルックも飽きる。シビアな世界は好きなんですが、だからってイコールで地味じゃないといけないってことはないぞ高井よ。
特に原初の楔以降のあの空(名前忘れた)。
なんですかあれは。空が変わると世界が変わったように感じるという点に気づいているのはよろしい。でも大変なことが起こったんならもっとそれっぽくしないと駄目だよ。DoD2の"空が落ちる"とか、エルデンのケイリッドぐらいやってくんないと。
「気味の悪い空ね…」
とか言われても。
普通に夕方の曇りじゃないすか、あれ。
もうちょっと映像的に美しくても先生怒りませんよ。
あとなんで後半になるにつれ血が減るんだよ。保てよそこは。俺が好きだから。

そんで祖堅。お前な、そこに座れ。
どうしたんだあの音楽は。
世界観に合わせた?シリーズを尊重した?
いいよそんなことしなくて。余計なことをするんじゃない。
漆黒と暁月であんなに良かったのにその魅力が削ぎ落とされちゃってるぞ。なんでこんな普通のオーケストラにしちゃったんだ。もっとドラム叩いたりギターかき鳴らしたりシャウトしないと駄目じゃないか。ん?
お前はあれが持ち味で魅力だったんだからそっちを伸ばそうな。




はい、とまあキモいノリで色々言いましたけど。
あえて点数をつけるなら81点です。
えーと、参考までにFF15が73点。
暁月のフィナーレが96点。
ニーアオートマタが87点。そんな感じの基準です。

いや……だから評価は高いんすよ。基本的に楽しかったので。
でもまあ、個人的に気に食わないところがまあまあ…そこそこ…かなり…あったので。だから上記したことは批評とかじゃなくて恨み節に近い。あんまり一般的な感想じゃないかも。
好きな子には意地悪したくなっちゃうんです。
多分そういうこと。

楽しいゲームではありました。
ふさわしいクオリティでもありました。
ただちょっとばかし、同じファンとして、作り手のケツを蹴りたくなるような、そんな不思議な後味でした。
以上。


んじゃ、ファイナルファンタジーチャレンジに戻るとしますか。


(画像引用元)

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