【メモ】企業法務の若手弁護士が仕事でよく参照する本まとめ

随時更新します。試用中の本を含みます。基本的に入門書(全体像を理解する用)というよりは辞書用です。


契約

↑阿部・井窪・片山法律事務所の弁護士による、典型的な契約書のサンプルとその解説。不十分あるいは不適切な規定を修正するのはそれほど難しいことではありませんが、あるべきものが欠落しているのを見つけるのはけっこう難しいので、チェックリストとして参照しています。

↑大阪弁護士会の研究会による知財契約のサンプルとその解説。司法試験では知財を選択したはずなのですが、実務で知財を扱う機会はそれほど多くなく、契約書レビューやDDで担当することになったときは本書で確認してから作業しています。

↑シティライツの伊藤先生と内田・鮫島の久礼先生、高瀬先生による、IT関係契約のサンプルとその解説。チェックリストとして参照しています。

訴訟・紛争

↑弁護士任官経験を持つ圓道先生による訴訟の解説。訴訟を担当することはあまりないので(そのような人を想定していることがはしがきに書かれています)、とても助かっています。

↑システム開発経験のある弁護士2人によるシステム開発紛争の解説。裁判例が網羅されており(ちなみに伊藤先生のブログも勉強になります)、システム関係の検討をするときは本書を見てから判例DBをキーワード検索することが多いです。

↑MHMのパートナー2人による、労働法と知財(そして債権総論、不法行為法)の間のニッチ領域についての本。たまにピンポイントで回答しなければならないことがあり、とても助かっています。

↑書記官研修用の本。純粋に手続的なことが分からないときに使います。少額訴訟の本は裁判所の至誠堂書店にありました。

↑民事訴訟法、民事執行法、民事保全法の新基本法コンメンタール。手元にはこれを置いていて、さらに調べる必要がある場合には事務所のライブラリのコンメンタール民事訴訟法、注釈民事訴訟法、条解民事訴訟法・民事執行法を見に行くことが多いです。

↑非訟事件手続法の立案担当者による逐条解説。平成23年全部改正時の一問一答がベースになっています。プロバイダ責任制限法の発信者情報開示命令・提供命令・消去禁止命令の箇所は非訟事件手続法の特別法なので、本書を参照することがあります。Legalscapeにあります。

発信者情報開示

プロ責法については総務省の逐条解説を見ます。同法の手続部分は非訟事件手続法の特別法なので、同法の逐条解説も見ます。実体法については有識者検討会取りまとめが便利です。判例のインプットの際は、『判例プラクティス 憲法』、『事件類型別 不法行為法』、『論点体系 判例民法8』、『新注釈民法15』を読んでまとめました。『人格権法概説』、『プライバシーと氏名・肖像の法的保護』も読みましたが、これは半分趣味です。

↑発信者情報開示(申立人側)の第一人者である中澤先生による解説。これまでの発信者情報開示の本はマニュアル風で、被申立人側の弁護士が使うには必ずしも便利ではありませんでしたが、本書はQA方式で使いやすいです。

なお、被申立人側の弁護士は(対AP申立てから本人に対する損害賠償請求までの)プロセスの一部にしか関与しないことが通常であり、必ずしも全体像を経験上理解しているわけではないので、そのような点でもこのような本を持っておくことは有用ではないかと思います。

M&A

↑NOTの弁護士によるDDの解説。M&Aを扱う機会はそれほど多くないので(セクターとしてはファイナンスに所属しており、業務は訴訟・危機管理系のものが多いです)、DDを担当することになったときは本書で確認してから作業しています。

民商法

↑最近の改正の立案担当者解説。ITを扱っているので、特に定型約款を見ることが多いです。

↑商法の体系書。Legal Libraryにあります。

会社法

↑会社法のコンメンタール。Legalscapeにあります。

↑最近の改正の立案担当者解説。Legalscapeにあるものとないものがあります。

他に商事法務の「ハンドブック」シリーズ、MHMの「新・会社法実務問題」シリーズは代表的な実務書としてリサーチの際には参照しています。

知財

↑条解著作権法。1冊なのが便利です。

リサーチの際は高部裁判官の「実務詳説」シリーズ(自宅に置いています)、青林書院の「新・注解」シリーズ、著作権法コンメンタール(Legal Libraryにあります)を参照します。DDで触れることもそれなりにあるので、『M&Aを成功に導く 知的財産デューデリジェンスの実務〈第3版〉』が改訂されるかデータベースに入ってほしいなと思っています(が中央経済社なのであまり期待はしていません…笑)。

不競法は経産省の逐条解説、著作権法の平成30年令和2年改正部分は文化庁の解説も見ています。入門書としては『特許法入門』(島並ほか)、『著作権法入門』(島並ほか)、『プラクティス知的財産法I 特許法』(田村ほか)、『プラクティス知的財産法II 著作権法』(田村ほか)、『商標法』(茶園編)、『不正競争防止法』(茶園編)がよいと思います。

個人情報保護

個情法はガイドラインとQ&Aがスタートラインです。

↑当局者による逐条解説。令和3年改正に対応していませんが、同改正では事業者に関する規定は変わっていないので、内容が古くなっているわけではありません(が令和3年改正では令和2年改正で増えた枝番が一掃されたので、条文を探すのが大変です)。GL/QAと同じではと思われるかもしれませんが、微妙に過不足があり、これはこれで見る必要があります。

↑平成27年、令和2年、令和3年改正の立案担当者本。令和2年と令和3年はかなり書きぶりが違うので、味わいながら読むと(一部の人は)楽しいかもしれません。

↑マイナンバー法の立案担当者であり弁護士である水町先生による逐条解説。Legalscapeにあります。

ちなみに内閣官房はかつてマイナンバー法の逐条解説を公開していたところ、現在は(デジ庁への移管に伴って?)見れなくなっているのですが、WARPのアーカイブから飛ぶと開けます。

テレコム

電通法は、電気通信事業該当性については参入マニュアル・そのガイドブック、個人情報系についてはガイドライン・その解説、消費者保護ルールについてはガイドラインマニュアルがスタートラインです。ガイドライン相当の文書(「指針」「考え方」「参照文書」「Q&A」とか)が出ている分野はそれも参照します。

↑当局者による逐条解説。令和元年以降の改正に対応していませんが、それらについてはガイドライン等と併せて「情報通信政策研究」の立案担当者解説を参照します。

↑元郵政官僚による解説。通信の秘密の箇所は後掲の『情報刑法』と合わせて参照します。ちなみより簡易に全体像を把握できる文献として「よくわかる教科書 電波法大綱」があります。

↑当局者による逐条解説。放送法そのものについてアドバイスすることは少ないですが、電波法が放送法と複雑に絡み合っているので、参照することがあります。ちなみより簡易に全体像を把握できる文献として「放送制度概論」があります。

ヘルスケア

医事・薬事規制は、通達・ガイドラインがスタートラインです。厚労省はかつて医師法・医療法の解説書を改訂していたのですが、1994年の改訂を最後にやめてしまいました(厚労省の資料に「医療法コンメンタール」というのが出てきますが、1994年のあの本のことであり、あれをもとに内部的に改訂しているといったわけではないらしいです)。

↑業界関係者や薬学生向けの教科書。薬機法は複雑な体系をなしており(個人的には金商法や電通法並みに複雑に感じています…)、全体像を把握するのにも一苦労するところがありますが、本書はそのような場面で有用です。

↑MHMの堀尾先生による解説。通読向きです。

↑薬剤師で弁護士の赤羽根先生のシリーズ。広告規制は複雑(かつあまり合理的でなく、原理だけからは理解しにくい)なので、とても助かっています。

↑MHMのヘルスケアPGによる解説。薬事の本は多いですが、医療にも(信頼できるレベルで)言及している本はあまりないので、そのような場面で参照しています。

↑田辺総合法律事務所の弁護士による解説。2013年と古いためその点には注意が必要ですが、医療法を網羅している本は少なく(MHMの本はヘルスケア企業向けで、医療機関プロパーの問題は扱われていません。平沼先生の本は記載が足りていない箇所が多いように感じました)、検討の起点として参照しています。

独禁法・景表法

独禁法はガイドライン相談事例集がスタートラインです。

↑当局経験者による解説。もっとも、必ずしもガイドラインのまとめにとどまるものではなく、踏み込んだ解説をしている箇所も多いように感じます。Legalscapeにあります。

↑当局経験者による解説。もともと緑が版を重ねてきており、2023年に半分くらいの分量の入門書としてオレンジが出たのですが、オレンジのほうが新しく(緑は2021年。ステマ規制はオレンジにしか記載がありません)、また、削られたのは主にエンフォースメントの箇所で、実体法部分はオレンジでもかなり充実しているので、手元にはむしろオレンジを置いています。緑だけLegalscapeにあります。

金融規制法

金融庁が監督指針を出していますが、法令解説という感じではないので、解説書を参照することも多いです。

↑当局者による銀行法の解説。なお、現行法の立案担当者による単著が別に出ていますが、それと比べると淡々とした感じがあります(個人的にはこっちのほうが好きです)。

↑電子決済等代行業規制を導入しつつ、銀行にAPI提供の努力義務を課した平成29年銀行法改正の立案担当者による逐条解説。

↑当局者による保険業法の解説。なお、渥美坂井MHMの任期付経験者の先生がそれぞれ単著を出されています。

↑金融商品取引法の立案担当者による解説。Legalscapeにあります(が紙で通読しています)。

↑会社法学者を中心とする金融商品取引法のコンメンタール。Legalscapeにあります。

↑資金決済法の立案担当者(堀先生はMHMパートナー)による逐条解説。令和4年改正(電子決済手段)に対応しています。

↑堀先生による資金決済法の実務解説。サービスを企画・構築するにあたって何をすればいいか的な視点で書かれています。Legalscapeにあります。令和4年改正に未対応ですが、増島先生と堀先生の共著の暗号資産の本にそれに相当すると思われる内容が書かれています。

↑貸金業法の当局者による解説。15年前に出たきりですが、金融庁のパブコメ・NAL等で引用されることも多く、事務所でも常に借りられている気がします。

↑割賦販売法の当局者による解説。同じキャッシュレスでも、前払いは金融庁(資金決済法)、後払いは経産省(割賦販売法)です。割販法は本書の版元である日本クレジット協会を通じた共同規制のような状態になっており、例えばクレジットカードセキュリティガイドラインは同協会が策定しています。経産省による逐条解説のようなものはありませんが、概要資料・FAQ監督指針を出しています。

↑犯収法の当局者による逐条解説。ただし、警察庁の通達のほうが詳しい箇所もあり、そちらも参照する必要があります。

↑法務省刑事局関係者による逐条解説。制定時(2001年)に法曹界から「組織的犯罪対策関連三法の解説」が出ていますが、入手困難であり、本書が最も入手しやすい当局者解説ではないかと思います(ちなみに2001年の解説の1人目の著者は現在最高裁第2小法廷を構成している三浦守氏であり、4人目の著者が本書の編者の加藤氏です)。金融機関に直接に関係するのは犯収法ですが、マネロンそれ自体を直接に規制しているのは組織犯罪処罰法であるため、参照することがあります。

外為法・経済安保推進法

外為法経産省の安全保障貿易管理のサイト日銀Q&Aがスタートラインです。経済安保推進法(基幹インフラを念頭に置いています)は未知の部分が多いので、法律、基本指針、有識者会議資料、政令、命令(府令、省令等。それに添付された届出書も)、解説を読み込むほかありません。

↑外為法の当局者による解説。貿易管理は経産省、対内直投は財務省が所管しており、本シリーズもそれに沿った構成になっています。ちなみに経産省と財務省でかなりテイストが違って面白いです(個人的には財務省スタイルの方が好きです)。

刑事

↑「実務で求められる技術と情熱を凝縮した刑事弁護の入門書」…というキャッチフレーズに引いてしまいがちですが、定評ある本なので弁護人をやるときはこれに従います。

↑書記官研修用の本。純粋に手続的なことが分からないときに使います。

検察については「検察講義案(令和3年版)」「検察終局処分起案の考え方(令和元年版)」が手元にあるのでそれを参照しています。終局処分のほうは市販しないようですが、記載例の参照が中心なので最新版が入手できなくてもあまり支障はなさそうです。

↑条解刑法。企業法務だと司法試験で使った本(多くの場合基本刑法)を使い続ける人が多いですが、理解のための本なので情報量は多くなく、本書を参照しています。刑法といえば大コメ、条解といえば刑訴みたいなところがありますが、条解刑法も網羅的かつ簡潔で、便利です(ただし実務家中心だからかたまに昔の判例の引用が微妙です)。

↑刑法学者によるサイバー犯罪の解説。電子計算機使用詐欺罪、電子計算機損壊等業務妨害罪、電磁的記録不正作出罪などは1987年に、不正アクセスの罪は2000年に、不正指令電磁的記録の罪は2011年に作られており、どれもそれなりに歴史があるのですが、基本書等の解説は立案担当者解説の要約と裁判例のまとめで終わっていることが多いので、本書の存在はありがたいです。

↑条解刑訴法。刑訴法についても、企業法務だと司法試験で使った本(多くの場合リークエ)を使い続ける人が多いですが、理解のための本なので情報量は多くなく、刑法と比べて必要となる場面は少ないものの、本書を参照しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?